長野県最大の湖「諏訪湖」の自然を守り、未来につなぐ活動とは?長野県諏訪地域振興局企画振興課 諏訪湖創生ビジョン事務局 インタビュー
提供:長野県諏訪地域振興局企画振興課
諏訪湖は長野県の中央部に位置する県内最大の湖で、豊かな自然と文化に彩られた観光地です。 その美しい地域を守り、未来につなげるため、諏訪湖ではさまざまな取り組みが行われていることをご存じでしょうか。 諏訪湖では、水質保全や周辺のごみ対策、そしてアクティビティの活用など、さまざまな角度からまちづくりが行われているのです。
自然と共存し、誰もが魅力的に感じられる観光地を目指すため、諏訪湖で取り組まれている活動を「長野県諏訪地域振興局企画振興課」の諏訪湖創生ビジョン事務局に伺いました。
美しい湖を守って未来につなげる「諏訪湖創生ビジョン」
――諏訪地域と言えば「諏訪湖」が有名ですが、その美しさを守るため「諏訪湖創生ビジョン」が策定されたと伺っています。こちらは、どのような経緯で作られたのでしょうか。背景や目的を教えてください。
諏訪湖創生ビジョンは、官民や地域が一体となって「人と生き物が共存して、誰もが訪れたくなる諏訪湖」を実現するための道筋となるものです。 諏訪湖をより良くしていこうという取り組みのきっかけは、昭和50年代まで遡ります。この頃の諏訪湖は本当に酷い環境で、「アオコ」と呼ばれる植物プランクトンの大量発生により一面を緑色に覆いつくされ、見た目が悪いだけでなく、臭いも深刻でした。
これは何とかしなければならない。誰もがそのように感じ、周辺住民と行政が一丸となって諏訪湖の浄化に取り組み、地道なごみ拾いや下水道の整備など、長年にわたって続けてきました。 そうした粘り強い取り組みが少しずつ実を結び、現在は水質基準で「泳げる水質」と言えるレベルにまで改善されています。
そして、次のステップとして平成30年に「20年後に向けて、諏訪湖をどんな形で発展させていくべきか」という点を地域の皆さんと一緒に考え、「諏訪湖創生ビジョン」を策定しました。 このビジョンに基づいて「水質保全」「生態系保全」「湖辺面活用によるまちづくり」「調査研究・学びの推進」を軸に、人と生き物が共存して、誰もが訪れたくなる諏訪湖を目指した活動を展開しているところです。
管理が難しい「ヒシ」が諏訪湖の大きな課題
――水質保全は現在どのような問題があるのでしょうか。
諏訪湖の環境保全に欠かせない問題が、水草「ヒシ」との付き合い方です。ヒシは地中に根を張り、湖面に葉を出す浮葉植物で、水質の浄化に役立っている面もありますが、枯れて湖底に沈んでしまうと、それがまた湖を汚す原因にもなるため、これを「管理」しなければなりません。 毎年、地域の皆さんと連携してヒシの対策に力を入れていますが、2024年は機械で約731トン、機械で刈れない部分を手刈りで約8.5トンも除去しました。
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ただ、単純に「全部刈り取ればいい」というわけではないのがヒシの難しいところだと言えます。 それは、ヒシが繁茂することで、栄養塩が吸収されたり、豊かな生態系がつくられたりする側面もあるため、刈取量や時期などを検討していく必要があるからです。
2024年に開所した諏訪湖環境研究センターでも、ヒシの生態についての研究を進めるとともに、そのデータを蓄積し、科学的な解析を行っています。しかし、近年は貧酸素水塊の発生という問題も出てきています。 貧酸素水塊とは、湖の底層などで酸素濃度が極端に低下する現象で、これが発生した水域では生物が大量死するといった悪影響が出るものです。 諏訪湖に発生した貧酸素水塊は、ヒシの大量繁茂によって、水の流れが妨げられることが一因ではないかと考えらえていますが、確かなことは分かっていません。
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また、過去にも貧酸素水塊の発生が原因ではないかとされるワカサギの大量死が発生しましたが、調査しても決定的なメカニズムまでは突き止めるには至りませんでした。なお、その調査の一環として、ナノバブルで酸素を湖底に送り込む対策などを試している団体もありますが、諏訪湖全体に効果を出すには規模的に難しく、引き続き地道な調査や研究が必要となる状況となっています。
ちなみに、除去したヒシは単にごみとして燃やすのではなく、干して肥料としてリサイクルし、付近の学校などに配布して使っていただくことで、域内での循環にも取り組んでいます。
なお、諏訪湖環境研究センターについては、諏訪湖を中心に長野県内の河川や湖沼の水質と生態系に関する調査研究を一体的に行っている施設です。水環境にまつわるさまざまな情報を専用ウェブサイトで発信しているので、周辺地域の方だけでなく、県外の方にもご覧いただければと思っています。
参考:長野県諏訪湖環境研究センター 専用ウェブサイト
諏訪湖のごみ問題とアクティビティによるまちづくり
――諏訪湖はごみ問題に悩まされていたとのことですが、現在はどのような取り組みが行われているのでしょうか。また、アクティビティにも力を入れているとのことですが、どういった目的があるのでしょうか。
湖畔のごみ問題についても、地域の皆さんの意識が非常に高く、自治体単位だけでなく、民間主導でごみ拾い活動等が行われています。地域の方の努力のおかけで目に付くような場所はきれいに保たれていますし、2024年に開通したサイクリングロードは、地元の方々だけでなく、観光客にもご利用いただいていますが、以前に比べ諏訪湖周における目に見えるごみは少なくなりつつあります。
ただ、目に見つくゴミは減っても、マイクロプラスチックはかなりの量が確認されています。目を凝らしてみないと見えないマイクロプラスチックの存在についても関心を向けていただくために、2024年の11月1日に「諏訪湖まるまるごみ調査」というイベントを開催しました。マイクロプラスチックをはじめ実際にどんなごみが落ちているのかを確認しながらごみ拾いをすることで環境意識の醸成に繋げています。行政主導だけでなく、地域の皆さんが主体的に活動されていることが、ごみの少ない諏訪湖が保たれている理由だと考えていますが、こうした啓発活動を継続していきたいと思います。
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アクティビティに関しては、まちづくりとしての側面が大きいと言えます。 諏訪湖の水質基準は「泳げる状態」になっておりますが、誰もが「泳ぎたい」と思える状態にはなっていないと思います。 そこで、2024年はカヤックなどの水辺のアクティビティを楽しんでいただくイベントを開催し、まずは諏訪湖の水に親しんでいただく取り組みを進めています。
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先ほど触れたサイクリングロードも、諏訪湖の湖編面をアクティビティに活用いただくよう、2024年4月に開通しました。 諏訪湖一周は約16キロという自転車で移動するにはちょうどいい距離で、レンタルサイクルの店舗もあるため、観光客だけでなく、地元の方の健康づくりにも役立つ、大切な「湖畔の活用」の一環だと捉えています。
その他の諏訪湖の名物といえば夏の花火が有名ですが、賑わいが落ち込む冬は御神渡りの発生が話題です。 御神渡りは、諏訪湖が全面結氷すると氷の筋が発生する神秘的な現象で「神様がお渡りになった跡」と言い伝えられています。
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そのため、この幻想的な景色を一目見ようと多くの観光客が訪れるきっかけとなっていたのですが、残念ながら近年は温暖化の影響なのか御神渡りが観測されない状態が続いており、冬の貴重なトピックが減ってしまっている状況です。
自然から受ける恩恵を未来につなぐ取り組み
――これからの諏訪湖はどのような課題があるとお考えなのでしょうか。また、自然と共存して地域を発展させるためには、どういった意識が大切なのか教えてください。
今後の課題としては、例えば水環境の保全について言えば、このビジョンで目指している20年後の姿、例えば本当に「泳ぎたくなる諏訪湖」になっているかは、正直言って難しい目標です。 しかし、そこへ向けて一歩ずつでも前に進めていくことが重要と考えています。 実際に遊びに来てもらい「思ったよりも汚くない」と感じてもらうことから始まり「足くらいまでならつけてみたい」という認識の変化につなげていく。そんな段階的な目標達成を目指していければと思います。 地道に活動を続けていく過程で、皆さんと課題を共有しながら、粘り強く議論等を重ね、諏訪湖の創生を進めていくことが、最も重要なことではないでしょうか。
諏訪湖の水環境保全や湖編面の活用・街づくりに関する課題についても、様々な立場やご意見がある中で、環境・観光・漁業などのワーキンググループ等で、皆さんそれぞれが「諏訪湖を良くしたい」という共通の思いを持って議論を重ね、活動に取り組んでいます。
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諸説ありますが、諏訪湖はおよそ130万年前から存在する、本当に歴史の古い湖です。昔から、この湖の周りには人の生活の営みがあり、人々はずっと諏訪湖の恩恵を受けて暮らしてきました。 古くは、漁業に始まり、「世界の生糸」と呼ばれた岡谷ではかつて製糸業が栄え、諏訪は現在も日本有数の精密機器産業の集積地になっております。また、諏訪大社では御柱祭などの伝統的な祭事が継承されていますし、御神渡りをはじめとする地域の信仰や祭礼の場としての役割も果たしています。このように、諏訪湖の水と自然環境に支えられ、歴史的に産業と文化を育んできました。このことから私たちは諏訪湖に「生かされて」きたという経過があります。
改めて意識しないと気づきませんが、私たちの生活で使われた様々な水は、終末処理場を経由しますが、諏訪湖が受け皿となっていますので、普段の生活をしているだけでも、常に諏訪湖にお世話になっています。自然と共存することは、我々にとって当たり前の生活の一部になっているかもしれませんが、改めてその恵みを受けて暮らしているという事実を、ときには意識することが必要かもしれません。
私たちは諏訪湖創生ビジョンの活動が、そうした自然との深い結びつきに目を向けるきっかけを提供し、関心を持っていただく機会になればと願っています。諏訪湖を大切に思う気持ちが芽生え、未来につながる取り組みや活動に、少しでも自発的にご協力いただけるようになれば、本当にありがたいと思います。そうした思いを胸に、これからも活動を進めていきたいと考えています。
参考:長野県 諏訪湖創生ビジョン/諏訪地域振興局
諏訪湖創生ビジョンとは
諏訪湖創生ビジョンは、諏訪地域の宝である諏訪湖の、水環境保全と諏訪湖を活かしたまちづくりを一体的に進め、「人と生き物が共存し、誰もが訪れたくなる諏訪湖」を実現する道筋となるものとして平成30年3月に長野県諏訪地域振興局が策定。現在官民協働で様々な取組を進めている。










