東京都小金井市はいかにしてリサイクル優等生になったのか(下)
杉本裕明氏撮影 転載禁止
東京都西部の多摩地域は30の市町村からなります。23区から出た家庭ごみは焼却工場で燃やし、焼却灰は都の海面最終処分場に埋め立てられています。そのために、ごみ処理にあまり困らず、リサイクル率は全国平均の19%を下回っていますが、多摩地域は37.2%と2倍に達します。
焼却した後の焼却灰は、日の出町にある30市町村で構成する東京たま広域資源循環組合に持ち込まれますが、そこにある二ツ塚最終処分場に埋めず、隣に設置した「エコセメント施設」でセメントに生まれ変わります。最終処分場の延命のためにこの施設ができたのは2007年。埋め立て処分を減らし、最終処分場を延命するため、循環組合が太平洋セメントの協力で設置しました。
焼却量を減らそうと個々の市町村が取り組むのがリサイクルです。環境省の10~50万人の市のリサイクル率ベスト10のうち、小金井市も含め6市が名を連ね、小金井市は全国で2番目に高いリサイクル率を誇っています。
その背景に、家庭ごみの焼却施設の立地がなかなか決まらなかったことがあります。立地をめぐる経過とともに、食品ロスやリユースに取り組む小金井市の実態に迫ります。
環境ジャーナリスト 杉本裕明
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市民参加の内実は?
検討会では、「こうなることは10年前から分かっていた。なぜ『非常事態』にまでなったのか」と、行政への厳しい追及から始まった。
市長が、検討会に諮問した事項は「市役所の検討が候補にした2カ所のうちいずれかを選定する。他の候補地があれば検討する」というものだったが、会議には、諮問した当の市長も出席して答弁するという異例の運営となり、2カ所の候補地から出ている委員は、周辺住民が反対のため、了解しない。
元議員や前の市長選に立候補した人物も委員になっており、演説まがいの長々とした意見が述べられたり、焼却しない処理技術を提案する委員がいたりして、いつのまにか会議は本来の目的である「候補地選び」から大きくはずれ、焼却に頼らない処理方式を議論する場と化した。肝心の市は、それを止めようとせず、議論の推移を傍観しているだけだった。
焼却に頼らないとの主張の急先鋒が、委員らの推薦で委員長に就任した平林聖氏。「焼却に頼らない『非焼却』なら広い土地もいらない」。炭化や亜臨界水などによる新しいごみ処理方式を主張した。
しかし、この方式は処理の難しい家庭ごみで実績がなく、環境省が建設に際して交付金(建設費の3分の1)を出す可能性はほぼなかった。第一、焼却処理することは国分寺との協議ですでに決まっており、それが国分寺市の不信感を招くことになった。
「建設場所の面積は、処理方法によって狭くても可能」として、検討会は、市が「狭すぎる」と最初の段階で候補地の対象からはずした都立公園をリストアップした。しかし、東京都は「いまごろ言ってくるとは――」と拒否した。
結局、国分寺市に回答する期限の08年6月を迎えても決まらず、市は、急遽、委員へのアンケート結果をもとに点数化した。28人中15人が二枚橋跡地に高い得点を与え、これを答申とした。市に頼まれ副委員長になった細見正明・東京農工大教授(故人)は、当時をこう振り返り、筆者に述べている。
「候補地を選定するという諮問内容を理解していないような委員は受けるべきではなかった。どうやったら焼却施設を設置できるのかというポジティブな議論の話ができなかった」
細見教授は検討会では「焼却施設と決まっているのだから」と、議論を元に戻すよう発言したら、素直に聞き入れる委員は少なかった。
二枚橋を候補地に決めたことを受けて、市が行った市民説明会で、平林元委員は非焼却を主張する文書を配布し、市に抗議した。また、他の自治体の住民も生ごみの堆肥化を主張し、説明会は混乱を極めた。
一方、せっぱ詰まった市は、2005年に家庭ごみの有料化と戸別収集を導入、翌2006年にプラスチック容器包装の分別収集を開始し、リサイクルに大きくカジを切った。家庭の生ごみ乾燥機の購入を補助し、できた乾燥物を回収し、それを原料の一部にして堆肥にする実験施設を造り、生ごみの堆肥化を進めた。いずれも焼却量を減らそうという考えだった。
質のよい食品廃棄物なら、異物もなく、発酵させて堆肥の一部になりえる。しかし、「住宅の密集する都市だから、匂いの心配のない乾燥物にするしかない」と始めた乾燥物は堆肥の良好な資源にするのは難しかった。それでも小金井市は、一般家庭が生ごみ乾燥機の購入費補助の上限を5万円、購入費の8割までと、他都市の2倍以上に当たる破格の条件をつけて、生ごみのリサイクルを進めた。
二枚橋の焼却施設は運転を止め、小金井市は、国分寺市など多摩地域の自治体に、施設ができるまでの間可燃ごみを引き取ってもらうことになった。
二枚橋の建て替えに府中市と調布市が反対した
課題の焼却施設の立地では、小金井市は二枚橋の跡地に焼却施設を建設しようと、地主の調布市と府中市に申し入れした。しかし、調布市は「建設反対の態度は変わらない」。府中市も「調布市の意向に従う」と、小金井市の提案を拒否した。
2025年3月の竣工目指し、二枚橋焼却場跡地で、資源物処理施設の建設工事が進む小金井市提供
調布市の職員は筆者にこう語る。「市議会が『小金井市内に焼却施設を造らせないと決議までした。それを無視して調布市と府中市内に焼却施設ができると、住民が嫌がる。そんな施設を市内に造ってもらっては困る」。
小金井市議会は、その後、「新ごみ処理施設に関し、過去の反省と建設に向けて」という「お詫び決議」を出したが、両市の不信感を解消することはできなかった。
小金井市は、2009年2月までに建設場所を示すとする新たな約束を国分寺市に行い、覚書を交わしていたが、約束は守られなかった。翌3月、国分寺市は、小金井市と共同でごみ処理施設を造るとした覚書を白紙に戻し、小金井市からのごみを引き受けないことを決めた。
さらに小金井市のごみを引き受けていた青梅市なども受け入れを中止するに至り、小金井市はプラスチックなど資源ごみを増やし、都外の民間の処理業者に処理を委託せざるをえなくなった。
責任とって市長が辞任する事態に
どこに焼却施設を造るのか、不透明な状況が続く中、2011年10月に市長選があった。「外部へのごみ委託処理費を無駄遣い」と主張していいた元朝日新聞記者の佐藤和雄氏が、対立候補を破って当選した。
佐藤氏は、微生物を使った「ごみ減容システム」を導入するとし、過去4年で増えたごみ処理費を「無駄遣い」と批判していた。それまで小金井市のごみ処理を引き受けていた周辺自治体が怒りを爆発させた。「もう引き取ってやらない!」。
驚いた佐藤市長は、周辺自治体を回り、謝罪を繰り返し、市報に「無駄遣い」の主張を撤回する文書を掲載したが、小金井市のごみを引き取ってくれていた周辺自治体は納得せず、佐藤市長は引責辞任した。無責任な主張が後で何を招くか、よくわからなかったようだ。
元市長が復帰し、施設立地の筋道描く
その後を継いだのが元市長の稲葉孝彦氏だった。選挙で再び市長に選ばれると、市政のカジを執り、日野市と国分寺との話し合いを進めた。2015年7月に3市による浅川清流環境組合が発足し、日野市内の浅川のそばに焼却施設を造ることが決まった。2020年春、1日に228トンのごみを燃やせる焼却施設が稼働し、小金井市のごみ焼却問題は、ようやく解決した。
もちろん、用地周辺では不満を持つ住民もいたようだ。2017年の建設工事説明会ではこんなやりとりがあった。
住民「工事を行う前に、ごみ処理広域化について住民合意を得ることが先ではないか」
組合「お住まいの方々の一定の理解は得られており、組合が設立、整備事業が進められていると考えています。より一層の理解が得られるよう、引き続き務めて参ります」
この住民の意見について、別の住民らからこんな意見も出た。
「市民の代表である議会の議決をへて工事を行うのだから、建設に反対するのなら、市議会へ声を届けるべきだ」
「(うちの自治会は)日野市と施設の煙突の高さや規模、リサイクル施設の建設による可燃ごみの減量等について協議を重ねてきた。その結果、反対運動を止め、連絡協議会に積極的に参加することに合意している」
もちろん、関係自治会に対し、市は、稼働時期を概ね30年とし、構成団体間で共同処理について再度協議し、引き続き施設整備を行う場合には、新施設の設置場所を日野市の区域外とするとの覚え書きを3市が交わしている。ごみ処理施設は、現在でも迷惑施設と見られ、立地をめぐってもめるケースが多い。
次の整備次期が来て、小金井市内での整備を求められた場合にどうするか。重要な課題だ。
食品ロスとリユースの取り組みを進める小金井市
小金井市は、2024年2月、2024年度の「一般廃棄物処理計画」をまとめた。2023年に審議会に案を出し、この記事の「上」で紹介したように、生ごみの処理計画の変更時期を、小中学校については延ばすことになったが、後は承認された。市は「循環型都市『ごみゼロタウン小金井』」を目指すとし、
- ごみを出さないライフスタイルの推進(リデュース)―食品ロスの推進
- 再使用の促進(リユース)―リユースルートの構築と円滑な運用の推進
- 資源循環システムの構築(リサイクル)―生ごみ資源化施策の推進
- 分別・啓発活動の強化―施策や取り組みの「見える化」による効果的な啓発の強化
- 環境教育・環境学習の推進―町会・自治会・子供会などの団体への環境学習の支援と推進
などを挙げている。ここでは、①の食品ロスと②のリユースを紹介しよう。
計画には、2023年度の取り組みが紹介されているが、食品ロスでは、食品ロス削減マッチングサービス「小金井カメすけ」の普及拡大として8店舗が協力店になった。
これは、賞味期限や消費期限が近くなった食品の値段を下げてタベスケのウェブサイトに登録(出品)してもらい、オファー成立後、店で現物を受け取り、支払うというサービスだ。2022年から運用されているという。協力店を増やすことが2024年度の課題だ。
リユースでは、野川クリーンセンターでリユース事業「ゆづる輪」の普及拡大のため啓発活動を行うという。すでに市では、市民が「ジモティー」でユーザー登録した後、市の施設である野川クリーンセンターに市民から集められたリユース商品を市が掲載、市民が選択して申し込み、マッチングしたらセンターで引き渡しを受ける仕組みがある。
小金井市では回収した粗大ごみを修理し、リユース商品として市民に販売していた小金井市提供
これまでは、シルバー人材センターに委託し、家具などの粗大ごみを修理し、野川クリーンセンターで売却していたが、メリカリ、ジモティーなど民間でのリユース事業の急拡大で、自治体のリユースは先細りとなり、廃止していた。それに代わって、民間業者の仕組みを取り入れようという試みである。
民間事業者に倣う傾向強まる
さらに2024年度から、民間リユース会社、マーケットエンタープライズから提案された、家庭で不用になったリユース可能なものを「おいくら」に登録し、複数のリユース店から一括査定を受け、売却できるサービスも利用することになった。
これに対し、審議会で、ある委員が「買い取り査定というと、家に上げて査定してもらうことに抵抗感がある」というと、課長は「おいくらは、買い取り査定の予約申請をするサイトです。登録している近所の事業者が査定の申し出をしたお宅に伺います。粗大ごみとして市が回収する前に、リユース業者の助けを得ることで、市民の利便性の向上、発生抑制、リユース展開にもつながっていくと考えています」と説明した。
別の委員から「市のリサイクル事業所の良かった点は、現物を直接見られたことだと思う」と疑問の声が出たが、「無料チラシを見て申し込んだことがあるが、回収されていた。市の粗大ごみとして廃棄すると、最低でも200円の手数料がかかるが、こちらは無料なので悪くない」と言う委員もいて、評価は分かれた。
疑問の声が出たのは、委員らがすでにネットを利用した民間のリユース取引が巨大市場を形成し、何千万人もの人々が利用している実態を理解していなかったり、従来の自治体のやり方に捕らわれていたからかもしれない。
市が自ら行ってきた事業の中で、コストが高かったり、利用が少ない事業は民間に移りつつあるのかもしれない。
高いリサイクル率を保ちながら、リデュースとリユースに積極的に取り組んでいこうというのが、小金井市の姿勢だが、一方で、効率的なリサイクルも大きな課題である。堆肥の原料に不向きな乾燥物を無理に堆肥の原料に使い、業者から高額のお金を払って堆肥を購入し、ごく少数の農家に無料で譲るという従来のやり方を改めようとしているのも、その1つである。
公共施設に設置されたペットボトルのキャップの回収容器小金井市提供
従来のリサイクルの優等生と言われてきた小金井市が、リデュース、リユースの分野でも優等生となり、効率的なリサイクルが行えるか注目したい。