ビーチクリーンのごみをガーデニング用品に再生ー海洋ごみ削減や就労機会創出も実現
海洋に流入するごみの削減を目指し、全国各地でさまざまなビーチクリーン(海岸清掃)が行われているが、回収したものが一般廃棄物として燃やされてしまうことも多い。こうした中、海岸清掃で回収したごみを環境負荷が少ない方法で灰に変え、ガーデニング用品などに再製品化する試みが行われている。有限会社カツミ工業(愛知県春日井市)が主導する「花咲か爺さんプロジェクト」だ。海洋ごみの削減や資源の循環だけでなく、就労支援施設に製品製作で協力してもらうことで、就労機会の創出も実現している。
二酸化炭素をほぼ出さずごみを資源化
プロジェクトの流れはこうだ。まず、海岸清掃イベントを実施し、ボランティアが海辺に落ちているごみを回収する。集まったごみを、障害や疾患がある人々の就労を支援する施設に持ち込み、ごみに付着した砂を除去してもらう。砂が混ざっていると、製品にする際に割れたりして、狙い通りの形に成形することが難しくなってしまうからだ。
海岸清掃で集まったごみカツミ工業提供
砂を除かれたごみは、カツミ工業の廃棄物処理装置「移動式アースキューブ」に投入する。小型かつ、どこにでも移動可能な装置で、有機物(燃えるもの)であれば何でも投入可能だ。ごみは装置の中で熱分解され、さらさらの灰になる。
熱分解には化石燃料を使わない。最初に熱源を作り、磁気を帯びた空気を送り込むことで、熱源がずっと冷めないような仕組みになっている。同社の西脇 徹代表取締役は「二酸化炭素やダイオキシン類をほとんど出さないため、無公害で熱分解処理することができ、ごみの容積や処理費用も減らせる」とメリットを説明する。
カツミ工業はかつて、自動車や家電、食品などさまざまな業界の金型を手掛けてきたが、2020年に金型製作業から撤退。メーカーと協力し、車載できる移動式アースキューブを開発した。現在はこのアースキューブを、ごみ処理に悩む事業者などに販売している。
移動式アースキューブカツミ工業提供
灰はハイドロボールやコースターに
灰ができたら、いよいよ製品作りに進む。灰を再び就労支援施設へ持ち込み、粘土と混ぜて丸める作業をしてもらう。協力企業が丸めたものから、観葉植物の栽培で土代わりに使用される球状のハイドロボールを製作する。
ハイドロボールの他にも、コースターといった製品にアップサイクルされており、今後も作ることができる製品の種類を増やしていきたい考えだ。製作した製品はイベントや展示会で販売し、活動報告・宣伝も行っている。
海岸ごみの灰で作ったハイドロボールやコースター名古屋市内の展示会にて筆者撮影
プロジェクトはさまざまなメリットをもたらしている。海洋ごみの増加やそれによる生物への悪影響が世界的に問題視されている中、各地で多くの海岸清掃活動が行われているが、回収したごみが焼却処分されれば温室効果ガスが排出されてしまう。
花咲か爺さんプロジェクトでは清掃で回収したごみを、二酸化炭素をほぼ出さずに灰にして再び製品にする。一方通行でない資源の循環と、より環境に優しい清掃活動を実現している。
社会面のメリットもある。先述の通り、プロジェクトでは砂の除去や灰を粘土と丸める作業を、愛知や静岡の就労支援施設が手伝っている。対価を支払い、納期を定めず自分のペースで作業してもらうことで、施設利用者の就労機会の創出や、就労意欲の向上を目指している。
西脇氏によると、就労支援施設からは「安定した仕事がない」と相談されるという。施設の利用者からは「やりがいがある」との声が聞かれたといい、持続可能な開発目標(SDGs)の目標8「働きがいも経済成長も」達成にも貢献している。
就労支援施設での作業の様子カツミ工業提供
各地からコラボ依頼が殺到
プロジェクトを始めた理由について、西脇氏は「アースキューブの存在を知ってもらいたかった」からだと語る。営業先で、有機物(ごみ)を熱分解で灰に分解する技術はあまり認知されていないと感じ、自らが前に出ていくことで機械やその技術が多くの人の目に触れると考えた。
そして2020年2月頃に、西脇氏が劇症肝炎を患っていることが発覚。医師に「致死率90%」と宣告されたが、幸いにも自然治癒し、死には至らなかった。退院後は、活かされた命で人のためになることがしたいと思うようになり、装置の宣伝とさまざまな課題の解決に貢献するこの取り組みを本格始動させることを決意した。
現在は、愛知県常滑市の海岸で定期的に清掃を行っている。2022年4月~5月には、「ビーチクリーンの旅」を実施し、愛知、三重、和歌山、兵庫、岡山、広島、山口、福岡の8県で約500人もの人々と海岸清掃を行った。8月には大学生らと共に、静岡で活動を計画している。
8県で実施したビーチクリーンの旅カツミ工業提供
プロジェクトを通じて、ポジティブな反響を多く得られた。賛同者が徐々に増え、企業や非営利団体(NPO)、行政など各方面から「一緒に何かできないか」と声が掛かるようになったのだ。
例えば、「海ではなく河川の清掃・ごみ処理をやってほしい」「離島のごみ問題をどうにかしてほしい」「地方創世に向けて何かできないか」「犬猫の保護をしている団体と一緒に、野良猫の去勢手術や湖岸清掃をしながら湖を一周できないか」といった問い合わせやコラボレーション依頼が相次いでいるという。展示会では、タレントの田村淳氏が応援メッセージを寄せてくれたこともあった。
活動を進めていくにつれ、人が人を呼び、新しいつながりやアイデアが誕生する好循環が生まれている。西脇氏は、プロジェクトは現状、収益にはなっていないものの、企業がこうした取り組みに参画することで「企業の本当の在り方が実現できるのではないか」と語る。
食品ロスなどの課題解決も視野
西脇氏は今後について、「いずれは全国展開し、アースキューブを導入してくれた企業と一緒に熱分解した灰から製品を作りたい」と述べ、プロジェクトを拡大したい意向を表明した。
一方で、「仕組み作り」が最たる目標だと強調。海が綺麗になり、雇用が創出され、事業者のごみ処理費用が抑えられ、SDGsに取り組む企業と環境意識の高い学生がマッチングされるような仕組みを作り、自身がいなくても回していけるようにするのが理想だと話した。
世の中を良くするため、海洋ごみ問題に限らず、食品ロスやフラワーロスといった他のさまざまな課題を解決できる仕組みも作りたいと西脇氏は語る。こうした課題の解決策になると期待される鮮度保持装置や超低温冷凍技術を広げてほしいとの依頼が来ているといい、「良い機械を使って良いことをしたり、その機械と他のものを結びつけて違うことをしたり、そういったことをやっていきたい」と強調。「知られていないことを世に伝えていくのが自分の役割」だと述べた。