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神戸石炭訴訟問題とは?日本の遅れた気候変動対策 若い世代の原告にインタビュー①

神戸石炭訴訟問題とは?日本の遅れた気候変動対策 若い世代の原告にインタビュー①
大学から見える風景に石炭火力発電所が見える。

神戸市の東部に位置する灘区。ここは一見、山と海に囲まれた自然美しい地域であるように見えます。 しかし、そこには気候変動や健康被害の原因となり得る「石炭火力発電所」が2基稼働中です。

そして、新たに2基の石炭火力発電所の建設計画が立ち上がったことで、周辺住民は企業と国に対し訴えをおこしました。 その原告の1人である、今井絵里菜さんに神戸石炭訴訟の経緯や現状、気候変動問題についてお聞きしました。

神戸石炭訴訟の原告に!

――神戸石炭訴訟の原告になった今井絵里菜さんですが、以前から環境問題に関心があったと聞いています。どのようなきっかけで環境問題に関心を持ったのでしょうか。

環境問題に関心を持ったのは、本当に小さなことでした。高校3年生になり、受験を控えていたころ、将来自分が何をしたいのか考えていました。そんなとき、英語の勉強の一環で利用していたTEDのスピーチ動画で「経済成長と環境問題のジレンマ」というテーマを扱ったものを目にしました。 そのスピーチでは、地球温暖化問題の解決には莫大なコストがかかり、経済学的な視点では解決が難しいと語られていました。

私は子供のころから特別自然が好きだった、というわけではありません。しかし、学校でも環境問題の話は耳にしていたので、その度に「なぜ解決できないのか」と不思議に思っていました。 だから、そのスピーチを聞いたときに「ならば経済学を学び環境問題の解決が本当に難しいのか検証してみよう」と考えたのです。

しかし、大学に入ってしばらくは、何をすべきかわかりませんでした。ごみを拾うボランティア活動や、環境経済学が専門の先生のもとでゼミ活動に参加させてもらうこともありましたが、どれも自分が環境問題の根本解決に携われていないと感じました。 その後、気候変動問題に特化した学生団体に所属することになります。

その団体、Climate Youth Japanに所属してからは気候変動に焦点を当て、国際交渉から日本の政策まで深く知ることになりました。 多くの環境問題に触れてきましたが、気温の変化があらゆる分野に影響を与えるような、根本にある問題だと感じるようになりました。 農業に関する問題、干ばつや海面上昇も、解決するには根本的な気候システムの改善が必要です。それは、人為起源の温室効果ガスの削減が実行されなければ、多くの問題が深刻化してしまうと言えます。 そんなきっかけがあり、私は気候変動問題に対して活動していこうといったん決めました。

神戸石炭訴訟とは?気候変動と健康被害

――神戸石炭訴訟の問題点や概要を教えてください。

神戸の灘浜には、石炭火力発電所が既に2つありますが、さらに2基の石炭火力発電所を建設する計画が進んでいます。 問題の1つは大気汚染による健康被害、もう1つは気候変動による被害です。

まず大気汚染について、この石炭火力発電所は窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などの大気汚染物質に加え、少なからずPM2.5も排出されますが、住宅地からわずか400メートルという近い場所に建設されます。 これだけ近いのであれば、周辺住民に大気汚染の影響が及ぶと考えられ、弁護団は実際にそれがどれほどなのかを検証しました。 すると、広い範囲に飛ぶ煤塵によって健康被害を受ける人が周辺に存在し、この石炭火力発電所が建設されなければ、亡くなっていなかった人もいるであろうという結果が出ました。

発電所は住宅地からわずか400メートルという近い場所に建設される。

次に気候変動による影響です。発電方法には石炭の他にも石油や天然ガス、再生可能エネルギーなどさまざまあるにも関わらず、二酸化炭素を最も排出する石炭火力発電が選ばれたのです。 それが原因で気候変動が悪化した場合、どんな被害があるのかは一言で表せるものではありません。 神戸の灘浜に発電所が建設されることによって、世界の「どこかにいる誰か」の被害につながるかもしれないのです。 そしてその影響は次の世代に続き、さらに遠い未来の世代にも続くかもしれません。

神戸の石炭火力発電所をめぐって2つの裁判が進行中です。 民事訴訟では、発電所プラントを立てている会社や、そこで生み出された電気を買い取る会社を相手取ります。

それに対し、行政訴訟とは国に対する訴訟のことです。なぜ国を相手取れるのかと言うと、石炭火力発電所のような施設を建設するには環境アセスメントが必要であり、その最終的な許可を出すのが経済産業大臣だからです。 神戸の発電所は、環境アセスメントの手続きに問題があったと考えられます。そして、パリ協定が締結された時期、つまり世界全体で温室効果ガス排出に取り組もうとしている時期に、石炭火力発電所の建設を認めるとはいかがなものか。それを問うている裁判です。 国による規制がなければ、企業は利益を優先してしまうでしょう。

新しい世代から見た神戸石炭訴訟

――今井さんが神戸石炭訴訟の原告になるまで、どのような経緯があったのでしょうか。

原告になると決意するまで、いくつかのきっかけがありました。まず、ドイツへ留学中にCOP23(国連気候変動枠組条約第23 回締約国会議)に参加したときのことです。 その会場で東南アジアの方が複数名でプラカードを掲げていたのですが、そこには日本語でメッセージが書かれていました。

COP23の会場で行われた日本に対する抗議アクション。

つまり、日本に対する抗議アクションです。何が起こっているのか知って、その事実に衝撃を受けました。 これまで、日本は石炭火力発電事業に関する技術移転や資金援助を東南アジアやアフリカの国々に対して行ってきました。 この脱炭素の時代に、石炭火力発電所が日本の政府や銀行の力によって、途上国に建設されていく。 かつては日本も省エネ大国とか環境先進国と言われた時代もあったので、まさか国際社会でこのように評価されているとは思いませんでした。 こんなにも対策が遅れているのだと危機感も覚えるとともに、若い世代として政府や企業に訴えなければ、と思いました。

日本に帰ってから気候変動関連のイベントに参加したとき、神戸の石炭火力発電所の新規計画を知りました。 近隣住民の方が話す内容を聞いてみると、その石炭火力発電所は、私が通う大学から3キロしか離れていない場所にあったのです。 私が通っていた大学からは神戸の街並みを見渡せますが、その風景の中には、多くの二酸化炭素を排出し、健康被害をもたらす石炭火力発電所が2基も既に稼働していた。 それすら驚きだったのに、さらに新たな発電所を作る計画が知らない間に進んでいるなんて、思いもよりませんでした。

六甲山ハイキングアクションにて、山頂で気候変動防止キャラクター・シロベエと。

元々、環境問題に関心がある私ですら知らなかったことです。周りの人も誰も知りませんでした。 ちょうど行政訴訟が提訴されるタイミングで運動に関わるようになり「若い世代もちゃんと見ている」ということを国や企業に知ってもらうためにも、私が原告として参加することは意義があると考えました。

神戸石炭訴訟の結審に向けて

――神戸石炭訴訟は今後どのようなスケジュールなのでしょうか。

実は行政訴訟の結審が、来年(2021年)の1月20日にあります。 なので、私たちに残された時間はわずかです。 結審をもってすぐに裁判所が勝訴や敗訴を決めるわけではありませんが、今こそ市民が声をあげる時期であることは間違いありません。

より多くの人にこの問題を伝えたいと思ってインタビューを受けています。 神戸石炭訴訟について関心を持ってくれた方には、SNSでこの問題を発信してほしい。 大阪地方裁判所にも足を運んでほしいのですが、そこまで来られないという方は、Webの報告会もやっているので、そちらに参加いただければと思います。

<②に続く>

神戸石炭訴訟 ~子どもたちにつなぐ未来を今、つくるために~ → https://kobeclimatecase.jp/
神戸の石炭火力を考える会 → https://kobesekitan.jimdo.com/
Japan Beyond Coal 石炭火力発電所を2030年までにゼロに → https://beyond-coal.jp/

今井絵里菜(いまい えりな)
1996年生まれ。国連の気候変動に関する会議への参加やドイツへの留学を機に、国内のエネルギー事情に危機感を覚え、政策提言や気候ストライキ・マーチの運営、神戸の石炭火力発電所をめぐる訴訟の原告などさまざまな活動を広げてきた。現在、社会人1年目。再生可能エネルギーを取り扱う会社に在籍している。

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