有機フッ素化合物・PFASが環境と人体を汚染する(上)

有機フッ素化合物・PFASが環境と人体を汚染する(上)

最近、PFAS(ピーファス)という言葉を聞くことがあります。東京都や沖縄県の地下水から高濃度で検出されたとか、血液検査をしたら高い濃度の人が見つかったとか。フライパンの焦げ付き防止、ハンバーグやピザ用の油をはじく包装紙など、身近な製品に使われるほか、泡消火剤としても使われて来ました。

体内に取り込まれると排出されず、いつまでも体を汚染し続けるのが特徴で、発がん性の可能性があるとされ、肝機能障害、高コレストロール、免疫力の低下などが指摘されています。8,000種類以上あるとされるPFASのなかで、代表的なPFOS(ピーフォス)と、PFOA(ピーフォア)を中心に、汚染の実態を見ましょう。

ジャーナリスト 杉本裕明



PFASは様々な製品に使われてきた

PFASは、フッ素アルキル化合物の総称です。炭素の鎖とフッ素原子からなり、結合が非常に強いために、油や水分などを寄せ付けない性質があり、米国環境保護庁(EPA)によると8,000種類以上存在するとされています。「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」とも呼ばれ、中でも炭素原子の数によって長い鎖を持つPFOS(ピーフォス、パーフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ピーフォア、パーフルオロオクタン酸)が代表的な物質です。短い鎖を持つ物質としてはPFOSの代替品のPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)やGenX(ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸)があります。

PFASは、1930年代末に米国のデュポン社の研究所が冷蔵庫の冷却剤の改良を試みていて、のちに「テフロン」と呼ばれる破損した継ぎ目をコーティングする物質を開発したことが発端です。この固いテフロンを乳化させ、扱いやすく安価で製造できるように、1940年代、米国の3M社(旧ミネソタ鉱工業会社)が開発したのがPFASでした。

焦げ付かないフライパン、釜などの「コート剤」として使われ、コーティングされた台所用品、ハンバーガーや揚げ物の包装紙、化粧品のファンデーション、コーティングされた衣類などに普及していきました。

コーティングしたフライパン、卵焼き器。中華鍋はコーティングされていない
杉本裕明氏撮影 転載禁止

さらに3M社と米軍は、消化製剤品、いわゆる泡消火剤を開発し、米軍は、すべての艦船、燃料貯蔵庫、緊急車両などに設置されました。それが民間の空港、化学工場に広がり、日本など他の国も追随していったのです。

日本ではダイキン工業、旭硝子、三井・デュポンフロロケミカルが製造していました。しかし、2000年に3M社がPFOSとPFOAを自主的に生産停止しました。PFASが、毒性が強く、難分解性、生物蓄積性が指摘され、PFOSは、世界各地の野生動物から検出されていたからです。しかし、PFOAは検出例が少なかったことや、代替物質がなかったことから、フッ素樹脂メーカーは、独自にPFOAの製造を行うようになったようです。

ストックホルム条約で、相次ぎ、使用・輸入の対象に

国連のPOPs(残留性有機汚染物質)を規制するストックホルム条約の2009年の締約国会議で、PFOSの使用に制限がかかりました(泡消火剤と金属メッキ工場での使用は除外)。2019年にはPFOAの廃絶が決まりました(除外項目はPFOSと同じ)。さらに2022年にはPFHxSが廃絶と決まりました。日本を含む加盟国は遵守しなければなりません。

この条約の規制を受けて、及び腰だった日本政府も化学物質審査法で、PFOSの一部の使用を除き、製造・輸入を禁止、2020年にPFOAも禁止されました。しかし、これで汚染が止まったわけではありません。

これらの有機フッ素化合物は、フッ素樹脂製造時に労働者、使用時に消費者が曝露(ばくろ・さらされることを指す)されるだけでなく、工場の排水や製品の廃棄によって、土壌や河川、地下水を汚染し、飲料水として体内に取り込まれたり、魚介類に蓄積し、それを人が食べて蓄積していく可能性があります。

だから、河川や地下水や人の血液を採取し、曝露の実態を調べなければなりません。しかし、飲料水の水質を規制する厚生労働省も、河川や地下水の水質を規制する環境省は、積極的とは言えませんでした。

自主的な調査や研究によって、汚染の実態を明らかにしていったのは、京都大学の研究者や環境市民団体、一部の自治体でした。

京都大学の小泉昭夫教授(当時、現名誉教授)らは、2002年に全国97河川と16の湾岸で表層水を集め、PFOSを分析しました。その結果、荒川(東京都)では38.5ppt(pptは1兆分の1)。1リットル中の数値に換算すると38.5ngになります。n(ナノ)は10億分の1。

以下、多摩川(同)で157ppt、鶴見川(神奈川県)で73.6ppt、神通川(富山県)で135pptなどの数値を得て、さらに多摩川上流の下水処理場近くで303~440pptと高濃度で検出されました。

汚染源の特定に向けて

翌年には、PFOAも含めた検査をし、PFOAは、淀川(大阪府)で141ppt、甲子園浜(兵庫県)で448pptと、高い数値を得ました。

さらに淀川に流れ込む安威川広域下水処理場の排水を調べると、6万7000pptもの高濃度のPFOAを検出しました。これは、下水処理場に排水を流しているダイキン工業の工場排水が疑われることになりました(その後同工場は、代替品に変更)。

こうした調査を受けて、東京都も2008年から調査を始め、2019年のPFOSとPFOAの合計は、東京都の恋ヶ窪浄水場(国分寺市)で101ppt、府中武蔵台上水場で60~80。都は井戸も調べていて立川市の井戸では1340ppt。近くには横田基地があり、泡消火剤を使っていた基地が汚染の大きな要因である疑いが高まりました。

最大の米軍基地のある沖縄県では、2016年に、県が宜野湾市と北谷(ちゃたん)町に水道水を供給している北谷浄水場でのPFAS汚染を発表しました。翌年には宜野湾市の湧水と地下水が汚染されていることがわかり、近くにある米軍普天間基地の泡消火剤の使用が疑われました。

米軍基地では、泡消火剤を使用し、汚染水を流し、環境汚染を起こしたと言われている

その後、基地から泡消火剤が大量放出され、近くの小学校のグラウンドの土壌が汚染されていることがわかり、宜野湾市が、国に対し、土壌の基準を決めることや米軍基地への立ち入り調査を求める意見書を出しています。那覇市でも航空自衛隊那覇基地から泡消火剤が外部に飛散する事故が起きています。

米軍基地の調査は、日米の協定によって、日本が調査する権限がなく、米国も河川等を汚染したことを認めず、情報も公開していません。2021年には、普天間基地が汚染された地下貯水槽の汚染水を、これまでの焼却処理をやめ、公共下水道に流されてしまいました。東京都の多摩地域で広範な地下水汚染を起こしている元凶と見られている横田基地は、情報が公開されず、ベールに包まれたままです。

指針値づくりに乗り出した日本政府

しかし、こうした汚染の実態が分かり、さらに環境省の全国の河川での調査が積み重なり、他国と同様に水道水に含まれるPFOAとPFOSの基準作りに乗り出さざるを得なくなりました。

厚生省は、2020年春、両方を合わせた飲料水の暫定目標値を1リットル当たり50ナノグラムと決めました。これは、体重50キロの人が1日に2リットル飲み続けても健康に悪影響のない値を、米国の基準をもとに決めたものです。これに続き、環境省も河川の水質の監視を強化するため、「要監視項目」にし、暫定指針値として50ナノグラムと決めました。

市民団体などは、汚染源となる工場や基地などを規制するために法的拘束力のある水質基準と環境基準にすべきだと、政府に求めていましたが、両省は「各国の基準にばらつきがあり、国際的に評価が大きく動いており、暫定的な目標値と指針値にした」と説明しています。

実際、海外の基準を見ると、ばらつきがあります。政府が参考にした2020年時点の米国では、2つを合わせ、「生涯健康勧告値」70ナノグラムとしています。ただし、その後、大幅に厳しくした基準値案を公表しています。一方、欧州の食品安全機関(EFSA)は一週間に摂取しても問題ない値(TWI)としてPFOSは12ナノグラム、PFOAは6ナノグラム。一日当たりに換算(TDI)すると、約2ナノグラム、約1ナノグラムと厳しくなります。

環境ホルモン国民会議の調査と提言

政府の取り組み状況に危機感を抱いたのが、弁護士、研究者、市民らで構成される「NPO法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」(代表理事・中下裕子弁護士)です。

ダイオキシン汚染の嵐が全国を襲った時に結成され、ダイオキシンの環境基準や議員立法の特別措置法の制定などに貢献した団体です。その後は、環境ホルモンや子どもへの化学物質の影響について活動してきました。

このPFAS汚染に注目し、熊本大学の中地重晴教授(環境化学)の指導を受けながら、高濃度汚染が続いていた東京都府中市の府中武蔵台浄水所と国分寺市の東恋ヶ窪浄水所の給水地域の住民22人の協力を得て、血液検査を行いました。その分析結果を見ると、環境省が過去に行った調査結果(406人)と比べて、PFOAは、国の数値よりやや高い程度にもかかわらず、PFOSは、府中武蔵台浄水所(11人)、東恋ヶ窪浄水所(11人)ともに1.5~2倍近の値となった。またPFOSの代替物質として現在も使用されているPFHxSは、国の結果の27~20倍もありました。PFHxSは、2023年のストックホルム条約の会議で製造・輸入の禁止が決まったばかりで、各国はこれを守ることになります。

科学ジャーナリストの植田武智氏によると、ドイツでは、定期的な国民血液検査(バイオモニタリング)のデータと有害な影響の出る濃度をもとに、血中濃度の基準(PFOSが1ミリリットル中20ナノグラム、PFOAが同10ナノグラムが定められている)を超える人が、PFOSで5人、PFOAで1人いたといいます(週間金曜日2020年11月6日号)。

一方、環境省の2022年の血液検査の結果(89人)を見ると、PFOAの平均値は1.1ナノグラム、PFOSが1.8ナノグラム、PFHxSが0.3ナノグラム,PFNAが0.85ナノグラムとなっています。汚染された地域を避けているため、この数値に収まっているようです。

多摩地域の住民団体が650人の血液検査

2023年、多摩地域の住民らでつくる「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」は、650人を対象に行い、6月結果を発表しました。

事務局の根木山幸夫さんは、「2020年の汚染報道を機に、関心を持った住民たちが集まり、準備会を結成しました。原田先生が研究費で分析していただくことになり、正式に会を立ち上げました。参加者を募り、ボランティアの看護師さんらの協力を得て採血検査を実施しました」と、会の成り立ちを話してくれました。

調査結果によると、PFASとPFOAの合計では、国分寺市(84人の平均値)が1ミリリットル中23.2ナノグラムと最も高く、武蔵野市(23人)15.8ナノグラム、あきる野市(19人)15.2ナノグラム、国立市(62人)14.0ナノグラム、昭島市(50人)13.0ナノグラム、府中市(47人)13.9ナノグラム、調布市(21人)14.2ナノグラムと続きます。環境省の全国調査(119人、2021年)の平均値4.9ナノグラムと比べても、極端に高いことがわかります。

市民団体が調べた650人の血液検査の表
多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)による水汚染を明らかにする会 提供

PFASの測定、分析を行っている京都大学医学研究科の原田浩二準教授がこうまとめています。

「国分寺市、立川市の参加者のPFOS濃度が明らかに高い数値を示し、国分寺市ではPFHxS濃度がPFOSと同程度に検出された。個人ごとに見ると、PFOS濃度が30ナノグラムを超える人が、上位の自治体でなくても見られ、自治体内でも個人差が大きい」

2010年代に国分寺市に給水していた浄水が100ナノグラム前後で、その後設定された国の暫定目標値の2倍を超えていた。浄水器をつけた人の数値が低い傾向にあったとし、「水道水が曝露源の主として考えられ、ドイツのHBMーⅡ」の基準値を超える人が、両物質併せて66人、米国アカデミーの勧告値を超える人が132人いる」

(ドイツの基準は、PFAS20ナノグラム、PHOA10ナノグラムとしている。米国アカデミーは、臨床上のガイダンスとして7つのPFASの合計値が20ナノグラムを超える患者には特別の注意を勧めている)

「PFHxSは、国内では目標値がないが、今回の血中濃度の多くを占めており、PFOS、PFOAだけでなく、PFHxSも含めた対策が必要である」

(PFHxSは、2023年のストックホルム条約の会議で、製造・輸入が禁止ときまった。各国は今後、遵守することになる)

次回は、国や自治体の取り組みと、この問題に取り組むNPO法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議の代表理事、中下裕子弁護士に話をうかがいます。

引用・参考文献:
フッ素化アルキル化合物PHASによる環境汚染 原田浩二(科学2022年5月号、岩波書店)
次世代型有機フッ素化合物の検出とメカニズムの探求 石橋弘志(科学2022年3月号、同)
永遠の化学物質 水のPFAS汚染 ジョン・ミッチェル、小泉昭夫など(岩波書店)

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