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資源循環進めるための法律ができた 動脈産業と静脈産業が連携し、高度なリサイクルに挑む再資源化事業高度化法(下)

資源循環進めるための法律ができた 動脈産業と静脈産業が連携し、高度なリサイクルに挑む再資源化事業高度化法(下)
千葉県のコンビナート。廃プラから再生品をつくる事業に各社が取り組みはじめた
杉本裕明氏撮影 転載禁止

引き続き、再資源化事業高度化法の制定過程を見ていきましょう。EU(欧州連合)では2027年から加盟国で走る新車は、プラスチック部品の25%は再生プラスチックを使うことが義務づけられます。日本車は、それを満たさないと、EU加盟国に輸出できません。今回の法律はそれをクリアできるようなものなのでしょうか。

ジャーナリスト 杉本裕明



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再生材の利用率等の義務付けは経産省が否定し消滅

結論からいうと、クリアするのは非常に厳しいと言える。肝心のEUが導入している再生材の義務づけについては、経産省の小委員会で田中課長が否定し、議題から消え、環境省も追随した。高度化法には再生材の義務づけはおろか、EUが進めている認証制度もない。

再生材の使用を義務づけたり、進めるためには、製品の認証制度が必要だ。もし、国がリサイクル製品ごとに認証し、業者に使用するよう定めたら、再生材をつかった製品は大きくのびることだろう。経産省はともかく、資源循環を進める政策をまかされている環境省が消極的なのは、これが初めてではなかった。 かつて、こんなことがあった。

2020年に建設汚泥とコンクリート塊のリサイクル材について、産廃処理事業振興財団が認定すると、リサイクル工場から出荷する時点で廃棄物を卒業し、有価物として流通できるようになった。だが、環境省はしばりをかけた。公共事業など工事ごとに、製品の認定を受けねばならないとしたのである。もし、製造する工場と再生材を認定し、全国どこでも有価物と流通できるとすれば、使い勝手がよいとして需要は高まることだろう。

だが、工事現場ごとにいちいち認証を取り、そのために多額の認定料が必要とされる。そもそもライバルとなる建設発生土はただ同然だから、使い勝手がよくなくては再生材が広がるわけもなかった。2021年からスタートし、2024年4月現在までに認定数はわずか9件(うち3件は成友興業。ただし、成友興業が建設業者として購入する形になっている)しかなく、新しい認定事業として成立していない。これでは、再生材の普及は絵に描いた餅となってしまう。これについて、環境省の中堅幹部は「規制緩和どころか、規制強化。全国産業資源循環連合会事務局と環境省の幹部で話し合い、事前に決まっていたのだろう。産廃業者は「それを知らされていなかった」と語る。

再生品の利用拡大はバージンの世界と競合

環境省がこんな制約を課したのは、リサイクル材といって不適正な処理が行われる恐れを懸念したという建前と共に、建設発生土の利用拡大に苦しむゼネコンやその背景にいる国土交通省と経産省が勝手な再生品の認定を認めないという「掟(おきて)」が邪魔していた。

廃プラスチックから水素を造るガス化プラント(川崎市川崎区扇町の昭和電工、現レゾナック)の川崎事業所。こうした。廃プラスチックからガスや化学原料を得る化学処理も増えそうだ
杉本裕明氏撮影 転載禁止

再生材を増やせば、その分バージン材料は減る。静脈産業が潤えば、動脈産業はマイナスの影響を受けるというわけだ。「動静脈連携」というきれい事を唱えてはいても、内実は、再生材を製造したといいながら不良品として廃棄処分したり、闇に葬られることが廃棄物処理業界には存在する。

さて、ここで目を、国が打ち出したカーボンニュートラルの政策に向けてみよう。

2050年カーボンニュートラル打ち出した菅首相

「高度化法の発端は、経産省からの働きかけだった」と、環境省の職員は明かす。昨年春に再生資源循環局にたこ部屋ができ、法制化の検討が始まった。そのきっかけは、GX経済移行債である。

話は、2020年10月26日に遡る。菅義偉首相は、開会した臨時国会の所信表明演説で、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した。「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」。

これには、「米国が同様の内容を発表するのに先手を打った」という菅総理のセンスの良さを褒める意見から、安倍政権時代から水面下で、脱炭素の時代に遅れたくないという経団連の意向を受けた経産省が準備を進めてきた、あるいは、公明党が働きかけたなどという推測がいまも、飛び交っている。

だが、環境省内では、環境官僚が菅氏にかわいがられている小泉進次郎環境相を動かし、説得させたという見方が流されている。菅政権は、デジタル庁発足とDX推進で知られるが、2050年のカーボンニュートラル(CN)を宣言したことが、CNと経済成長の両立を目指すGX(Green Transformation、グリーントランスフォーメーション)につながっていく。

炭素税構想潰した経産省のGX債に環境省は飛びついた

安倍政権下、環境省は、財務省出身の中井徳太郎統括官を中心に炭素税の実現に向けて検討を進めていた。炭素税論議は、内閣府に検討組織ができ、財務省、経産省、環境省など関係省庁が協議していた。

環境省は、財務省を抱き込み、環境省主導の炭素税を成立させようとした。中井統括官は2020年7月に次官になり、炭素税の成就に向けて財務省への働きかけを強めた。

だが、一転したのが、経産省のGXの動きだった。GXを打ち出した経産省は、環境省の炭素税構想を潰した。中井事務次官は通常の次官の任期1年を超え、2年在籍したが、炭素税実現の目処がたたず、2022年秋退官した。

GX経済移行債が発行されると、環境省は、移行債の振り分けを采配する経産省の軍門に降り、「よい関係」(環境官僚)となった。20兆円のGX経済移行債の多くは動脈産業の水素・アンモニア製造などで大企業に手厚い補助が行われる。 下の図は、政府の業界支援金である。

環境省の使い道対象は廃棄物処理業界と自治体

「おこぼれでもほしい」と環境省が狙ったのが、資源循環の分野。環境省が所管する業界は、廃棄物処理業界とペット業界しかない。もう1つは自治体がある。これまでは、中井氏が統括官の頃、打ち出した地域資源循環共生圏を環境省として進めていた。

これは端的に言えば、メタン発酵発電施設などの中核施設を地域循環のメーンとし、自治体のエネルギーの自給自足を進めようとするものだった。しかし、予算と人材(自治体・環境省)の不足などの制約があり、中井氏が環境省から消えてからは、やや低調である。

代わって、環境省が飛びついたのが、GX経済移行債の資源循環枠として用意された約2兆円だった。それを使うためには、廃棄物処理法の規制を緩和し、進めるための法律がいる。経産省からの働きもあり、環境省所管の法制化となった。目的は、動脈産業が資源循環を進めるためには、品質のよい再生材(廃プラスチック、金属)が必要だ。

GXで具体化進む

しかし、今回、化学業界が、来たるべきカーボンニュートラル(CN)に向けた廃プラ調達などを、GXを利用してやろうという動きが、2023年からの環境省の背中を押した。

「静脈の世界で、質のよい廃棄物を集め、再生資源を製造するのは静脈、環境省の所管する世界。環境省主導で、そのために資源循環の法律をつくる」(環境官僚)というわけだ。

新しい法案を検討する中央環境審議会に「静脈産業の脱炭素型資源循環システム構築に係る小委員会」(以下、資源循環小委員会)が設置され、審議が始まったのは7月28日。その前月の6月、岸田首相が記者会見でこう述べた。

「世界各国は、例えばGX(グリーン・トランスフォーメー ション)の分野において過去に類を見ない、大胆な政 策に着手しており、我が国でも150兆円規模のGX投資を官民で実現していくため、2つのGX法案をこの国会で成立させたところです。今後、この法律の下、例えば我が国が強みを持つ水 素エネルギー活用の基盤を整えるとともに、水素と化石燃料との価格差に着目した支援制度等について、所要の法制度を早急に整備します」

着々と準備進める経産省

2023年7月、経産省の「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」が閣議決定された。内容は、

  • エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXに向けた脱炭素の取り組み
  • 「GX推進機構」の創設(2026年から導入の排出量取引制度(カーボンプライシングと呼ばれる)運営、負担金・(炭素賦課金の徴収に係る業務等を実施する「GX推進機構」の創設。いわゆるGX経済移行債の管理も含める。

7月、資源エネルギー庁が組織改編され、アンモニアの所管が 資源・燃料部から省エネルギー・新エネルギー部に一部移管。省エネルギー・新エネルギー部内に「水素・アンモニア課」が新設され、法制化のために8月、経産省所管の産業構造審議会に「水素保安小委員会」が新たに設置された。いずれも9月以降に小委員会の審議が開始された。

資源循環経済小委委員会は、エネ庁所管の総合資源エネルギー調査会に設置された「水素・アンモニア政策小委員会」、「脱炭素燃料政策小委員会」と合同会議を開き、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案」(水素社会推進法案)の元になる提言を2024年1月にまとめた。

さらにエネ庁の調査会に設置された「カーボンマネジメント小委員会」は二酸化炭素の貯留事業(CCS=Carbon dioxide Capture and Storage)について審議し、同様に同年1月にまとめた。それら2項目は、経産省専管の水素社会推進法案とCCS法案として2024年2月国会に提案された(5月に成立)。

2023年12月にGX実行会議で取りまとめられた「GX実現に向けた基本方針」に基づき、(1)GX推進戦略の策定・実行、(2)GX経済移行債 の発行、(3)成長志向型カーボンプライシングの導入、(4)GX推進機構の設立、(5)進捗評価と必要な見直しの法定化が打ち出されていたのを具現化したものだ。

上の図は経産省が出した今後の道行き

GX推進法は「脱炭素成長型経済構造」唱える

同法は、2050年のカーボンニュートラルのために「脱炭素成長型経済構造」にするとし、3条の定義で、「脱炭素成長型経済構造とは、産業活動において使用するエネルギー及び原材料に係る二酸化炭素を原則として大気中に排出せずに産業競争力を強化することにより、経済成長を可能とする経済構造をいう」。資源循環は出てこない。脱炭素成長型経済構造のためには、資源循環が不可欠であるが、廃棄物の所管の環境省に任せたということだ。

GX打ち出した経産省の狙い

ところで、2022年6月にとりまとめた経産省の審議会の新機軸部会中間整理では、以下の目標と対応の方向性が提示されている。

【長期ビジョン: 2050年に炭素中立型社会を実現。2030年にはGHG排出削減目標▲46%を実現– 定量目標。今後、2023年から10年間で 、官民合わせて、150兆円の投資を実現。20兆円規模の必要な政府資金を先行して調達し、速やかに投資支援に回していくことを検討】。2023年2月10日に「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定された。

環境省は炭素税を断念、経産省のGXに乗り換えた。官邸に対する経産省と環境省の影響力の違いが、この結果を招いたわけだが、今後は20億円のGX経済移行債の一部、2兆円が環境省の「取り分」となった。それを使うためには、法律が必要であり、それが高度化法だった。

環境省にとって頭の痛いのは、自治体のカーボンニュートラルの取り組みを支援する重要な政策である「脱炭素先行地域」の取り組みがうまく進んでいないこと。「地域脱炭素ロードマップ」では、地方自治体や地元企業・金融機関が中心となり、少なくとも100か所の脱炭素先行地域で、2025年度までに、脱炭素に向かう地域特性等に応じた先行的な取組実施の道筋をつけ、2030年度までに実行するとなっている。

しかし、環境省のエネルギー特会を使った交付金を得ながら、自治体の取り組みはうまく進まず、交付金を返上する自治体が相次いでいる。頼りにならない自治体に代わって、その使用先のメーンとなったのが、資源循環、静脈産業だった。

廃棄物処理業の未来は

法案の審議は衆議院環境委員会で行われ、4月12日に可決。参議院に送られ、可決ののち5月22日に本会議で可決され成立、同月29日に公布された。4月8日に4人の参考人が陳述した。その概要を紹介したい。

参考:衆議院インターネット審議中継 2024年4月9日 環境委員会

藤枝慎治全産連理事が参考人に

一人は、藤枝慎治全産連理事(全国産業資源循環連合会理事、神奈川県産業資源循環協会会長)。陳述は、パワーポイントの内容を読み上げ。環境省に提出された10項目の要望書の紹介し、動静脈の連携の推進、公民連携などをあげた。他の委員は具体的な要望や懸念する点をあげた。

大阪産業大准教授の花嶋温子さんは、市民の立場、自治体の立場、事業者の立場に分けた。市民の立場として、

  • 法案はリサイクルに特化しているが、肝心のごみ減量の意識が薄れないか心配
  • 再資源化施設の設置について住民の要望が伝わるか疑問

と述べた。さらに、自治体の立場として、

  • 再資源化事業の監視を誰がやるのか。設置認可許可権のない市町村が見ることは難しい。国が情報を提供せよ
  • 自治体が基準や知識の蓄積をしてきたからそれを生かした運用を
  • 「地域循環共生圏」として応援を

と訴えた。 そして、事業者の立場として、

  • 法律によって、大企業が地方に進出していくと考えられるが、地元に根付いた小さな事業者がおいてきぼりにならないように
  • 地域を大切にする環境省の地域循環共生圏の核となるよう運用してほしい
  • 資源は有限。CO2削減にも配慮し、市民啓発を御願いしたい

と述べた。

先の全産連の役員よりも、産廃業者の懸念をわかりやすく伝えた。自治体や本来、全産連が訴えないといけないようなことを、花嶋さんが代弁する格好となった。

次の小型の油価装置の販売会社の役員は油価装置を開発したが環境省のお墨付きがなく売れないなどと訴えた。3年前にできたばかりで実績のない業者がなぜ、呼ばれたのか疑問が残った。最後の4人目は、環境省の外郭団体、地球環境戦略機関の主任研究員の栗生木千佳さん。EUの環境政策が専門で、高度化法案の素案づくりをした中央環境審議会の小委員会の委員で、この法律を「社会システムのデザインの変革(EUが盛んに主張し、産業政策として進めている)の第一歩」と評価しながらも、課題として、

  • 長寿命化
  • 便益(再製造、リユース、リサイクル)
  • 資源の代替(枯渇資源を別のものに)
  • 省資源(軽量化、シェアリング、サブスクリプション)

を挙げた。そして、EUが指令を出し、目標値を掲げて、法律の規制によって行われているのに対し、日本はそうではなく、「限界がある」とした。

こうして法律は成立した。資源循環の動きは関係者の様々な思惑を抱え、徐々に進む。

参考文献
環境省 資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案の閣議決定について
経済産業省 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案【GX推進法】の概要

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