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持続可能な暮らし、入居するだけで実現―台湾初の循環型集合住宅「Taisugar Circular Village」

持続可能な暮らし、入居するだけで実現―台湾初の循環型集合住宅「Taisugar Circular Village」

世界人口の増加に伴う資源の減少や、廃棄物増加への懸念を背景に、従来捨てられていた製品や原材料などを再活用し、資源を循環利用するサーキュラーエコノミー(循環経済)移行の必要性が高まっている。こうした中、台湾の台南市に2021年、サーキュラーエコノミーを実装した同国初の循環型集合住宅「Taisugar Circular Village(以下ビレッジ)」が誕生した。生ごみ処理機や浄化池といった設備を備え、食料や水が敷地内を循環。家電・家具や、ビレッジの建材でさえ再利用可能だ。廃棄物の発生や温室効果ガスの排出を抑制し、社会全体でサーキュラーエコノミーを実現するためのヒントを与えている。

ハエの幼虫が生ごみを肥料に

ビレッジは、台湾の国営企業である台湾糖業公司(TSC)がコンセプトを作り、九典聯合建築師事務所が設計。豐譽企業團隊と東元電機が建設に携わった。政府や学者なども開発に関わった。敷地面積はダブルスのテニスコート約54面分(13,994m2)で、総戸数は351戸(店舗除く)。リノベーションや建て替えによる環境負荷を抑えるため、全室賃貸として提供している。取材に応じたTSCのビレッジ管理担当者によると、現在は主に某半導体大手で研修中の外国人技術者が入居しているという。

Taisugar Circular Village
記事内写真は全て、TSC提供

ビレッジ内には農場があり、住民は好きな野菜や果物を育てることができる。調理で出た生ごみや食べ残しは生ごみ処理機で肥料にされ、再び作物や植物の栽培に利用される。

ビレッジで育つ作物や植物
野菜や果物を育てる住民

ハエの一種であるミズアブも生ごみの再資源化に貢献している。ミズアブの幼虫は生ごみを分解し、肥料を作り出す。肥料は公園の植物や農場に利用される。成虫になると産卵し、新たな幼虫を作る。成虫は最終的に魚のエサとなる。

生ごみを分解するミズアブの幼虫  

食料だけでなく、水も循環する。住民が使用した水や雨水は浄化処理され、中庭の池のきれいな水と交換。再び住民に利用される。池の中には水質浄化作用のある植物がおり、処理された水をさらにきれいにしている。

水を浄化する池

魚と植物を同時に育てるアクアポニックスも行っている。水槽の魚は前出のミズアブなどを食べて育つ。魚の排泄物を微生物が分解し、植物がそれを栄養として吸収。植物により浄化された水が再び魚の水槽へ戻る。水を循環させることで、使用量を格段に減らすことができる。

アクアポニックス

家電や家具は全てリース

廃棄物を減らすためには、資源を循環させるだけでなく、住民がものを繰り返し長く使うことも必要だ。ビレッジでは、各部屋の家電や照明、家具、浴槽などの設備から、エレベーター、生ごみ処理機に至るまで、全てリース契約を結んでおり、部品の交換といったメンテナンス費用や故障時の修理代は提携企業が負担している。

これにより、引っ越しに伴う廃棄物の発生を抑えられるだけでなく、住民は購入や修理、廃棄にかかる費用を払わずに済む。さらに、企業は修理の必要性を減らすため、より品質の高い製品の開発に注力するようになる。

線路や廃棄木材も活用

建設業界は多くの廃棄物と温室効果ガスを排出する。環境省の報告書によると、日本の建設業が令和2年度に排出した産業廃棄物は全体の約21%を占め、電気・ガス・熱供給・水道業に次いで2番目に多かった。

エレン・マッカーサー財団のまとめによると、建物が取り壊されると、建材の大半が埋め立て処分されており、欧州連合(EU)では建設・解体による廃棄物の重量は、総廃棄物量の約 3 分の 1にものぼる。建物の建設・改修により排出される温室効果ガスは、都市の総排出量の11%を占めており、その殆どはセメントや鉄鋼、アルミニウム、プラスチックの生産によるものだという。

ビレッジは建物自体、すなわち建材もなるべく再利用・リサイクルできるようにしている。例えば、リサイクルが難しい複合材ではなく、単一の素材から作られた建材を極力採用。フローリングは接着剤を使わず、ただ置くだけにするなどして、将来分解・再利用しやすいようにしている。

また、それぞれの建材の耐用年数(例:間仕切り10~30年、構造50~100年、基礎 100年)や使用箇所といった情報をデータベース化している。これにより将来、まだ使える建材を使い続ける一方、寿命を迎えた建材だけを取り出して、新しいものと交換することが可能になる。

建築段階からリサイクル建材も一部使用しており、入口のフェンスや屋外の水栓柱には、役目を終えた鉄道の線路を再利用。表札や一部の屋外家具(ベンチなど)には、病害や暴風の被害を受けて廃棄された木材が使われている。

鉄道の線路で作った入口のフェンス

2万トンの二酸化炭素削減を見込む

こうした方法で廃棄物の発生を抑えながら、温室効果ガスの排出削減にも注力している。ビレッジではスマートグリッドにより、再生可能エネルギー(太陽光)由来の電力を、需給をリアルタイムに把握して効率的に供給。大気中の熱を集めて移動させるヒートポンプシステムを導入し、少ないエネルギーで部屋を暖めている。TSCは、ビレッジの二酸化炭素の総排出削減量は、今後60年間で2万トンに達すると予想している。

ビレッジを構想した理由について、同社の担当者は「台湾でサーキュラーエコノミー移行を促進するため」だと語る。台湾は日本と同様、天然資源に乏しく、エネルギー資源や原材料の殆どを海外からの輸入に頼っている。このため、企業は経済を発展させながら、資源の浪費を抑える必要がある。台湾はサーキュラーエコノミー移行を国家戦略として掲げており、TSCは国営企業としてそれを実現する使命を負っている。

ビレッジの夜景

ビレッジは2018年、世界の優れた建築物を表彰するWorld Architecture Festival(WAF)Award(英建築メディアemap主催)にノミネートされたほか、建築関連の賞を多く受賞している。同社はビレッジについて「住居以上のものを提供し、住民同士が交流しながら持続可能な暮らしを体験できる場所だ」と説明。運営面の課題を抱えているものの、「建設業界のイノベーションや、循環型住宅・都市への移行を促進し、台湾の建設業界の競争力を高める」との期待を示している。

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