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漁業における海鳥の混獲、対策はまだ不十分=サプライチェーンや消費者も連携を 国際環境NGOバードライフ・インターナショナル 鈴木 康子氏

漁業における海鳥の混獲、対策はまだ不十分=サプライチェーンや消費者も連携を 国際環境NGOバードライフ・インターナショナル 鈴木 康子氏

一生のほとんどを海上で過ごし、魚などを食べて生きる海鳥。えさを採る際に漁業者が仕掛けた網や釣り針に偶発的にかかってしまう「混獲」により、毎年多くが命を落としている。鳥類やその生息環境の保全に取り組む国際環境NGOバードライフ・インターナショナル(本部:英ケンブリッジ、以下バードライフ)で海洋・海鳥保全プログラムオフィサーを務める鈴木 康子(すずき やすこ)氏は、一部の漁業者が世界各地で、混獲の削減に取り組んでいるものの「世界的に対策実施はまだ不十分」だと指摘。問題解決には漁業者だけでなく「サプライチェーンや消費者の連携も不可欠」だと訴える。

刺し網漁では推定年40万羽が混獲死

漁中に漁獲対象外の生物がかかってしまう混獲は、世界中の海で、さまざまな漁法で起こっている。海鳥だけでなく、ウミガメやイルカなどの生物が無駄に命を落としている。

各漁法による海鳥の混獲(記事内写真はすべて、鈴木氏提供)

例えば、一本の縄(幹縄)にえさと釣り針を付けた縄(枝縄)を多数垂らし、マグロなどを獲るはえ縄漁では、アホウドリやミズナギドリ といった海鳥が、枝縄に付いているえさを狙って釣り針にかかり溺死している。枝縄は適切な対策を取らなければ、ゆっくりとしか海に沈まない。このため、縄に付いたえさが海面付近を漂っている間に海鳥がかかり、縄が沈んでいくときに一緒に引きずり込まれてしまう。

魚の通り道に帯状の網を張り、網目に刺さった魚を獲る刺し網漁では、ウミスズメやペンギン が、えさを採るため潜水した際に網に絡まり溺れ死んでいる。

刺し網漁で混獲された海鳥のビロードキンクロ

バードライフの研究者らによると、はえ縄漁では世界全体で年間16万羽~32万羽が混獲で命を落としており、刺し網漁では少なくとも40万羽の海鳥が死んでいると推定されている。

外来種や気候変動も海鳥減少の主因

海鳥は鳥類の中でも近年、急激に数を減らしており、海鳥全359種の約3分の1にあたる110種が、国際自然保護連合(IUCN)の評価基準で絶滅の危機にさらされている。

さまざまな要因があるが、鈴木氏は「混獲の影響はかなり大きい」と指摘する。バードライフの科学者が主導し、英南極観測局や米ワシントン大などと共同で実施した研究によると、18の要因のうち「外来種(による捕食)」、「混獲」、「気候変動」が海鳥減少の主因であることが判明した。それぞれ、全種の46%、28%、27%に影響を与えている。

特にアホウドリは、混獲による被害を最も受けている。「はえ縄漁が行われる海域とアホウドリの生息域の重なりが大きい上、20~30キロメートル離れたところからえさを嗅ぎつけられるほど嗅覚が鋭いため、海面に浮いているえさに寄ってきやすい」(鈴木氏)ことが要因だ。海鳥の多くは卵を少ししか産まないため、たとえわずかな数がいなくなっても、絶滅のリスクは高くなる。

海鳥が減ることにより懸念されるのが、海洋生態系への影響だ。鈴木氏は「海鳥のふんが海の生態系を豊かにすることが分かっているが、その恩恵が失われる可能性がある」と指摘する。

英ランカスター大の研究者らが科学誌ネイチャーに発表した論文によると、海鳥が集団繁殖する島で出すふんに含まれる窒素が近海に溶け出してサンゴ礁の養分となり、サンゴ礁に暮らす魚が早く大きく育っていることが判明。北海道大の調査では、ウミネコの一大繁殖地である利尻島で、ウミネコのふん中の窒素が付近の昆布の生育を促していることが示された。混獲を減らさなければ、海鳥が減少して生態系のバランスが崩れ、繁殖地周辺の動植物の成長にも悪影響が及ぶ可能性がある。

はえ縄漁では対策や規制が確立

赤い吹き流しを付けたトリライン

こうした中、一部の漁業者は混獲を削減するため、世界各地でさまざまな対策を行っている。例えば、はえ縄漁では、日本の漁業者によって考案された「トリライン」と呼ばれる鳥よけが使われている。漁船から鳥が嫌がる吹き流しやテープを付けたロープを張り、海鳥が漁具に近づけないようにする仕掛けで、比較的安価な上、混獲を減らす 効果が高いことで知られている。

バードライフの報告書によると、ナミビアでは政府がトリラインの使用を義務付けたことで、海鳥の混獲死亡率が約98%低下した。はえ縄漁ではトリラインのほか、海鳥が活発でない夜間に漁具を仕掛ける「夜間投縄」や、枝縄におもりを付け、海鳥が届かない深さまでえさと釣り針を素早く沈めることで、海鳥がかかるリスクを減らす「加重枝縄」という措置も、効果の高い対策として国際的に認められている。世界のマグロ漁業を海域ごとに管理する5つすべてのマグロ類地域漁業管理機関(RFMO)は、はえ縄漁の際、海鳥の混獲が多発する操業域でこれらの対策を講じることを義務付けている。

フックポッド

一部のはえ縄漁では最新技術も導入されている。ニュージーランドの漁船は、海鳥が届かない水深に到達するとえさの付いた釣り針を放つ「フックポッド(釣り針を収める容器)」という小型の器具を枝縄に装着し、海鳥の混獲をゼロにすることができた。フックポッドは同国と欧州連合(EU)で特許を取得しており、オーストラリア、ブラジル、南アフリカで行われた試験では19回の出漁中、フックポッド不使用時は海鳥の混獲死が24羽に達したのに対し、使用時にはわずか1羽に抑えられた。漁獲率には大きな違いが見られず、漁業に支障をきたすことなく、海鳥を守ることに成功した。

刺し網漁の混獲対策には課題

海中に大きな袋状の網を投入し、船で引いて入った魚を捕獲するトロール漁でも、トリラインが有効利用されている。多くの海鳥が、網を引っ張るケーブルに衝突して命を落としているが、南アフリカの漁船ではトリラインの使用により、海鳥の死亡数が導入前に比べて73~95%減少。ナミビアの漁船では、「死に至る可能性のある接触」が半減した。

一方で、刺し網漁の混獲対策に関しては「かなり難しい」と鈴木氏は指摘する。海鳥が網に絡まらないよう、網自体に工夫を施しても、海中では見えにくいためだ。海域や季節、水深によって海の明るさや濁度も異なるため、網の見え方に違いが生じ、共通で使える対策がなかなか見つからないことも要因だという。

それでも、漁業者やNGO、各国政府は世界各地で、混獲削減に向けて試行錯誤を続けている。例えば、英環境庁は2010年、刺し網漁師に対し、使用する網の一部を太く見えやすくし、明るい日中のみ漁を行うことや、網にかかってしまった海鳥をすぐに放すことなどを求める規則を導入した。これにより、海鳥の混獲が激減したという。

バードライフも混獲の削減を目指し、さまざまな活動を行っている。漁業関係者や行政への働きかけ、国際会合への参加、一般消費者向けの講演などを通じて、混獲の現状と削減の必要性を訴えてきたほか、混獲対策の開発・実施や政策提言にも取り組んできた。

日本においては、刺し網漁の混獲対策の開発を目指し、北海道北西部で検証実験を実施した。同地域にはウトウやウミガラスなどの海鳥が数多く生息し、カレイやホッケの刺し網漁やヤリイカの定置網漁が盛んに行われている。日本野鳥の会と共に、地元の漁師などの協力も得て、網を見えやすくすると思われる緑色LEDライトや、白黒しま模様の布製パネルを網に取り付けて漁を行った。

北海道北西部での混獲対策検証実験の様子

20年からは、海鳥を飼育する葛西臨海水族園でも北海道大の研究者と共に検証実験を実施している。混獲を削減する明らかな効果はまだ確認されていないものの、今後も漁業者にとって使い勝手が良く、漁に支障をきたさない対策の開発を進めていきたい考えだ。鈴木氏は「海鳥が混獲されれば、えさや釣り針が無駄になり、網から鳥を取り除く時間や手間もかかる」と述べ、対策の実施は漁業者にとってもメリットが大きいと指摘する。

水産業の透明性向上を

鈴木氏が混獲対策についてまだ不十分だと評価しているのは、一部の漁業で既に効果的な混獲回避策と国際的規制が確立されているにもかかわらず、順守しているかどうかのモニタリングが十分に行われていないためだ。「漁船上でモニタリングを行うオブザーバーが足りない」ことが一因で、公海では特に確認が難しいという。

一方で、鈴木氏は「漁業者だけにしわ寄せがいくべきではない」とも強調する。漁師が漁を行うのは、魚を食べたい消費者がいるからだ。「この問題は漁業者だけの責任ではない。消費者とサプライチェーンは知らず知らずのうちに加担している」と述べ、漁業者が適切な措置を講じられるよう、「消費者やサプライチェーンも連携し、負担を軽減することが好ましい」と指摘した。

具体的に、まず消費者が混獲問題について知り、対策を行っている漁業者が獲った魚を求める。サプライチェーンもこうした漁業者から水産物を調達する。これにより、漁業者は収入を得ることができ、対策に必要な備品などに投資できるようになる。実現するためには、消費者が店頭に並んでいる魚が混獲対策を行っている漁師によって獲られたものであるかを、商品上の表示を通じて知れるような仕組みを作るなどして「水産業の透明性を高めることが必要」だと訴えた。

鈴木 康子(すずき やすこ)
米西部の水産資源回復と海鳥保全間の軋轢(あつれき)に関する研究に10年以上従事し、2018年の帰国後から現職。漁業と海鳥の共存をめざして、日本の漁業関係者、行政、サプライチェーン、消費者への働きかけを行っている。野生生物学博士。

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