廃プラスチックを再利用 ケミカル油化で環境教育とリサイクル推進
大手の化学会社や石油精製会社がプラスチックごみのリサイクルに取り組み始めています。注目されているのが、プラスチックごみを熱分解し、油を取り出すケミカル(化学)油化と呼ばれる方法です。
海外の技術を導入する動きが広がっていますが、今回は、プラスチック成形などを手がける企業が小さな油化装置を使って子どもたちの環境教育に利用したり、ベンチャー企業が、ケミカル油化事業に取り組んだりしている現場をのぞいてみました。
世界的な海洋汚染をもたらすプラスチックに批判が集まり、また、カーボンニュートラルと言われる脱炭素社会を目指す流れの中で、いったん廃(すた)れた油化に再び、光があたろうとしています。
ジャーナリスト 杉本裕明
小学校で油化リサイクルの出前授業を続ける
「この射出成形機という機械を使うと、捨てられたペットボトルのキャップから、新しいコマが造れるんだよ」
2022年1月、愛知県西尾市の市立花ノ木小学校で、竹口達也さんが子どもたちに語りかけた。体育館で3つのグループに分け、2クラスごとの合同で授業が行われた。隣で操作するのは、中根智幸さん。子どもたちが目を輝かせてのぞき込む。リサイクル体験の出前授業の風景である。2021年2月に出前授業をして好評だったため、今年は参加人数を増やして行うことになった。
花ノ木小学校で行われた出前授業(愛知県西尾市)中根さん提供 転載禁止
プラスチックのリサイクルがテーマだが、どう教えるのだろうか。それも難しいケミカル油化のことを。体育館の中に持ち込まれたのは、小さな射出成形機。中は温度が250度あり、プラスチックを溶かし、金型に合ったプラスチック製品を造ることができる。持ち運びができる超小型機。動力は電気だが、二人は学校に小型の発電機を持ち込み、発電した電気で射出成形機を動かした。
図書館やイベントでも油化を披露
実は、この発電に使われた油は、廃プラスチックからできた再生油だった。その再生油は小型の油化装置でつくる。それで発電機を動かし、その電気で射出成形機を動かし、コマを造った。子どもたちや教師の評判がよいため、同市の別の小学校でも出前授業をした。
小学校の授業で、油化の仕組みを説明する中根さん中根さん提供 転載禁止
西尾市内の道の駅で行った子どもたちの外遊びイベントでは、射出成形機だけでなく、綿菓子機やポップコーン製造器を発電機につないで動かした。
名古屋市立熱田図書館の出前授業。射出成形機でプラスチック製品ができるのを興味深く眺める子どもたち中根さん提供 転載禁止
2021年12月には名古屋市の熱田図書館で講座を開催した。周知するため、図書館司書が協力し、プラスチックや環境についての本の特設コーナーを図書館内に設けた。小学生から中学生、環境問題に興味のある女性などが参加した。
イベントで小型射出成形機を子どもに説明する中根さん中根さん提供 転載禁止
また、今年のお盆に、西尾市のお寺で開催された夏祭りでは、2021年に道の駅にしお岡ノ山でイベントを開催したプレーパークと共催で行った。 プラスチックごみのリサイクルといってもいろんな方法があること、プラスチックごみから油にして、それを原料にしてプラスチックを再び造ることを体験し、子どもたちも新たな知識を手に入れたようだ。
プラスチックの成形業や福祉デザイン業をしながら、ソーシャル活動
竹口さんは、プラスチックの成型業の壱武工業所の社長。中根さんは個人事業者として福祉デザイン事業をしながら、ソーシャル活動で中小企業と他業種との地位連携事業をしている。
二人が共同で立ち上げたのが、「共創活動ユニット CHOタンサンスイ(チョータンサンスイ)」。竹口さんが語る。
「プラスチックが環境を汚染する悪者のような風潮が起きていますが、うちはプラスチックで生計を立てているのです。プラスチックはごみにならない。資源として再生可能なものだと示したかった」
「工場では、卓上の油化装置を使って廃プラスチックから油を生成し、それを発電機の燃料として事務所の一部の電源に使っています。海岸の清掃活動をしている団体と一緒に海洋プラごみやマイクロプラを集めたりしています。SDGsの17番のパートナーシップ。油化を通じて、地域社会とつながりたい」
油化装置や射出成形機を使って、出前授業などに取り組む竹口達也さん(左)と中根智幸さん。手前は製造した再生油と、油化の原料の廃プラスチックの容器包装杉本裕明氏撮影 転載禁止
油化との出会いは、創業者の父から「プラスチックはもともと石油からできている。だったら、勉強してプラスチックを油に戻すことができないか」と言われたことにある。竹口さん自身も、父の仕事を手伝っているころから、成形の過程で端材など大量のプラスチックごみが発生することが気になっていた。
2年前から油化について本格的に調べはじめた。愛知県岡崎市で油化装置を製造するグローバルアライアンスパートナー社と出会い、パートナーシップでSDGsとして活動を始めた。
発電した電気を工場事務所の照明や電動自転車に利用
工場の事務所に油化装置を設置し、できた油を燃料に発電に使い、事務所の照明や電動自転車の充電に使っている。油化・ケミカルというと、素人にとっつきにくいと受け取られがちだが、こうした活動が、一般社会の理解を広げることにつながる。
「うちはプラスチックで生計を立てています。プラスチックは悪という風潮があり、大量生産、大量消費の象徴のように言われています。しかし、もしプラスチックがなくなったら、とたんに生活に困るでしょう。そこで生産者として、プラスチックを造る→使う→造るという循環のやり方を考えました」
シオテラスを主宰する中根さんは「ものづくりを通して地域社会とつながっていこうと考える竹口さんに共鳴し、手伝うことになりました。CHOタンサンスイを共通のプロジェクトにしようと、出前講座などをしています」と抱負を語る。
「CHOタンサンスイ」は、プラスチックごみの油化プロジェクトとして、ホタテの養殖籠(かご)、ビニールハウスのハウスシートなどの廃材を油化し、発電機の燃料に使えることも確認しているという。
油化装置に引き合い相次ぐ
西尾市から車で北に30分。愛知県岡崎市のある倉庫で、油化装置の実証実験が行われている。壱武工業所にある小型の装置と違い、こちらは商用で1日に1トンの廃プラスチックを処理できる。
岡崎市の会社倉庫に設置された油化製造装置杉本裕明氏撮影 転載禁止
エクリプランの工場長、本木政義さんは「ナックスの中島清さんが開発した油化装置の実証実験と販売を行っています。最近の脱炭素化の動きで、様々な業者が視察にきています」と語る。エクリプランは油化装置の設置とメンテナンスを担当、六洋電気(後藤英司社長、福島市)が販売代理店になっている。装置を見せてもらった。本木さんが説明した。
「まず破砕した廃プラを投入し、スクリュー式のフィーダーで油化プラントに送る。窒素ガスを充填した槽で340度に加熱し、廃プラを溶かす。さらに加熱筒に送り450~470度に加熱すると、ドロドロの状態から液体になり、さらにリアクター(タンク)で、異物を沈殿させた上、450度に加熱し、ガス化させます。ガスを凝縮器に送り、水で冷却すると、再生油ができます。3段階の加熱は、電気で行い、温度管理の難しい燃料を使わないことで安全性を高めています」
廃プラから再生油になる比率(収率と呼ぶ)が高く、残渣が少ないのが特徴という。再生油を軽質のガソリンや軽油にして販売すると税金がかかるため、再生油のまま事業所の暖房用のボイラー燃料として販売している。
左側の容器に溜まったのが再生油だ
杉本裕明氏撮影 転載禁止
本木さんは、「3年前に事業に着手し、装置を設置するときには、中島社長とプログラマーを交えて、微調整を繰り返しました。稼働させて故障はなく、収率も90%以上。工作機械や重機の燃料にして実験し安全を確認しました。2019年にはカーボンオフセットの認証も取得しました」と話している。
触媒使わず連続運転が可能
装置は、1日の処理量が1トン、1.5トン、2トン、4.5トンの4種類あり、更に連続運転式とバッチ式(1日8時間運転)に分かれる。実証実験に使う廃プラはペットボトルのキャップが多い。油化用の廃プラはPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)の3種類に限り、混合も可能だ。
再生油の原料はペットボトルのキャップだ
杉本裕明氏撮影 転載禁止
開発者の中島清さんはマルハニチロに勤めていた時、発泡スチロールでできた魚箱の処理技術の開発担当として油化処理を進めたことがあった。それが縁で2007年に独立、廃プラスチックの油化に取り組み始めた。中島さんは言う。
「第一世代から始め、改良を重ね、今は第五世代。油化の課題は、収率の向上と良質な油を得ること。他の油化装置が触媒を必要とするのに対し、うちは触媒を使わないので、3日に1回装置を止めて残渣をかき出す必要もない」
「最近廃プラ問題が社会問題になり、プラスチック資源循環促進法もでき、企業はお尻に火がついたおかげで、成約が増えている。メーカーは自己処理に使い、廃棄物処理業者は廃プラ事業に新たに参入しようとしている」
この装置の販売権を持つ六洋電気の後藤社長が抱負を語る。
「これまでいろんな油化装置が出回り、使用に耐えないようなものもある中で、これはシンプルな構造に徹し、コストも価格も安い。廃棄物処理業者に廃プラを持ち込んでもらい、実験してもらい、『これなら大丈夫』と安心してもらった。経産省の補助金も出るので、近く会社にも油化装置を設置し、多くの人に見てもらいたい」
家庭から出たプラスチックごみを再生油に
一方、家庭から出たプラスチックごみを原料に油化事業を展開している企業もある。環境エネルギー社(広島県)と柳川商事(福岡県)など3社が2016年にYKクリーンを設立。2年後の2018年から福岡県の柳川市、みやま市、大木町の家庭から出た廃プラスチックの選別と油化事業を請け負っている。大木町に設置した選別施設に油化プラントが設置され、1時間に100キロリットルの油を生成する。
プラスチックごみは、容器包装リサイクル法が対象としている容器包装以外の製品プラスチックごみ。専用のごみ袋で回収されたプラごみは、破砕機で4~5センチ角に破砕し、風呂釜のような装置に入れ、400度に熱した砂状の触媒と反応させてガス化する。
ガスを冷やすと再生油ができあがる。触媒の影響のため、3日に1回、装置を止めて清掃、点検を繰り返している。
大木町はリサイクルの先進自治体
3市町のプラスチックごみの発生量は3,700トン。このうち指定ごみ袋で一括回収されるプラスチックごみは540トン。容器包装479トンは、容リ法ルートに。残った製品プラスチックごみ85トンは、YKクリーン社に引き渡し、材料リサイクルとしての販売が64トン、残渣17トン、油化用が2トン。
YKクリーンの油化プラント提供:大木町
大木町は、2008年に「大木町もったいない宣言」を公表、ごみゼロを掲げ、2006年から生ごみを分別、バイオガスと有機液肥の回収に取り組んでいた、リサイクルの先進自治体だ。次に取り組んだのが、プラスチックごみのリサイクルだった。2007年に大木町がモデル地区でプラスチックごみを回収し、久留米市の油化業者が油化実験を行った。さらに2009年、柳川商事が北九州市立大学の開発した小型の油化装置を使った事業を提案、3億円の事業費の3分の1の補助を環境省から得た。
しかし、小型とはいえ、油化装置は1時間に150キロの処理能力があり、年間処理量は360トン。大木町とみやま市、柳川市とが協同で仕組みづくりを行うことになった。大木町では2010年4月から8つのモデル地区で専用指定袋にプラスチックごみを入れて回収、2010年10月から全区域に拡大した。他の2市も分別回収を行い、油化事業が動き出した。
YKクリーンの工場提供:大木町
だが、2012年に火災事故があり、運転を休止することに。その後、YKクリーンが設立され、安全性を確保した上、油化事業が再開された。
再生油の需要確保が課題
ただ、課題もある。大木町とみやま市の1人当たりの回収量が年10キロと8.3キロに対し、柳川市が2.5キロと少ない。リサイクル率は60%を超え、全国平均の3倍だ。農家のハウス園芸や温泉施設のボイラーの燃料として販売する計画だったが、プラスチックごみを原料とする油の品質への心配から、販路はなかなか見つからずにきた。
そこで、2021年秋から柳川市の焼却施設の燃えるごみに10%の再生油を混ぜて助燃剤として問題ないか確認したり、みやま市の農家に無償で提供し、ボイラー燃料として使えるか実証実験をしたりして、販路の確保を探っている。
また、回収しているプラスチックごみは、家庭から出たプラスチックごみの14%にすぎない。大半がなお、燃やされており、回収率の底上げが求められているようだ。