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【無印良品と持続可能性】社会貢献はあくまで生活に溶け込むように 40年以上前からサステナビリティを追求し続けた想いとは?良品計画ESG推進課 阿南理恵さんインタビュー

【無印良品と持続可能性】社会貢献はあくまで生活に溶け込むように 40年以上前からサステナビリティを追求し続けた想いとは?良品計画ESG推進課 阿南理恵さんインタビュー
2024年9月にオープンした無印良品 唐津。自社でゼロから建設した環境配慮型の木造店舗
提供:良品計画

無印良品はシンプルでありながら利便性の高い商品が特徴的で、多くの人に支持されています。 しかし、実は40年以上前からサステナビリティを徹底し続けたブランドでもあり、SDGsが普及する前から社会活動に積極的でした。

無印良品はどのような形でサステナビリティを追求してきたのでしょうか。 その経緯やSDGs普及による変化、今後の目標などを経営企画部部長(広報・ESG経営推進担当)兼ESG経営推進課長の阿南理恵(あなん えり)さんにお伺いしました。

40年以上前から持続可能性を追求 無印良品のものづくり

――ブランド創生以来から「社会や人の役に立つ」を軸に「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」という視点でサステナビリティの先駆けとも言えるものづくりを続けてきた無印良品ですが、これらの方針が決まった経緯を教えてください。

無印良品が誕生した1980年当時は、大量生産・大量消費の時代に入り、商品の在り方が二極化していました。 ひとつは海外ブランドを中心にブランド名が商品に入るだけで価値が高くなるという在り方。 もうひとつは安い素材の使用や生産プロセスの簡略化によって、低品質な商品を大量に生産するという在り方です。

この状況に疑問を感じた無印良品の創始者、堤清二は「適切な価格でお客様の暮らしに役立つ品質を提供してこそ、商品のあるべき姿ではないか」という想いを込め、無印良品を立ち上げました。 そのため、創業時から「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」という3つの視点を持ち、シンプルでありながらお客様の満足につながるものづくりを心がけています。

その具体例が、当時の代表的な商品と言われる「こうしん われ椎茸」です。 こちらは「見た目と形がよくなければ売れない」と考えられていた時代に、不揃いや割れた椎茸を販売した商品で、見た目が悪くても切って使ったり、ダシをとったりするなら十分だという新たな価値観に加え、大きさを揃える、割れたものを除外するなど製造工程を省略し、低価格を実現しました。

無印良品の代表的な商品の1つ「こうしん われ椎茸」
提供:良品計画

他にも、無印良品が販売するメモ用紙の多くは、白ではなくベージュに近い色を採用していますが、これもブランドの在り方が関係しています。 まず、紙を白くする漂白剤は環境に負担を与えるもので、そもそも「メモ用紙は白であるべき」という考えも固定概念でしかありません。 だとしたら、そういう価値観を変えつつ、結果として環境や社会にいい影響を及ぼす商品を提供していきたい。 そんな想いと商品の在り方が無印良品のものづくりの根底にあります。

無印良品の商品はどれもシンプルでありながら暮らしに役立つ品質が保たれている
提供:良品計画

これは現在も続いていますが、当時は持続可能性という言葉すら使われていませんでした。 しかし、SDGsやサステナビリティといった今に通ずる思想が、40年以上前の創業時からあったのだと思います。

SDGs普及で無印良品は時代に取り残された?

――大量生産・大量消費の時代に、持続可能性を重視したコンセプトは珍しかったと思いますが、消費者に受け入れられる確信があったのでしょうか。

当時の反応ですが、これまで無印良品は持続可能性や環境に配慮している点を強く押し出すようなアピールは行っていなかったこともあり、そういったお客様からの反応を意識していませんでした。 積極的にアピールしなかった理由としては、商品はあくまで生活の中で必要としていただき、結果として環境や社会にいい影響を及ぼすものづくりでありたい、というポリシーがあり、社会活動を押し出して消費を煽るべきではないと考えていたからです。

ただ、商品に魅力がなければ選んでいただけないので、デザインやコピーには力を入れていました。 創業時から各領域のデザインクリエイターの方にアドバイスをいただける体制をとっていたことで、商品そのもののクオリティだけでなく、ビジュアル表現や伝え方の質も保証され、お客様にご選択いただけたものと確信しています。

ちなみに、無印良品の思想に共感いただき、ご協力いただいたクリエイターの方々はアドバイザリーボードという形で、現在もご参加いただいています。

――SDGsの普及によって意識が高まった人も増えたと思いますが、それによって無印良品のサステナビリティの視点に何か変化はあったのでしょうか。

SDGsが誕生する前から、今と同じ思想があったため、変化はそれほど感じていません。 店頭でお客様に商品の説明をするときも、SDGsに当てはめてコミュニケーションを取ることはなかったため意識していませんが、あえて言うなら環境配慮に関するお問い合わせが少し増えたようなイメージはあります。

しかし、SDGsの認知拡大によって、サステナビリティの先駆者と自負していたつもりが、時代に取り残されてしまったような感覚に陥ることもあります。 と言うのも、SDGsの明確な目標とカラフルなアイコンは分かりやすく、それを通して説明した方がコミュニケーションコストも下がるだろう、と感じていたのですが、実際に上手く活用する企業も増えたからです。

無印良品の店舗ではSDGsを謳って消費者とコミュニケーションを取ることはなかった
提供:良品計画

そうなると、私たちは時代に流されることなく、ずっと同じ価値観のまま続けてきたつもりでも「無印良品はサステナビリティに取り組んでいない企業」と受け取られてしまう場面もあり、そこは反省点として、ものづくりを強化すると同時に、今の時代に合ったコミュニケーションを検討しています。

具体的には、環境配慮や社会貢献の取り組みをWebで開示するなどが挙げられますが、どんなに良いものを作ってもお客様の目に留まらなければ意味がないので、消費を煽らず適切にお伝えするよう心がけています。

――2021年に第二創業を掲げたことも、サステナビリティの視点に影響があったのでしょうか。

第二創業を経て大きく変わった点の1つは、無印良品が持つサステナビリティの視点を発信するためにも、私が所属しているESG経営推進課ができたことです。 無印良品は食品から生活雑貨、衣服雑貨を主にさまざまな商品を展開していますが、担当する部署ごとにサステナビリティを追求することはあっても、それを束ねて外向けにコミュニケーションを取るチームは存在しませんでした。

しかし、ESG推進課がそれを担うことで、無印良品が持ち続けていた思想を適切に発信しつつ外の情報も取り入れ、第二創業の成功を目指したいと考えています。

無印良品の取り組みと今後の挑戦

――衣料品の再利用、原材料調達における環境配慮、地域社会とのつながりに関する取り組みも教えてください。

衣料品の再利用に関しては、ReMUJI(リムジ)という取り組みがあります。 こちらは、着なくなってしまった衣服を回収し、リユース、もしくはリサイクルによって再循環させていく取り組みとなり、2015年から開始しています。 まだ利用できそうな衣服は、染め直しやつなぎ合わせるなど手を加えた上でリユース。利用が難しそうであれば、さまざまな原料としてリサイクルするといった方法で、衣料廃棄の削減を目指しています。

ReMUJIによる衣服回収の様子
提供:良品計画

原材料調達における環境配慮は、衣料品において特に使用量の多い綿とパーム油のトレーサビリティ確保に力を入れているところです。 どちらも生物多様性の保全に配慮し、綿はオーガニックコットンを使うことで農薬の利用を避け、パーム油は最終的に認証を得たものに切り替えるため、使用状況の調査を進めています。

他にも、持続可能性の高い植物繊維として知られるカポックの利用も進めています。 カポックは収穫の際に幹を伐採する必要がなく、農薬や肥料も不要なことから環境負荷が低いというメリットがありますが、繊維長が短いために糸が切れやすいという難点がありました。 しかし、衣料品として利用するための技術が確立され、品質も問題ないと判断されたため、少しずつ使用量を増やしています。

無印良品が調達しているオーガニックコットン
提供:良品計画

木材に関しても、クリーンウッド法をはじめとする、各国の環境法令に沿って、調査と自己評価を実施し、違法伐採に関わるものは利用しないよう努めています。

地域社会とのつながりについては、各自治体や地元住民が主役となり、それに無印良品が巻き込まれる形で地域の活性化を目指す取り組みを続けています。 例えば、店舗を出しても地域が続かなければ意味はなく、だからと言って唐突に無印良品の取り組みに協力を求めても応えてもらえません。 そのため、無印良品の取り組みを押し付けるような形ではなく、地域が既に行っている取り組みに対し、私たちが何かサポートできないか、巻き込まれるような形で協力させていただいています。

――今後、サステナビリティを強化する上で、挑戦したい取り組みはありますか。

やはり資源循環に関しては、さらに力を入れたいと考えています。 資源は有限なので、単純に資源を消費して生産する製造小売ではなく、これからは販売したものは責任を持って回収し、可能であれば付加価値を持たせて再び提供できる形に。それが難しいのであれば原料に戻し、再循環させることが理想です。

まずは、回収作業を全店舗で行いたいところですが、循環の拠点も各所になければ輸送コストの問題も発生します。 それを地域分散で確立するなど、資源循環を徹底する仕組みづくりは、今後の大きなトピックスであり、挑戦領域です。

参考:無印良品 無印良品のリユース・リサイクル

変わらないスタイルで「サステナビリティの民主化」を

――無印良品では「サステナビリティの民主化」を掲げていますが、これにはどのような想いが込められているのでしょうか。

「サステナビリティの民主化」は私たちによる造語で、無印良品の商品を通じて環境負荷の軽減を日常生活に溶け込む形で実現し、これを広く普及しよう、という意味が込められています。 私たちが環境や人権といった配慮にこだわったものづくりに力を入れれば、商品に魅力を感じて選んでくださったお客様も、知らぬ間に社会課題の解決に貢献している。

そういった形が目指すところではありますが、これだけでは消費者が日常的に社会課題を意識するような、行動変容にはつなげられないとも考えています。 同時に実現するためにも、商品を通した社会課題の解決と、消費者の行動変容につながる発信の二側面から、サステナビリティの民主化を目指したいと思います。

――サスティナビリティの民主化を普及する上で、難しいと感じている点はありますか。

先ほどもお伝えした通り、伝えることの難しさは本当に大きな課題です。 SDGsが広く認知されて以降、そういった意識が高いお客様も増え、これからも手を緩めずにやっていかなければ、と気を引き締める部分もありますが、アピールの方法を間違えるとSDGsウォッシュのような動きになってしまうかもしれません。

それが一番よくないことですが、無印良品は創業から44年間、サステナビリティを徹底する考えを遺伝子のように持ち続け、その想いを経営層から社員まで全員が持っている、珍しい会社だと思うので、そこは適切に伝えていかなければと思っています。

もしかしたら、SDGsをコミュニケーションに使い、それを前面に押し出せば、さらに利益は上げられるかもしれない。 しかし、それは今まで持ち続けていた私たちのポリシーに反することです。あくまで生活に溶け込むように、社会を感じ良く変えていく。 そんな無印良品らしさを保ちながら、サステナビリティの民主化の実現を目指していきます。

阿南理恵(あなん えり)
良品計画 経営企画部長(広報・ESG経営推進担当)。製薬会社、水インフラ企業の広報・CSRを経て、2021年良品計画入社。ESGのトップランナーを目指して立ち上げ期のESG推進組織に参画。創業からの強みであるESG視点に磨きをかける複数のESGプロジェクトを推進し、全社委員会(ESG推進委員会)をスタートさせる。情報発信にも力を入れ、会社初の統合報告書「MUJI REPORT」も発行。

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