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資源循環進めるための法律ができた 動脈産業と静脈産業が連携し、高度なリサイクルに挑む再資源化事業高度化法(上)

資源循環進めるための法律ができた 動脈産業と静脈産業が連携し、高度なリサイクルに挑む再資源化事業高度化法(上)
東京都大田区のスーパーエコタウンにある高俊興業の東京臨海エコ・プラント。建設廃棄物の高度選別は全国一。リサイクル率は92%。こうした選別施設を応援できるか
杉本裕明氏撮影 転載禁止

「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案」(以下、高度化法案)という長ったらしい名前の法律が5月、国会で決議され、公布されました。廃プラスチックや希少金属を含む廃家電などを回収し、高度なリサイクルによって得られた高品質な再生資源を事業者に提供、リサイクル率を高めて資源循環を進めるのがこの法律の狙いです。事業者や廃棄物処理業者が国に計画書を提出し、認定されると、従来の廃棄物処理法による自治体の許可手続きが不要となり、国の交付金などの支援が得られます。

法律を所管する環境省は「資源循環を進めるための初めての本格法」とし、期待が膨らんでいます。これまで、廃棄物処理法によって廃棄物の処理施設の設置は自治体による強い規制がされ、それが逆に産廃業界への他産業の業者の参入を防いできましたが、この法律によって、こうした制約が大幅に取り除かれ、静脈産業は、激動の時代を迎えそうです。

ジャーナリスト 杉本裕明



法律案とは

法律は、基本方針で国として基本的な方向性を示した後、3つの環境省の認証制度に移る。

その1つは、事業者の高度再資源化事業計画を環境省が認定すると、廃棄物処理法が定めた県の許認可手続きを免除される。ただし、認定の条件として、環境省の定めた基準をクリアし、事業者はミニアセスを行い、公開。環境省は該当市町村の意見を聴取し、利害関係者の意見を聞くことになっている。

2つは、処理業者が高度分離・回収計画を環境省に出し、認定されると、業者は県から廃棄物処理業の許可を取る必要がない。

3つは、処理業者が、再資源化施設を環境省に認定してもらうと、廃棄物処理法上の県の許可が不要となる。 また、業者の施設で一定の基準以上だと環境省が交付金を出して支援する。

廃棄物処理法の自治体許認可がいらないとは

一定の条件を満たしていれば、煩雑な自治体による処分業と施設の許可手続きを免れることができる。この計画が認定されると、廃棄物処理法の許可手続きを免れるという手法は、2000年の家電リサイクル法、2022年に施行されたプラスチック資源循環促進法などに前例がある。容器包装リサイクル法(1995年制定、1997~2000年にかけ段階的に施行)で始まった個別リサイクル法は、初めて資源循環の名前を得て、ここまで来た。

経団連を中心とする動脈産業にとっては適正処理のための規制法である廃棄物処理法は厄介な存在で、経産省の圧力で廃棄物処理法の適用除外をしてきたが、小型家電リサイクル法(2012年制定、2023年施行)から、環境省の姿勢が大きく変わり、経産省に対抗する形で自ら適用除外を進めている。これは環境省が廃棄物処理業界を怖がらなくなった証でもある。

こんな取り組みが認定の対象

環境省によると、事業者が計画をつくり、環境省の認可を得るのは、

  1. ペットボトルの水平リサイクルのような製造側(動脈)が必要な質・量の再生材の確保のため、広域的な分別・収集・再資源化の事業促進(事業形態の高度化)
  2. ガラスと金属の分離、使用済み紙おむつのリサイクルなど分離・回収技術の高度化
  3. CO2削減の効果を高めるための高効率設備の導入

となっている。②③が廃棄物処理業者の分野となるだろう。環境省は「廃棄物処理法の適用を除外し、事業者がこの分野に進出しやすいし、国からの支援が望める」(中堅官僚)とメリットを語る。

交付金はGX経済移行債が頼り

実は、この法律は、GX経済移行債という「宝の山」をあてにした法律でもある。政府は、2050年のカーボンニュートラル(CO2の排出ゼロ)を達成するため、排出量取引と事業者に対する賦課金(CO2の排出量に対し、排出企業から徴収)で150兆円を見込み、それを企業のCO2削減のための投資への支援に充てる。

ただし、排出量取引は2033年度から、賦課金は2028年度からと先になるため、政府はまず、20兆円のGX経済移行債を発行し、資金を調達、補助金に充てる。大半を経産省が使うが、環境省は資源循環推進名目でGX経済移行債から2兆円を期待している。だから、高度化法はそのあてができたためでもある。

エム・エム・プラスチック(本社東京都、工場は富津市)の光学式選別装置。廃プラスチックを素材別に分けるドイツ製の装置。高度化法でこうした装置が増えそうだ
杉本裕明氏撮影 転載禁止

もちろん、大量の再生資源を動脈産業が必要とする状況が生まれつつあり、廃棄物処理業界は動脈産業の新規参入の動きも顕在化していきそうで、これまで安易な処理に安住してきた廃棄物処理業界に動脈産業に厳しい選別を受ける試練の時期が到来すると考えられる。

環境省は、資源循環の産業競争力の強化を強調

政府は3月15日、「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案」(以下高度化法案)を閣議決定し、国会に上程された。高度化法案の主務官庁である環境省は法案の背景を次のように記している。

「資源循環は、カーボンニュートラルのみならず、経済安全保障や地方創生など社会的課題の解決に貢献でき、あらゆる分野で実現する必要があります。欧州を中心に世界では、再生材の利用を求める動きが拡大しており、対応が遅れれば成長機会を逸失する可能性が高く、我が国としても、再生材の質と量の確保を通じて資源循環の産業競争力を強化することが重要です。

本法律案は、このような状況を踏まえ、資源循環を進めていくため、製造業者等が必要とする質と量の再生材が確実に供給されるよう、再資源化事業等の高度化を促進し、資源循環産業の発展を目指すものです」

補助金をねだった産廃団体と「適正処理があっての資源循環」唱えた生活ごみの団体

法案のもとになる「意見具申」を出した「静脈産業の脱炭素型資源循環システム構築に係る小委員会」は、中央環境審議会の循環社会部会長の酒井伸一前京大教授が委員長。廃棄物処理業界からは、産業資源循環連合会が室石泰弘専務理事、全国清掃事業連合会の三井弘樹会長、日本環境保全協会の曽根川紀子専務理事(事務局職員)。自治体代表が全国都市清掃会議(全都清)の金澤貞幸専務理事(元横浜市局長)。この中で発言らしい発言をしたのは三井氏(全国清掃事業連合会)一人だった。他の2人は主に国の支援(補助金等)を求めた。

大塚直早稲田大学教授「EUのように再生材のシェアを決めよ」と核心をつく意見を言った。それに対し、室石委員は「業界のCO2が減っていないので支援してほしい。人材不足で大変。災害ごみを埋め立てると大変。ご考慮を」

三井委員は「全国で800万トンの廃プラが排出されているが、資源循環の名の下に、疑わしい事件を聞く。地に足の着いた制度設計を求める。議論の大前提として、適正処理の担保で初めて真の資源循環が成立する」と正論を述べた。

学者委員らは、再生材の使用義務づけや規格化を提案した

第2回では、研究者委員から

「再生材を規格化せよ。動静脈間の消費者も使えるデータの連携が重要。静脈産業のCE(サーキュラーエコノミー)化が重要」(高岡昌輝京大教授)

「静脈が再生利用率を正確に情報とっていただかないと。電子マニフェストより少し細かいレベルが必要である。有価物についてもとらないといけないということ」(村上進亮東大教授)

第3回では

「産廃処理振興財団のさんぱいくん(産廃情報ネット:優良認定業者の情報の閲覧、許可自治体、廃棄物の種類などを条件に検索ができる)。許可情報と財務情報のみで、人権、安全性、職場環境の安全性が何もない。電子マニフェストには再生材の情報が無い」(武本佳弥委員・シューファルシ 代表取締役)

第4回では

「今回、大きな改革をすることになると思います。(法制化の)背景には、GXの2兆円が関係している」(大塚教授)

「認定受けた産廃業者はハードルを低くする対応があっていい」(室石委員)

「再生材の認証制度が今後必要になってくる。これからの制度に入れてほしい」(高岡委員)

経産省の小委員会は、環境省のチェック役?

一方、2カ月遅れで始まった経産省の資源循環経済小委員会では、動脈産業側の本音がかなり出た。この小委員会のメンバーの数人は環境省の小委員会と兼任しており、環境省の論議にキャップをかける意味も持たされていたようだ。

例えば、事務局の資源循環経済課の田中将吾課長は9月の初回の委員会で演説をぶった。「1990年の循環経済ビジョンのメーンは3R。点にすぎない。これを輪にしていかないといけない。それを入れて2020年に循環経済ビジョンをまとめた。制度的な担保措置をどうしていくか。動脈連携を妨げているものがあれば、これをどのように緩和していくか」と小委員会設置の狙いを明確に語った。

廃油からバイオ燃料を造る装置。長野市の直富商事が行っている取り組みが、脚光を浴びるかもしれない
杉本裕明氏撮影 転載禁止

さらに「上流の観点からモノを造る場面で循環性をどう担保していくのか。動脈と静脈の連携をどうとっていくか。2022年10月から資源自立経済戦略の議論を始め、2023年3月に公表した。線形経済からの脱皮。成長を見据えた経済の中に循環性を織り込んだ社会をつくっていく。そのために省内横断体制をつくり、38の課室をぶらさげた」と述べた。

以下の図は経産省作成。ループ(循環の輪)からはじかれた不要物は「廃棄物」「廃棄」とのみ描かれているだけである。しかし、この廃棄物を最終的に受け入れる施設(最終処分場)がないと、ループはなりたたないことに注意すべきである。

「EUのように再生材の利用率を国が決めよ」

委員らがこれに応じ、経産省の取り組み批判も出され、かなりオープンな議論をしている。

「いまの規制ルールは生活環境の配慮が目的。今は市場をつくるための規制とルールが必要」(髙尾正樹委員 株式会社JEPLAN社長)

「再生材の利用率をEU(欧州連合)がやっているようにしないと。なかなか(資源循環が)回り切れていないのを一気に回すには、そういうことをやって、早く課題を明確化して対応策を決めないと、世界で一番遅れる国になってしまうんじゃないかという危惧がある」(CLOMA澤田道隆委員 クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス会=プラ利用業者を中心に海洋プラ汚染対策のための団体)

「最大の問題は市場がないこと」(ナッジ研究者=ナッジとはそっと押すということ。環境省は、「そっと押して」人の行動を変え、政策を実現しようと考えている、山本雅資委員・東海大教授)

「資源循環しにくいものが増えている。資源循環率の高い設計をする社会を。廃棄物由来の理解が薄い。都心部で再生砕石・再生砂が売れない」(石坂典子委員・石坂産業社長)

「日本は何で勝負するのか」と委員が苦言

「EUは法整備で勝負している。米国はEVのようにイノベーションで勝負している。日本は何でやるのか」(岡部朋永委員 東北大教授)

「規制でなく、2050年に向け、ある種のルールをつくっていく。情報連携が重要」(大和田秀二委員 早稲田大教授)

「これまでの廃棄物・リサイクル行政は不適正処理とかネガティブ。これから目指す資源自立経済(経産省が唱えている)はむしろポジティブ。民間主体を中心によりよい果実を得られるようにしていくことが重要」(斉藤崇委員 杏林大学教授)

「廃棄物処理法は有価物か不要物しかない。その間がない。大企業・上場企業が踏み込めない」(町野静委員・弁護士法人イノベンティア パートナー)

経産省の小委員会では、動脈産業側の本音がかなり出ていた。動脈産業は、静脈産業に対し、再生資源の確保を求めているが、それを使ってつくった製品の普及・販売を義務づけなどで国に規制されては困るという意見が多い。

せっかく再生材を使った製品を造っても需要を喚起する政策がないと、なかなか広がらず、結局、再生材を集めても意味がなくなってしまう。この義務づけの扱いはどうなったのか。

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