遺伝子組み換え作物の安全性はどうなの?環境と健康への影響について
近年、世界中で栽培が急速に増えている「遺伝子組み換え作物」ですが、日本では「遺伝子組み換えでない」と表示されている食品をよく見るので、私たち日本人にとっては、あまり関わりのないものと思いがちです。
しかし日本でも、遺伝子組み換え作物の研究は進んでおり、食品の商用栽培はされていませんが、観賞用のバラは商用栽培を開始しています。そこで気になるのが、安全性。遺伝子組み換え作物が、「環境や健康に与える影響」についてみていきましょう。
「遺伝子組み換え作物」とはどんな作物?
「遺伝子組み換え作物」という言葉をよく耳にするようになりましたが、どのような作物で、どのような種類があるかご存知でしょうか。簡単に解説していきます。
「遺伝子組み換え作物」と「品種改良による作物」の違い
遺伝子組み換え作物とは、作物の遺伝子に別の生物の遺伝子を組み入れることで、新たな性質をもたせた作物のことです。よく品種改良と混同する人が多いようですが、遺伝子の組み換え方が異なります。
昔から行われている品種改良は、人の手によって遺伝子を間接的に組み換える方法です。例えば、大きな実をつける作物を作りたい場合は、大きな実をつける作物同士を交配し続けることで、遺伝子を間接的に組み換えてきました。
遺伝子組み換え作物は品種改良された作物とは異なり、人が直接的に遺伝子を操作します。実際には、ほかの生物の遺伝子を抜き取り、バクテリアのもつ遺伝子に組み込んで、目的の作物にバクテリアを感染させ、作物のDNAに目的遺伝子を組み込むのです。
遺伝子組み換え作物がもたらすメリット
農作物に遺伝子組み換え技術が使われ、病気や害虫、除草剤に強い作物や、栄養価を高めた作物などを作るのに役立っています。作物の収量を減らす原因に耐性をもった遺伝子組み換え作物は、食糧の供給を安定化させるメリットがあるのです。
世界の人口は、2050年には現在の1.3倍も増えるとの試算もあり、今より1.7倍もの食糧を生産する必要があります。そんな食糧確保の問題を遺伝子組み換え作物が解決すると期待されているのです。
遺伝子組み換えは時間をかけて交配を繰り返す品種改良よりも、短期間で効率的に理想の作物を作り出せるとして、世界中で注目されています。
遺伝子組み換え作物の種類
遺伝子組み換え作物を栽培する農地の面積は、世界中で年々増加しています。大豆(9,590万ha)、トウモロコシ(5,890万ha)、ワタ(2,480万ha)、セイヨウナタネ(1,010万ha)の順に多く栽培されていて(平成30年の農林水産省発表データ)、この4種が世界で主要に栽培されている遺伝子組み換え作物です。
そのほかにも世界では、テンサイ、アルファルファ、パパイヤ、スカッシュ、リンゴ、パイナップル、ナスなどの遺伝子組み換え作物が栽培されています。
消費者庁が発表しているデータによると、日本での流通が許可されている遺伝子組み換え作物は、じゃがいも、大豆、テンサイ、トウモロコシ、ナタネ、ワタ、アルファルファ、パパイヤの8品目。
平成30年2月時点では、日本でも遺伝子組み換え作物を試験的に栽培していますが、商業的には栽培されていません(日本では「観賞用」のバラのみ商業栽培)。
参考:農林水産省 遺伝子組換え農作物をめぐる国内外の状況
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遺伝子組み換え作物の安全性とデメリット
日本では、遺伝子組み換え作物を以下の3つのカテゴリの法律に従って、安全性を評価しています。すべての評価で問題のない遺伝子組み換え作物のみを栽培することになっており、安全性を確保しているとしています。
- 生物多様性への影響→「カルタヘナ法」
- 食品の安全性→「食品安全基本法」および「食品衛生法」
- 飼料の安全性→「飼料安全法」および「食品安全基本法」
しかし世界では、遺伝子組み換え作物に関するさまざまな問題が浮上しています。以下に取り上げる「生態系」と「健康」に関する問題が、遺伝子組み換え作物のデメリットになっているのです。
生態系にとってのデメリット
それでは、生態系にとってのデメリットをご紹介します。
1.除草剤に強い雑草ができる
除草剤に耐性をもった遺伝子組み換え作物と、周辺の雑草が交配することによって、除草剤に強い雑草ができてしまった例がアメリカで起きています。除草剤に強い雑草を枯らすために、除草剤を使う量が以前より増えたことや、複数の除草剤に耐性のある遺伝子組み換え作物を作らざるを得なくなったことが問題となりました。
2.遺伝子組み換え作物に抵抗性をもった病害虫が発生
病害虫に耐性をもった遺伝子組み換え作物は、病害虫が作物を食べることで殺虫する効果があります。しかし病害虫の中には、遺伝子組み換え作物に耐性をもったものも現れてしまい、ほかの作物に被害を及ぼす危険もあるのです。ブラジルでは遺伝子組み換え作物に抵抗性をもった病害虫が現れ、政府が承認していない殺虫剤を散布した例もあります。
3.在来の作物が滅ぶ可能性がある
遺伝子組み換え作物を、在来の作物と同じ農地で栽培すると、病気や害虫、除草剤に耐性をもった遺伝子組み換え作物の方が繁殖しやすくなります。すると在来の作物は栽培が難しくなるのではという懸念もあります。
4.在来種の遺伝子が置き換わる
在来の作物と、遺伝子組み換え作物が交配してしまうと、在来の作物の遺伝子が組み換えられ、在来の作物がなくなる危険があります。実際にメキシコでは、在来のトウモロコシの遺伝子が遺伝子組み換え作物の遺伝子に置き換わってしまった例もあります。
5.周辺の生物に害を与え、死滅させる可能性がある
遺伝子組み換え作物は、遺伝子操作によって働かせたい遺伝子を制御しています。しかし今まで働いていなかった周辺の遺伝子にも、影響してしまうリスクもあわせ持っているのです。もし有害な物質を生産する遺伝子が働いてしまえば、周辺の生物に害を与え、死滅させてしまう懸念があります。
健康にとってのデメリット
次に健康にとってのデメリットをご紹介します。
1.アレルギーを引き起こす原因になる可能性
遺伝子組み換え作物の生産が盛んなアメリカでは、遺伝子組み換え作物の生産が始まってからアレルギーの患者が急増したという見方もあります。
日本では、遺伝子組み換え作物が作り出すタンパク質に、以下のようなことがないか検証し、アレルギーの原因になる疑いのあるものは市場に出ないようにしています。
- 胃や腸できちんと消化されるか。
- 熱に弱いか(加熱処理で分解されるか)。
- 既に知られているアレルゲン(アレルギーの原因物質)と似ていないか。
- その食品の主要なタンパク質にはならないか。
引用:厚生労働省 遺伝子組換え食品の安全性について
そのため、日本で流通している遺伝子組み換え作物は、アレルギーを引き起こす原因にならないとしています。
2.長期間食べ続けると子や孫の代まで影響する可能性
ロシアのイリーナ・エルマコヴァ博士が行った実験では、遺伝子組み換え大豆を食べさせ続けたラットは、非遺伝子組み換え大豆を食べさせ続けたラットに比べて、新生児の発育が悪く、死亡率が高まると発表しています。
日本における食品の安全性を評価する試験では、遺伝子組み換え作物の慢性毒性試験を行わず、急性毒性試験のみで安全性の判断をしているものがあります。その理由としては、急性毒性試験でみつかった物質が、既知のアレルギー物質や有害物質であった場合、もともと人や食品中に存在し、すぐに分解・代謝されるものであれば、長期的な影響はないと予測ができるためです。
そのため、遺伝子組み換え作物を長期間食べ続けても、子や孫の代まで本当に影響しないかは不透明な部分があります。
3.病害虫を殺虫する遺伝子組み換え作物は人体に影響がある可能性
病害虫を殺虫する効果のある遺伝子組み換え作物を、フィリピンの農家が食べたところ、お腹を壊し、具合が悪くなったという症状が報告されています。
Btタンパク質(微生物が作り出す殺虫成分)をつくる遺伝子を組み込んだトウモロコシは、虫が食べると消化管の粘膜にある受容体に張り付いて、細胞を破壊して殺虫します。しかし厚生労働省では、Btタンパク質は人の胃の中では消化されることや、人の消化管にはBtタンパク質の受容体がないことから、人に害を与えることはないとしています。
4.遺伝子組み換え飼料で育てた家畜や牛乳、卵が人体に影響する懸念
人が直接、遺伝子組み換え作物を食べなくても、遺伝子組み換え作物を飼料として家畜に与えていた場合、それを人が食べて害がないか懸念されています。
日本では、安全性が認められた遺伝子組み換え飼料だけを輸入しています。しかし、安全性が判断できていない遺伝子組み換え飼料については、輸入の規制をどのようにしていくかが課題となっているのです。
日本では、Bt10という安全性未確認の遺伝子組み換えトウモロコシを、鶏に4週間与える実験が行われました。その結果、鶏の健康状態への影響はなく、遺伝子組み換えDNAやそれによって生じたタンパク質が鶏卵に移行していなかったと発表しています。
しかしまだ人への安全性は判断できていない状態。そのため日本では、人への安全性が未確認の遺伝子組み換え飼料の輸入を規制したいと考えています。しかし飼料への微量な混入は検出自体が難しいため、100%の排除は難しいようです。
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遺伝子組み換え作物の安全性は不明確な部分が多い
世界的には食糧難の対策として、遺伝子組み換え作物によって食糧の供給量を安定化させたい考えがあります。しかし安全性が不明確な点も多く、世界中で環境面や健康面への影響が懸念されている状態です。
食糧の安定的な供給は急がれますが、安全性が不明確なまま遺伝子組み換え作物に頼ることは、持続可能な食糧の供給方法として疑問が残ります。目先の問題を解決するあまりに、生態系や健康に取り返しのつかない影響をおよぼさないよう、長期的に研究を重ねる必要があるのではないでしょうか。
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