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林業の現実と課題とは?災害を誘発する現行林業 NPO法人自伐型林業推進協会代表理事 中嶋健造氏 ①

林業の現実と課題とは?災害を誘発する現行林業 NPO法人自伐型林業推進協会代表理事 中嶋健造氏 ①

「林業は儲からない」。世間では、林業に対してそうしたイメージを持っている人は多い。だが、そこに異を唱える人物がいる。NPO法人自伐型林業推進協会代表理事の中嶋健造氏だ。

現行林業である大規模集約型の施業をやめ、自伐による小規模型多間伐施業に切り替えれば、安定的な収益が得られる森林経営が可能になり、土砂災害などの災害も減らすことができるという。中嶋氏に、現行林業の問題点と“自伐型林業”の可能性について聞いた。

現行林業の現実!問題点と歴史的背景

日本で主に行われている林業形態として一般的なのは、山林所有者が森林組合に山の管理を委託する方式だ。「所有と経営が完全に分離されているこのシステムのせいで赤字経営となっている山林所有者が多い」と中嶋氏は指摘する。

「このシステムは、昭和39年に林業基本法が制定されてから始まり、今でもほとんど変わっていません。その当時の木材価格は、今より約4倍高かったため、当時は森林組合に委託して収益を分配しても、経営は成り立ちました。しかし、現在のスギの価格は約1万円/㎥ほどです。委託して収益を分配していては赤字になるのは当たり前です」と話す。

こうした林業形態に至ったのには、歴史的背景が大きく、戦後日本まで遡る。当時の日本は、戦争により国土が焼け野原になっていたため、空前の住宅建築ラッシュが始まっていた。そのため、昭和20年~30年代は、木材需要が急増し、木材調達のために日本各地の山で皆伐施業を行わざるを得なかった。結果、禿山が増えていき、供給が追い付かなくなったために、需給が締まり木材価格は高騰した。

木材の需要が高まったことを受け、政府は拡大造林政策を発表。それまでは、山林所有者が自分の手で山の管理を行っていたことが多かったが、植林作業を終えると山林所有者は仕事がなくなり、都会に働きにでるようになる。「そのため山を管理する人がいなくなり、林野庁の方針で森林組合に委託する現在の林業方式に変わっていったのです」と中嶋氏。

それでも、当時の日本は高度経済成長期の真っただ中。木材の需給はひっ迫しており、木材価格もうなぎ上りだった。「昭和55年ごろには、杉の値段は約4万円/㎥以上。この値段なら、現行の林業システムでも十分採算が採れていたと思います」

インタビューに応える中嶋氏

その後、状況は一変した。高度経済成長が終わり、新築住宅着工数が減り始めた。中嶋氏は「鉄道沿線などで行っていた開発事業が軒並み終了し、家が建たなくなったことで、木材価格は下降を始めました」と話す。

また、その頃は輸入材が主流になっていたことも国産材の価格下落に拍車をかけた。これは昭和40年代当時、国産材の需給がひっ迫していたことで木材の輸入を増やしたことに起因する。「住宅の構造材に無垢のようなA材(※)は使用せず、輸入材を使用した集成材(B材)などを多く使用するようになっていたことも、国産材の価格下落に追い打ちとなっていました」と中嶋氏。

※木材を分類する際、品質や用途によってA材やB材などに分類される。A材は製材、B材は集成材や合板、C材はチップや木質ボードに用いられ、D材は搬出されない林地残材となる。ただ、D材も木質バイオマスエネルギーの燃料として利用が期待されている。

そのため、中嶋氏は「現行の委託方式では採算が合わず、山林所有者はもちろん、森林組合も赤字経営のところが多いです。そのため、森林組合は、林野庁の補助金ありきの自転車操業となっているのが現状なのです」と問題点を語る。

収益の課題!大規模集約型施業による弊害

現行林業の問題点は委託方式だけでなく、赤字経営を埋めようと森林組合が行う大規模集約型施業にも大きな問題点がある。

森林組合は現在、生産性を上げ、収益を増やそうと考えヨーロッパ型の林業方式を採用している。これは、約1億円の大型高性能林業機械を導入し、皆伐・再造林を前提とした大規模集約型林業を行うことを意味する。

中嶋氏は「生産性を上げることが一番の目的である大規模集約型の施業では、大量に木材を伐採します。しかし、設備を大規模化したために設備導入費や燃料代が増大し、結局は、売り上げが伸び悩んでしまっているのです。それほど現在の木材価格はピーク時に比べ安くなっています」と語る。

また、現在の標準伐期50年というのも「根拠は何もない」と中嶋氏は指摘する。「通常、木が50年で切られることに、具体的な根拠は何もありません。これは、人間の寿命に合わせて利益を出すために考えられたものです。A材のような高品質な木材にするのに、50年という期間はようやくスタートラインに立ったぐらいです。そのため、伐採した木材の中にA材の割合は少なく、大半はB材やC材になってしまうため、売り上げもそこまで上がらないのです」

現行林業は風倒木や土砂災害など災害誘発の問題が

森林組合等敷設の幅広の作業道が崩壊している様子

ほかに、大規模集約型の施業を行うことで、「山が荒廃し災害を誘発してしまっています」と中嶋氏は警鐘を鳴らす。

中嶋氏は「大規模集約型の施業では、皆伐・再造林が前提となっているため、台風や豪雨が起こった際に、過間伐による風倒木や、大規模な作業道が崩壊するなど新たな災害を誘発する危険性があります」という。

例えば、昨年の台風15号、19号では千葉県の山で風倒木の被害が多発した。その理由について中嶋氏は「通常、間伐というのは木の健全な成長を促し持続可能な山にするために行います。そのため、山全体の2割以下の間伐が良いとされていますが、大規模集約型の施業では生産性を上げるために3割以上間伐していることが多いです。昨年の台風で風倒木が起こった山に調査に行ったのですが、5割以上間伐されているところもありました。これは、木を切りすぎたせいで林間に隙間が空き、風が通りやすくなったことで、倒れてしまっているのです」と語る。

「台風によって木が倒れたのではありません。未整備林にも調査に行きましたが、ほとんど倒れていませんでした。これは行き過ぎた伐採による人為的な災害です」

風倒木の様子(森林組合施業の列状間伐)

また、調査をしていくうち、大型機械を通すために幅を広くした作業道も崩壊していたことが分かった。これは、道幅を広くすると切土量が多くなり、必然的に路肩に盛土が多くなったことで、支えきれずに崩壊してしまったという。「昨年の台風19号で林道崩壊箇所は1万カ所もありました」と中嶋氏。皆伐地域も同様に、搬出するために敷設した幅広の作業道で多くの崩壊があった。

「そこで提案したいのが、自伐による小規模な多間伐施業です」と中嶋氏は力を込める。自伐型林業では、生業にできるような持続的な森林経営が可能になることに加え、環境破壊を抑える健全な山の育成にも効果的だという。

<②に続く>

中嶋健造(なかじまけんぞう)
昭和37年高知生まれ、高知県いの町在住。愛媛大学大学院農学研究科(生物資源学専攻)修了。IT会社、経営コンサルタント、自然環境コンサルタント会社を経てフリーに。平成15年、NPO法人「土佐の森・救援隊」設立に参画し、現在理事長。山の現場で自伐林業に驚き興味を持ち、地域に根ざした脱温暖化・環境共生型林業が自伐林業であることを確信し、「自伐林業+シンプルなバイオマス利用+地域通貨」を組み合わせた「土佐の森方式」を確立させた。平成26年に全国の自伐型林業展開を支援するNPO法人「自伐型林業推進協会」を立ち上げ現職に至る。自伐型林業で衰退産業化した現行林業を根本から立て直し、森林率7割の日本林業・木材産業で100万人就業を実現させ、『世界をリードする森林大国日本』を目指して活動にまい進している。

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