エシカル企業の代表「ラッシュ」が語る環境保全・リサイクルの信念

エシカル企業の代表「ラッシュ」が語る環境保全・リサイクルの信念

地球温暖化を始めとする、様々な環境問題が騒がれる中、多くの企業がリサイクルやサスティナビリティを意識した取り組みを行っています。
SDGsが2016年に世界的な広がりを見せ、さらにその傾向は強くなりました。
世界中の企業がSDGsを意識する中、SDGs登場のはるか前から、環境問題やリサイクルを熱心に取り組んでいたのが、化粧品メーカーである「ラッシュ (LUSH) 」でした。
エコトピアでは株式会社ラッシュジャパンのアースケアチームの窪田とも子さんにインタビューを行い、ラッシュが取り組む環境問題やリサイクルについてお話を伺いしました。

ラッシュの理念とSDGs

インタビューを受けてくださった、窪田とも子さん。
株式会社ラッシュジャパンのアースケアチーム所属。

――ラッシュと言えば持続可能な社会を目指す企業として広く知られていますが、何かきっかけがあって、そのような取り組みを始めたのでしょうか。

共同創立者のマーク・コンスタンティンが若い頃から、動物や自然を愛していたので、自然に彼が育つ家庭環境や、仕事を続けていく中で、自然と環境に対する思いは芽生えて行ったのではないか、と考えています。
文章として明文化されたのは、ラッシュの前身となる「COSMETICS TO GO」の会社規定10箇条で「環境に責任を持つ」と謳われているので、ここが初めてだと思われます。そして、そのままラッシュの理念になった、と考えられています。

――環境や人権を含め、多くの問題を解決するための目標として、2016年から世界的に始まったSDGsについてご質問です。SDGsはラッシュが取り組んできた問題をやっと世界が重要視し始めた、という見方もできると思いますが、SDGsの登場をラッシュが意識することはあったのでしょうか。

私はアースケアの部署に異動するまで、SDGsという言葉を知りませんでした。異動したのは2017年のことで、そのときに初めてSDGsの存在を知りました。
なので、ラッシュ全体でSDGsを意識した、ということはなかったと思います。他の企業であれば、SDGsのターゲットに従って目標を設定すると思います。しかし、ラッシュでは今まで通りの理念を元にして行動をすれば、結果的にSDGsと結びつくことになります。なので、今のSDGsを意識して商品を作る、ということもありません。

――SDGsが登場する前に発売された商品で、例を挙げるとしたら、どんな商品がありますか?

はい。2007年に発売開始した「チャリティポット」が例になるかもしれません。
この商品は消費税を除く売上の全額を草の根団体に寄付しています。その支援先がSDGsと結び付くような取り組みを行っていることもあるので、結果的にラッシュも結びつくことになります。もちろん、チャリティポットによる寄付だけではなく、私たちの販売活動も結果的にSDGsに結び付くものだった、ということは多いですね。

チャリティポット。
消費税を除く売上の全額が草の根団体に寄付される。

――結果的にSDGsと結び付くだけであって、今も「SDGsのターゲットを意識して商品を作ろう」という話はない、ということですね。

そのために商品を作っているわけではありませんからね。今まで通りの信念に基づいた行動を取っているだけであって、そういうものに縛られることもありません。

――SDGsが登場する前から積極的にそういった取り組みを行っていることを考えると、時代の方がラッシュに追いついたとも言えますね。

そう言って頂けると大変嬉しいですね(笑) もちろん、SDGsに対して無関心というわけではありません。私たちも活動する上で、SDGsという言葉は入ってくるので、関連する情報はキャッチしています。

まずは米作り?原料調達と環境保全

――環境保全に関する最近の取り組みは、どのようなものがありますか?

環境保全と言っても、生物多様性の保全や温暖化の防止など様々ですが、そんな中で私たちが大事にしていることがあります。それは再生可能な原料や資材を調達する、ということです。
ラッシュの商品は新鮮な野菜や果物を使用しますが、やはり気候変動に左右されてしまいます。それを考慮すると、自然と人との関わり合い方を見直し、自然資源の調達において根本的に変わらなければ、私たちのビジネスが大きくなるほど、事業の継続は難しいと思っています。
少し前までは「サスティナブル(持続可能)な調達」を目指していましたが、今のように、これまで人類が経験したことないスピードで世界中の様々な場所で自然が衰退している中で、今考えられる「持続可能性」だけでは十分ではない、という考えに至りました。
もっと積極的に地域を生かし、元来持っている多様性ある資源活用や、活動をサポートしていかなければ、上手く原料調達が続けられない、と考えて今目指しているのが「リジェネレイティブバイイング(Regenerative Buying)」です。

――聞きなれない言葉ですね。

日本語に直訳すれば「再生可能な購買」「再生可能な調達」という意味になります。これには、自然の恵みを大切にし、それを商品化してお客様にお届けしたい、という気持ちがあります。

――具体的には何を行われているのですか?

いくつかのテーマ性にわけて活動をしているのですが、それらの活動の一つとして渡り鳥のルートに注目したプログラムを進めています。

――鳥ですか?

はい。一生懸命、鳥を追いかけています(笑)
なぜ、渡り鳥なのかと言うと、渡り鳥の生息環境や生息数は、環境変動の指標の一つだと考えているからです。渡り鳥には基本ルートがあり、人と異なり国や地域を自由に横断し種の存続を続けています。ルート上にその渡り鳥に適した環境の変化がおこれば最悪の場合、種の減少や絶滅の危機が訪れます。グローバル化する環境問題をみるときに横断的な環境対策が必要でそれらの指標のひとつになると考えています。 渡り鳥が毎年飛来できるような環境創出をすることは自然と人の関わりあい方を見つめなおす第一歩になるともいえます。

また、環境とは違いますが「移動の自由」もラッシュの信念として採用しています。UKではブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)により、移動の自由が損なわれ、家族が分断される、というケースもあります。移動の自由を主張する象徴という意味でも、自由に土地を行き来する渡り鳥に焦点を置いています。

――そんな深い意味も込められているのですね。

他にも、渡り鳥のプロジェクトは、自然だけではなく、そこに暮らす人たちの経済の循環も見据えて追求しています。周辺の地域コミュニティーも活性化して再生する。そこまで循環できる取り組みを目指しています。
そんな活動のうちの一つが、3月から始めた三浦半島のサシバに関する取り組みです。
その活動地は、弥生時代から里山のような環境があり、昔から田んぼがあったと言われています。かつて、そこにはカエルやバッタ、ヘビがたくさんいたので、それを餌としてサシバが飛来していました。しかし、50年ほど前から開発やライフスタイルの変化などから急激な環境変化がおこり、餌となる生物が減少したことがサシバが営巣しなくなった一因だと考えられています。 それで、サシバが戻ってくるように、この土地の再生を試みています。

――渡り鳥を呼び戻すための活動というのは、なかなか想像できないのですが、今は具体的にどのようなことをされているのですか?

まずは開墾です。地元のボランティアの方々やNPOの方たちと一緒に活動し、笹薮だった場所を開墾するために土を掘ったり(笑)
先週は畦(あぜ)を作るところまで進みました。次は水を張って、水平に均すという作業を行う予定です。

――本格的ですね!とても化粧品の企業とは思えないような…(笑)

田んぼを作ることは、ラッシュの原料の調達とは無関係ではないのです。私たちが作った里山でお米が収穫されれば、米粉を使った商品の原料にもなる予定です。
実際に米粉を原料にしたフェイスマスク「ドント ルック アット ミー(Don’t Look At Me)」という商品があるのですが、ここで収穫したお米から米粉を取って、この商品の原料にしよう、という話も出ました。
「ドント ルック アット ミー」を製造している部署の人間も、田んぼ作りには参加していて、商品を原料から作れることは誇らしいという声もあります。そこまで突き詰めることも、社員の自信につながっているようです。

他にも、稲わらの繊維を取り出してペーパー化した「サシバボックス」というギフトボックスや、米ぬかを原料とした洗顔料「ハーバリズム(Herbalism)」という商品も存在するので、田んぼ作りは活かせると思います。
私たちが参加することで里山環境が再生し、サシバが戻ってくる。原料も付加価値のある形で提供してもらえて、地域も活性化する。最終的に、そういう循環を作ることを目指しています。

――何とも壮大な…。これは、ぜひ多くの人に知ってもらいたいですね。

そうですね。里山からの恵みを利用した商品は既に販売されているので、それらを通してサシバを指標にした活動が広まると良いな、と思っています。

参考:ラッシュ公式サイト 渡り鳥プロジェクト – サシバを追え!

ラッシュとプラスチック

――今、世界中でプラスチックごみが大変な問題になっていますが、ラッシュでは10年前からプラスチックの削減を意識していたと思います。これまでの、プラスチックへの取り組みを教えてください。

まず私たちの考え方は、プラスチックだけではなく、ゴミになってしまう「パッケージそのものをなるべく排除しよう」というものです。理想はパッケージを必要としないネイキッド(裸)な商品です。

――代表的とも言える商品、バスボムもパッケージに入れられず、店頭に置いてありますが、あれがネイキッドな商品ですか?

あれですね。

写真提供:株式会社ラッシュジャパン
ラッシュの人気商品バスボム。
店頭でもパッケージのない状態で販売されている。

――しかし、ソープのような液体の商品なんかはどうするのでしょうか?

液体などネイキッド化が難しい商品は、プラスチックを利用しない、100%リサイクル材の容器を使うようにしています。
最近では、ポッドやボトルに入っていた液体の商品もネイキッド化することを心がけています。

――液体の商品がボトルに入っていないって……これもまた想像がつきませんね(笑)

例えば、ボトルに入っていた液体ソープは、固体化して店頭に置いています。

右が液体の商品を固体化したもの。
ボトルの形をしたネイキッド商品。
※父の日限定アイテム。

このようにボトルの形をイメージしています。
パッケージを脱ぎ捨てたネイキッドの取り組みが、お客様にも伝わりやすいように、このような形としています。

基本的に、海外だとネイキッドで商品を展開しているのですが、日本では薬機法の関係でネイキッド販売ができませんでした。2016年3月にネイキッドにすることができました。最初は一部の店舗のみでしたが、今では多くの店舗でネイキッド化した商品を展開しています。

さらに、通信販売から出荷する商品もネイキッド梱包になっています。これはなかなかできないことだと思います。緩衝材もコーンスターチ由来の生分解性のもので、プラスチック製のものは一切使っていません。

――パッケージに入っていない商品は受け入れられない、という人も少なくないと思うのですが、ネイキッド化した商品に対しては、どのような反響があったのでしょうか?

ネイキッドの取り組みに関しては、ポジティブな意見もいただきますが、やはりパッケージがないことをネガティブに考えるお客様もいらっしゃるようです。ただ、ネイキッド化したことで商品を手に取ってもらいやすくなったので、それは成果と言えます。
あと、お客様よりも他の企業様から、そういう取り組みは良いよね、とお褒めの言葉をいただくことは多いかもしれません。

――ネイキッド化できない商品の容器についても、どのような対策をしているのか教えてください。

ラッシュが容器に関して心がけているのは、できるだけお金をかけず、その分のコストを中身の成分にかけることです。だから、容器のデザインはシンプルなんです。そして、バージンプラスチックを使わず、クローズドループのマテリアルリサイクルを行うことです。
使用済の容器は店頭で回収を行っています。回収した容器は、リサイクル樹脂の業者に出してペレット化し、成型業者に射出成形していただき、商品の容器として戻ってくる。そんなクローズドループによって、容器が廃棄物にならないようにしています。

――これはいつ頃から取り組まれているのですか?

2008年に100%リサイクルの輸入容器の使用を開始しています。2010年からは100%国産リサイクル樹脂による容器の使用を開始して、6月にPP(ポリプロピレン)材のブラックポットの店頭回収を開始、2012年の7月からクリアボトルの店頭回収を始めました。
当初は7~8%の回収率でしたが、徐々に上がって今はだいたい30%です。

さらに、2017年からはブラックポットの減容化も開始しています。PP材はリサイクルを繰り返すと、熱による劣化で壊れやすくなりますが、市販の飲料用のエコキャップを混合して強度を上げています。その混合率の上昇を一生懸命やっていて、現在は混合率が最高40%となりました。

――空容器のリサイクルについても、かなり研究されているのですね。

空容器のリサイクルは、ラッシュがやっている、と言うより成形業者さんが私たちの趣旨に賛同してくださって、協力していただいてる、と言った感じです。再生樹脂は成形しにくいので、やりたくない業者さんの方が多いと思います。しかし、その中でも努力してくださって、協力していただいています。

イチ押し商品

――イチ押しの商品があれば教えてください。

やはり、ネイキッドの商品がイチ押しです。シャンプーバーという商品があるのですが、持ち運びも便利なサイズですが1個で80回相当使えます。

ネイキッド商品のシャンプーバー。
これを使えばシャンプーボトルを節約できる。
※父の日限定アイテム。

80回分となると、ボトルシャンプーの3本分に該当するので、これを使っていただければ、プラスチックも節約できるのでイチ押しです。

これはメイクを落とせるクレンジングや、保湿できるフェイシャルオイルとして利用できるスキンケアの商品ですが、スキンケアで固形の商品と言うのは珍しく、新しいと思います。

珍しい固形のスキンケア商品。

他にも、メイクアップ商品のパッケージレスを目指していて、ファンデーションやコンシーラーなども取り組んでいます。

――割れやすいファンデーションをどうやってパッケージレスにしたのでしょうか?

ファンデーションもリキッドを固形化しています。アーモンド形のチョコレートのような見た目をしていて、下部がビーガンワックスになっているのですが、ここを持ってファンデーション部分を直接肌に滑らせます。この形状であればファンデーションもパッケージなしで販売ができます。

写真提供:株式会社ラッシュジャパン
アーモンド形の固形化したファンデーション。

――ファンデーションまでネイキッド化するのは「まさか!」って感じですね。

そういう固定概念に囚われない方が、何かを変えていけると思います。そこはブランドの責任として、追及しているところです。

今後の取り組みについて

――日本はヨーロッパに比べると、環境問題やエコに対して意識が低い印象がありますが、そういったものをどうやって広げて行こうとお考えですか?

お客様に対して、無理にそういう話を聞いてもらおう、ということはしていません。ほとんどは商品と絡めて、そういった問題をお話しできれば、と思っています。
例えば、2018年は6月8日の世界海洋デーに合わせて、海洋プラスチックキャンペーンを行いました。このときにウミガメの形のバスボムを販売したのですが、これを使うとお腹の部分から、白いカンテンが出てくるようになっています。

ウミガメの形をしたバスボム。
使い切ると白いカンテンが出てくる。

このカンテンはプラスチックを連想させるもので、ウミガメがプラスチックを誤食して、死に至ってしまう問題をイメージして作られたものです。
このように、今起こっている問題と商品を絡めることは、店頭でお客様が商品を取った時に、分かりやすくお話ができるように、という意図があります。商品を使うと同時にそういった環境問題を考えるきっかけになれば、と思っています。

――では、最後の質問です。今後、どのような取り組みを行っていきたいですか?

これといったものは定めていないのですが、環境に関する出来事を出し合って、実際に体験できるようなことを考えたいです。それに、スタッフがなるべく自然に参加できればいいな、と思っています。自分自身が体験したことであれば、店舗のスタッフならそのままお客様に伝えられますし、製造のスタッフもそういう経験を活かして作ることで、一味違った展開ができるのでは、と期待しています。ある部署だけがリードしているのではなく、全員で巻き込んでやれるものをやった上で、お客様にも普及できたらいいな、という方向性だけ考えています。
お客様にはお店にいらした際に、商品を通じて環境問題を知って考えるきっかけになっていただき、よりブランドを理解していただくことができたら、と思います。

インタビュー後

インタビュー後、この取材にご協力くださった、ラッシュジャパンPR担当の澤地さんからお土産をいただきました。

画像左のシャンプーバーは父の日限定アイテム。

中にはインタビュー中にも登場した、シャンプーバーやウミガメのバスボムなど。
インタビューに対し、丁寧にご対応いただいた上に、お土産までいただけるなんて、ラッシュジャパンの魅力がさらに伝わってきました。
ご協力いただいた、窪田さん、澤地さん、本当にありがとう御座いました。

また、2019年6月1日からアジア最大規模となる「ラッシュ 新宿店」がオープンしました。
ぜひ新店舗でラッシュの世界を体感してみてください。

今回ご紹介した商品(一部)は店舗だけでなくこちらからも購入が可能です。
https://jn.lush.com/

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