東京都小金井市はいかにしてリサイクル優等生になったのか(上)

東京都小金井市はいかにしてリサイクル優等生になったのか(上)

東京都多摩地域は30市町村、東京都民の約3分の1の428万人が生活しています。23区と違い、分別とリサイクルに熱心で、2022年度のリサイクル率は平均で37.2%。中でも小金井市のリサイクル率は44.8%(2021年度)。環境省によると、人口12万4,000人の小金井市は、全国10~50万人の市の中で、神奈川県鎌倉市に次いで2番目に高い数値です。全国の市区町村の平均19.9%の2倍以上です。

毎年全国ベスト3に名前を連ね続ける小金井市のリサイクルの秘密は? その背景をさぐると、焼却施設の建設予定地の立地をめぐる迷走ともいえる歴史が浮かび上がります。

環境ジャーナリスト 杉本裕明



多分別に取り組む

住宅密集地の多い小金井市には適地がなかなか見つからず、市外の民間業者に処理を頼ったこともあるなど、不安定な状態が続いてきた。そのため、何とかして焼却量を減らそうと、市は、細かい分別を市民の協力のもとで行い、リサイクルに積極的に取り組んできた。

小金井市 ごみ排出量の推移
小金井市提供
ごみ・資源物の流れ
小金井市提供

焼却処理は、日野市、国分寺市と3市で設立された浅川清流環境組合(日野市)の焼却施設で2020年から安全に処理されている。それでも小金井市はごみ減量と資源化の方針を保ち、細かい分別による資源化への取り組みの手を緩める気配はない。

東京都日野市にある浅川清流環境組合のクリーンセンター
杉本裕明氏撮影 転載禁止

しかし、資源化にかかる費用はかなりの額になるため、市はいま、効率的なリサイクルを模索している。

審議会で、生ごみと廃プラスチックのリサイクルの変更を議論

2023年6月に開かれた小金井市廃棄物減量等推進審議会。市は、現在のリサイクルについて、生ごみ資源化施策と廃プラスチックのリサイクル手法の変更だった。

市が堆肥化事業を始めたのは2000年。生ごみ乾燥物を資材にしてできた堆肥を製品化することを目指した。生ごみ乾燥機の購入を補助し、2007年からは小中学校に大型の生ごみ処理乾燥機を設置、肥料化実験施設で肥料化に取り組んできた。2015年に実験施設の老朽化に伴い、閉鎖後は、回収した生ごみ乾燥物を(株)エンザ(東京都中野区)の群馬県吾妻町にある堆肥化施設で堆肥化し、業者が原料の一部を使い製造した堆肥を市が購入し、無料で市民や農民に配布してきた。

食品リサイクル堆肥は市民に無料配布されている
小金井市提供

現在、大型生ごみ処理機は、小中学校・保育園19カ所、集合住宅7カ所、 障害者福祉センター1カ所に、計27台、リース方式で設置されている。これとは別に約800世帯が、市の補助金を使い、電動式の乾燥式生ごみ処理機を持ち、市が生ごみ乾燥物を収集している。

しかし、乾燥機は大量の電気を消費し、大量のCO2を排出すること、無料配布した堆肥は特定の農業者のみが使用するだけという課題があった。

そこで、市は、家庭からの回収は続けるが、大口の学校からの回収をやめる。委託先を代えて費用圧縮に務めるなどの改正案を審議会に示した。ごみ対策課長が説明した。

課長「(市が施策として挙げた)バイオガス発電・堆肥化・飼料化という3つの方策の中では、市が取り組んでいる堆肥化を軸とした事業検討が一番現実的だと思っています。2022年1月に気候非常事態宣言を出しています。市施設に設置している(電気で熱するためCO2を排出する)生ごみ処理機から削減できないかと考えました」

「食品リサイクル堆肥の無償配布は、生ごみ乾燥物を中町処理施設に併設されていた『肥料化実験施設』に搬入し、実験成果物である堆肥を市民の皆さんに無償配布していました。1キロ10円で堆肥製造業者に売却し、生成された堆肥を1キロ200円程度で買戻ししており、費用対効果のバランスがよくないと考えています」

「ここ数年で多摩地域内に堆肥化施設ができており、近隣で安定的に処理していくことができ、経費的にも適正な範囲で収まっていくと考えられ、民間処理施設を活用できないか検討していきたい。例えば(株)イズミ環境(東京都八王子市)を利用している八王子市の場合、市内の小学校や農家の方に堆肥を配布して有効活用していただいています。バイオガス発電の(株)西東京リサイクルセンターでは、市が搬入したごみの投入量に応じて削減できたCO2量の証明書が発行されますから、成果を上げていくことを児童に示して環境教育を行うこともできます」

副会長「(小金井市の)提案は、市内14か所に設置している生ごみ処理機のリース期間が終わることを機に、何か展開したいというものです。学校という事業所から出てくる給食残渣だといっても、市民の生ごみも投入されているので、やはり無関係ではない。そこをつないでいくような方策でなければ、市民が協力しているところが薄れてしまいます」

夏休みに乾燥されたなまごみを投入する住民
小金井市提供

「学校の中で生ごみを集めたものが堆肥になって帰ってきて、その堆肥を使った農作物が学校給食に使われているという循環利用がすでにできています。それを可視化するのが教育として一番よい。農家に対する堆肥の無料配布をやめてしまうと、その循環利用が切れてしまうことになりますが、それでよいのでしょうか」

委員「うちの場合は食品リサイクル堆肥を100%使用しており、できた野菜は全校ではないものの、注文があった学校で給食に使用されているため、うちに限って言えば循環ができています」

別の委員「この案の中では(株)イズミ環境の堆肥化がよいのではないでしょうか。堆肥化して戻ってきた時に、無料とは言わないまでも市場よりは安い値段で使っていただけるということもあり得ます」

同年8月の審議会でも、環境教育の立場から存続を求める意見が出た。市は、学校や保育園から出た給食調理くずなどは学校に設置したダストボックスに入れ、それをイズミ環境の堆肥化施設に持ち込み、堆肥にしてもらう。購入した堆肥は小中学校に無償配布し、環境教育の一助としたいと説明した。

その後、市は、難問にぶつかった。学校では、これまで給食室の担当者が教室で余った食べ残しの生ごみを、生ごみ処理乾燥機に入れ、回収業者が生ごみ乾燥物を堆肥の製造業者に運んでいた。

しかし、今度は、教室で余った生ごみを給食室の担当者がビニール袋に詰め込み、それをダストボックスに保管し、業者が回収するシステムになる。このため、学校現場から「大量に生ごみが出る学校では、ビニール袋に入れて保管するが、ダストボックスから臭いが外に拡散しないのか」など、導入には細かい検討が必要だという声が相次いだ。

そこで、生ごみの量の多い小中学校は、導入をしばらく見送り、他都市の前例を調べるなど、慎重を期すことになった。保育園の生ごみは量が少ないため、予定通り2024年度に導入することになった。八王子市の民間業社に持ち込み、堆肥化される予定だ。

もう1つの課題のプラスチックのリサイクル。市は従来から、容器包装リサイクル法で定められた容器包装プラスチックの回収だけでなく、独自に文房具、CD、おもちゃなどの製品プラスチックも回収してきた。一括回収したプラスチックごみは、市の野川リサイクルセンターで選別し、容器包装プラスチックは容器包装リサイクル協会(容リ協会)に引き渡しリサイクルに回る。しかし、製品プラスチックは、浅川清流組合に送り、焼却処理していた。これでは、せっかく集めた製品プラスチックが燃やされ、発電にしか使えない。

小金井市の野川クリーンセンター。資源物の処理が行われている
小金井市提供
浅川清流環境組合でプラスチックごみを運ぶ
杉本裕明氏撮影 転載禁止

今回、容器包装リサイクル法の省令で、両方のプラスチックごみを協会に引き渡すことができるようになったため、2025年春に稼働する新しい資源物処理施設で、両プラスチックごみを混合ベールにし、容リ協会に引き渡すことにした。ただ、製品プラスチックのリサイクル費用は自治体の負担となるため、年間約3,000万円のリサイクル費用がかかる。

多分別がリサイクルの秘訣だが

小金井市から出る家庭ごみの品目を見ると、相当多くの品目が資源と見なされ、リサイクルのルートに乗っていることがわかる。

例えば、新聞、雑誌、空き缶、ペットボトルなどはどの自治体も同様だが、「難再生古紙」「くつ・かばん」「ペットボトルのキャップ」「乾燥生ごみ」など独自の品目が並ぶ。すべて民間のリサイクル業者に委託し、有効利用されているという。

こうして市の資源物は年間1万2,500トンにもなり、高いリサイクルを示す要因となっている。その分焼却量は減り、約1万4,000トン。可燃ごみは収集ごみの約半分しかなく、全国平均の8割強を大幅に下回る。つまり、焼却量を減らすことが、リサイクル率を高める秘訣なのだ。

しかし、リサイクルにはお金がかかる。例えば、生ごみを乾燥した乾燥物は業者にキロ10円で売却しているが、業者が製造した堆肥をキロ200円で購入している。別の自治体から給食の生ごみの堆肥化を委託された埼玉県の業者は、筆者にこう語る。

「そもそも家庭から出た生ごみは異物が多く、堆肥化には不向き。学校や病院などから出る生ごみは異物が少ないので使える。でもバークなど別の材料を大量に使わないと堆肥にならない。それでも農家は生ごみを嫌うから売れない。うちは軽トラック1台500円で、客寄せの材料に使っている」

最近、生ごみを原料に使われているが、資料化と、メタン発酵発電である。これらの紹介は、別の機会に譲りたい。

生ごみでも難しいのに、乾燥生ごみを堆肥の原料として受け入れる業者を見つけるのは簡単なことではなかったという。生ごみを使ったリサイクルでは、メタン発酵発電施設が主流になりつつある。しかし、小金井市単独で導入するには、処理人口が少なく、建設費用も巨額になる。小金井市が導入するなら、幾つかの自治体で構成する一部事務組合でやるしかない。

そんな小金井市が、なぜ、リサイクルに取り組むようになったのか、その経過を振り返ってみよう。

隣接3市で焼却施設を運営

小金井市は、隣接する府中市、調布市と一部事務組合を作り、3市の境界線に「二枚橋焼却施設」を建設、1967年から処理していた。その後、多摩地域の人口の増加に伴い、ごみ量は右肩上がりで増えていった。70年代後半、組合は、近い将来新たな焼却施設が必要になるとして、焼却施設の建て替えの提案を地元住民にした。

しかし、地元は拒否反応を起こし、話は立ち消えになった。心配した東京都は近くにある都立公園の一角を提供したいと持ちかけたが、近くに土地を持つ国際基督教大学などが猛反対し、頓挫した。

議会が、2市との約束を反故にする決議

膠着状態のなか、1985年小金井市の議会は「二枚橋焼却施設の建て替えは、小金井市民の現状を十分に斟酌(しんしゃく)し、公害のない、住民に迷惑をかけない施設とし、かつ、他に第二工場を建設することが付帯条件である」と決議し、別の場所での焼却施設の設置を求めた。ところが、これには組合の構成メンバーの調布市と府中市が「約束違反だ」と猛反発した。

二枚橋の用地1万1,000平方メートルのうち、小金井市は4,100平方メートルを所有するだけで、残りは府中市と調布市の用地で、3市は、二枚橋での建て替えを行うことで合意していたからだ。①建て替えの実焼却量は、1988年度の実績を超えない、②それ以上になった場合は各市で責任を持って処理することなどを決めていた。当時の府中市の幹部は、筆者にこう言っている。

「毎日家庭から出るごみは焼却施設で安全に処理されないといけない。処理が滞ったら、ごみが溢れて大変なことになる。小金井市は切実な問題と考えていないのではないか」

隣接2市が離脱し、混迷状態に

さて、90年代後半になって、調布市と府中市は建て替えに見切りをつけ、調布市は三鷹市と構成するふじみ衛生組合として焼却施設を造り、処理することを決めてしまった。一方の府中市も、1993年に稲城市、狛江市でつくる多摩川衛生組合に加入しています(その後国立市も構成団体に入った)。

こうして2市が離脱し、小金井市は孤立状態に陥ってしまったのです。そのうちに施設の朽化が進み、修理を繰り返してきたが、もう限界だった。

ごみの行き場に困った小金井市が頼りにしたのが、西隣の国分寺市。「焼却施設ができたら国分寺市のごみを受け入れます。それまでは、小金井市のごみを引き受けてもらいませんか」。小金井市の提案に、自前で焼却処理している国分寺市も将来を考えて、この話に乗った。

国分寺市の人口は約13万人と小金井市とほぼ同じで、1市だけで焼却施設を持つには人口規模が小さすぎた。そこで、国分寺市との約束を担保に、小金井市の幹部たちは、多摩地域の他の市町に「焼却施設ができるまで、うちのごみを引き受けてください」と頭を下げて回った。そして、老朽化で二枚橋焼却場が閉鎖された2007年3月までに受け入れてもらう約束を取り付けたのだった。

しかし、二枚橋の焼却施設のコストはトン当たり25,000円ですんでいたのが、持ち込み先の市に持ち込む処理費は、施設の管理費だけでなく、建設にかかった費用の一部も加えられて、トン当たり45,000円から50,000円になった。それでも助けてもらっただけであり、感謝しなければいけない。

当時の稲葉孝彦市長は、ごみ非常事態宣言を行うと同時に、市役所の中に検討会をつくり、新焼却施設の建設場所の選定に着手しました。2カ所に絞り込んだ。周りに高層マンションが建ち、リサイクル施設のある用地と、近くに住宅が密集する二枚橋焼却施設の跡地だ。

しかし、両地域の住民に知らせることなく検討を進めたため、それが明るみに出て、議員や市民から批判を浴びることになる そこで、市は市民参加方式を採用し、2007年4月に別の検討会を設置した。2カ所の周辺住民8人を含む市民23人、学識者4人の計27人をメンバーに選んだ。

当時、市は、国分寺に対し、「2008年6月までに候補地を決める」と確約しており、残された時間は1年3カ月しかなかった。でも、検討会の委員の多くは、このことに関心を払わなかった。

市民は、この検討会の議論を注視していたのだが――。

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