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暑い夏が続くと思ったら急に冬がやってくる 日本は四季から二季に変わったのか 専門家が語る異常気象 立花義裕教授インタビュー

暑い夏が続くと思ったら急に冬がやってくる 日本は四季から二季に変わったのか 専門家が語る異常気象 立花義裕教授インタビュー
ラジオゾンデを使った気象の観測。気球を飛ばし高層大気の状態を測定し、データを無線で地上に送る

ここ数年は延々と猛暑が続くと思ったら急激に寒くなる、といった温度の落差が激しく、驚いている人も少なくないでしょう。 また、強い豪雨や台風の発生が増えたようにも感じられます。 これらの異常気象は何が原因なのでしょうか。

今回は気象学の専門家である、三重大学生物資源学部の立花義裕教授に、異常気象の原因や私たちもできる対策をお伺いしました。

日本は四季から「二季」に?続く猛暑の原因とは

――立花先生は気象学の専門家として、さまざまなメディアで「日本は四季から二季になった」と指摘されていますが、二季とはどのような状態なのでしょうか。また、日本が二季に変化してしまった原因も教えてください。

二季とは、夏が非常に長く、春と秋の期間は少しだけで冬はしっかり寒くなる、という気候の変化です。 日本は四季がありましたが、温暖化の影響で春と秋は短くなって、2つの季節だけになってしまった。 それを警鐘も兼ねて二季と言っています。 これまで、温暖化は徐々に進行していましたが、二季に変わったと確信するほど、去年から大きく変わりました。 それから、さまざまなメディアで二季という言葉を使い始めています。

二季に変化してしまった原因はいくつかありますが、その1つは日本周辺の海面水温の変化です。 去年あたりから海面水温の上昇が激しく、太陽が夏の様相を示すよりも先に海から暖かい風が吹くため、早い時期に気温が高くなる。 さらに、夏の終わりも水温が高い影響で、いつまでも暑い日が続き、しかも海から吹く風はじめじめしているから、湿度の高い嫌な日々が続くのです。

では、なぜ海面水温が上がっているのか。これは地球温暖化が原因で、世界的に水温が上がっているのですが、日本は特に熱くなっていると言えます。 なぜなら、黒潮という熱帯から流れてくる暖かい海流が、日本に近付いているからです。 黒潮は以前からありましたが、これまでは日本列島を少し南に離れて東を流れていました。 それが去年あたりから、より日本列島に近付き、日本海側や北海道まで流れるようになっています。 そのため、今の日本列島は黒潮に挟まれ、より熱くなっている状態です。

日本の夏が長く暑くなった原因は海面温度の上昇が関係している
earth.nullschool.netより引用

これは前例にないことですが、なぜ黒潮の流れが変わったのかという点も気になるところですよね。 完全に原因が解明されたわけではありませんが、海流の変化は偏西風という地球の上空を西から東に流れる風が激しく蛇行し、これが海流を引っ張っているから、と考えられています。

以前の偏西風は日本付近の上空で吹いていましたが、今は逆で日本を迂回するように北へ向かうようになりました。 そうすると、黒潮もこの気流に引っ張られて、北に流れてしまうのです。 偏西風が蛇行する現象も、温暖化が原因と考えられます。 地球の気候は偏西風を境にして、北が寒く、南が暑くなりますが、温暖化の影響で北極地方が温かくなると、偏西風は蛇行して日本よりも北に吹きやすくなる。

今年も猛暑でしたが、偏西風が圧倒的に北へ向かってしまったため、日本は温かい空気に覆われてしまった。 つまり、異常な気候と異常な海流は連動しているのです。

急激な暑さや寒さは偏西風の蛇行が関係していると考えられる
三重テレビ、Mieライブ「気象らぼ」から引用

日本の夏が異様に暑くなる理由は、さらにあります。それが南北傾斜高気圧です。 南北傾斜高気圧は新型の高気圧で、偏西風の蛇行が関係して発生します。 温暖化によって北に蛇行した偏西風は、日本を覆うように凸の形に流れますが、するとオホーツク海あたりの上空に時計回りの渦ができて、これが高気圧を発生させる。

そして、この高気圧がまっすぐ降りれば北海道より北に位置するはずが、南の方に傾斜して日本付近に中心を持ち、長い間居座り、日本を暑くしているのです。 南北に傾いた高気圧だから「南北傾斜高気圧」と名付けたのですが、これが偏西風の蛇行が激しくなり始めた2010年頃から、ずっと発生しています。

夏が終わったら急に冬!温暖化でも冬が寒い原因

――逆に、夏が終わると急激に寒くなる原因はどこにあるのでしょうか。また、二季の他に注目すべき異常気象があれば教えてください。

夏は偏西風が蛇行して北に吹くから暑くなると話しましたが、冬の寒さはこの向きが逆になることが原因です。 偏西風の向きが変わるきっかけは、夏と冬で異なります。 もともと偏西風は西から東へ、寒い地域と暖かい地域の境目に吹きますが、夏は温暖化の影響で熱くなった大陸の空気が日本に流れ込むため、それを避けようと北に蛇行して暑くなる。 逆に冬は日本の西にあるシベリア大陸から、非常に冷たい空気が温かい海を目指して北西風が吹き、その影響で偏西風は南に蛇行します。 要するに、大陸と海洋の温度のコントラストが夏と冬で逆になるので、夏は偏西風がより北に蛇行し、冬は南に蛇行する。 さらに、温暖化によって蛇行に拍車が関わるため、温暖差も激しくなると考えられるのです。

偏西風の向きが逆になる時期は、だいたい11月から12月頃で、いきなり寒波がやってきます。 そして、この寒波は昔とは違うものです。 なぜなら、冬も日本近海は水温が高いままで、熱いお風呂の上に冷たい空気がやってくるようなものだから、大量に水蒸気が発生し、雪雲を発達させて大雪を降らせるからです。 温暖化によって冬の温度も高いものの、偏西風の蛇行によって寒波は強く、降るときは豪雪。 だから、夏と冬だけがはっきりしていて、四季から二季に変わったと言える状況なのです。

二季の他に注目されている異常は、まず豪雨が挙げられます。 近年は、晴れれば猛暑、降れば豪雨という極端化が顕著です。 これも海面水温が原因となります。水温が高いから水蒸気が大量に発生し、それが雨雲になって豪雨を降らせる。 だから、豪雨も温暖化によるものと言えるでしょう。

昨今は、猛暑に豪雨、豪雪など異常気象が頻発していますが、間もなくこれが普通の状態になると考えています。 いま気温が40度になれば異常と感じると思いますが、このまま温暖化が進めば、それがニュースになることもありません。

台風も同じことが言えます。 日本の近くで動かなかったり、ゆっくり動いたり、今年も異常な台風が発生しましたが、これが普通になってしまう。

これを私は異常気象の「ニューノーマル化」と言っています。 今まで異常と考えていたものが普通になる。そんな状態でさらなる異常が起こったら、とんでもないことになるかもしれません。

異常気象は止められるのか?タイムリミットは

――異常気象のニューノーマル化が進む中、私たちの生活にどのような変化があるのか教えてください。また、この状況はどれだけ危機的なものなのでしょうか。

まずは農業の変化です。 今年は既に米の品薄がありましたが、これも普通になります。 暑さによって米の作況指数が落ちて、一等米の比率も下がる。 しかし、多くの人が美味しい米を食べたいからブランド米に殺到して、結果的に品薄になってしまうでしょう。

対策として、暑さに強い米に切り替える必要がありますが、それも難しいかもしれません。 消費者は美味しいブランド米を食べたいと思うからです。 暑さに強い米があっても、収穫が難しいブランド米を消費者が求め続けたらどうでしょうか。 農家の方も収入のために消費者の期待に応えようとするはずです。 でも、暑さによって収穫も限られているから品薄になる。 そんな状況を変えるためには、私たち消費者も意識を変える必要があるでしょう。

水産物も海流が変わった影響で、獲れる海の幸に変化があり、減少も見られています。 昆布の収穫も危ぶまれ、日本の食文化が失われてしまうかもしれません。

この状況は本当に危機的なものですが、日本ではその認識が不足しています。 ヨーロッパでは多くの人が自分事と捉え、日常会話で温暖化の話題が出ることもあり、どうすれば二酸化炭素を出さない生活を送れるのか、と真剣です。 世論が後押しするから、政府も環境問題に取り組むよう舵を切っていますが、そういう意味では日本は非常に遅れている気がします。

その一因は教育の差です。 イタリアでは小学校から気候変動に関する授業が必修科目で、その原因をしっかり学んでいます。 ヨーロッパでは環境問題のメインは気候変動。環境問題を語るとき、最初の切り口は気候からなのです。 しかし、日本では環境問題を学ぶとしても、気候の問題はその一部でしかありません。

このままでは異常気象が普通になるかもしれない、と警鐘を鳴らす三重大学生物資源学部の立花義裕教授

世界の平均気温が産業革命前より、1.5度上がると地球の気候は非常に危険な状況になると多くの研究者が指摘していることをご存じでしょうか。 偏西風の蛇行も黒潮の状況も二酸化炭素を削減すれば、その分だけ元に戻る可能性はありますが、平均気温が1.5度超えてしまったら、気候変動は暴走すると考えられています。 どんなに二酸化炭素を削減しても、異常な気象は緩和されず、後戻りできない状況になってしまうのです。

この1.5度の境界を臨界点、英語ではティッピングポイント(tipping point)と言いますが、実は既に1.4度を超えています。 残りはたった0.1度と崖っぷちの状況ですが、日本の多くの人はそれを知らない。 中には、地球の気候は氷河期に向かっているから、焦って温暖化対策を進める必要はないと主張する人もいます。

確かに、地球の気候は氷河期と間氷期(気候が比較的温暖な時期)がありますが、これは10万年という長いスケールで繰り返されているものです。 間氷期に入った時期は縄文時代なので、そういう意味では何万年後には氷河期は来ますが、今起こっている温暖化は時間のスケールが違います。 それどころか、二酸化炭素がこれだけ増えてしまったら、太陽と地球の位置関係で訪れる氷河期もやってこないという説すらあるほどです。

臨界点に到達するタイムリミットは下手したから5年かもしれません。 2年前までは私もこれほどの危機感はありませんでしたが、去年と今年の異常を見る限り、2030年までには何とかすべき問題だと感じています。

2030年を達成目標とするSDGsも、最も重要度の高い課題の1つに気候変動の対策を挙げています。 日本でもSDGsに取り組む企業や団体が増えましたが、多くが問題を横並びに考えている印象です。 気候変動というベースとなる問題を解決しなければ、すべて崩れてしまうのに。 だから、SDGsに取り組む多くの方々に、それを知ってほしいと思います。

気候変動に対して私たちができることは?

――先生のお話を伺い、気候変動対策の重要性を感じましたが、私たちが個人レベルで取り組めることはあるのでしょうか。

私はできるだけ車に乗る機会を減らし、歩いたり自転車に乗ったり、移動手段を意識しています。 車に乗らない人は、電気をこまめに消すとか、LEDを使用するとか、とにかく意識を変えることが大事です。 これは人によって生活スタイルが異なるので、それに合った二酸化炭素の削減方法を意識してほしいと思います。

気付きにくい例を挙げるとしたら、窓の断熱性を上げること。 窓を取り換えるのは難しいので、断熱カーテンの使用がおすすめです。 これを使うだけでも、エアコンの効き目が変わるので、夏も冬も二酸化炭素の排出を抑えられます。

EV車や太陽光パネルを導入するといった例もありますが、お金がかかる方法は大変なので、無理して続かないよりも続けられることから始めてください。大事なのは、無理して耐え忍んでまでして、行動しないことです。それでは長続きしません。新しい生活スタイルを楽しむほうが圧倒的に長続きします。ダイエットと似てますね。

そして、一番大事なのは気候変動を自分事と考える人が大多数になることです。 一部の人がいくら頑張っても、気候変動は改善されません。 半数以上の人が少しでも気候変動について考え、二酸化炭素を出さない生活を心がければ、きっと変わるはずです。

――最後となりますが、立花先生が所属する生物資源学部では、どのようなことを学べるのでしょうか。また、環境問題に興味がある方々にメッセージがあればお願いします。

生物資源学と聞いたら、生物系の研究をイメージするかもしれませんが、私たちの生物資源学部は農学部と水産学部が合併して、さらに理学系のグループも合流した学部です。 そのため、生物を育む環境について研究し、農林環境や海洋生物だけでなく、気候も対象となります。 生物にとって、最適な気候がどういうものか。その変化や関わりなど広く学びます。 気象の研究の多くは地球学科系の学科に含まれますが、異常気象を農業や海洋水産とマージさせた学部は、日本では限られているはずです。

もし、生物資源学部に興味を持っていただけたら、気候の問題を解決できるよう、ぜひ一緒に頑張りたいと思います。 環境問題に興味がある方は多くいるかもしれませんが、その中心は気候問題です。 若い人たちが活躍する時代に、酷い環境であってほしくない。だから、私も手伝います。

それから、たまにテレビに出させてもらっていますが、環境問題を扱う番組は視聴率が低い傾向にあると感じています。 国民の中に興味を持つ人がいないから、マスメディアでもそういう情報は取り扱わない。 そうなると、さらに興味を持つ人は増えなくなってしまうので、環境問題を取り扱う番組は積極的に見て、周りに広めていただきたいと思います。 それだけでも、ポジティブな動きにつながるはずです。 テレビに限らず、そういった情報はマメにチェックしてもらえたら、多くの人の意識が変わるきっかけになるかもしれません。

立花義裕(たちばな よしひろ)
気象が好きになったきっかけは、2年毎に転校した引っ越し。雪の少ない地域から豪雪地帯へ移ったとき、同じ日本なのに場所によって気象・気候・文化が違うことに驚愕し、気象にのめり込んだ。転勤族だった父親に感謝している。江別市大麻西小学校卒業。札幌南高校卒業。理学博士。ワシントン大学などを経て、2008年より現職。専門は気象学、気候力学、異常気象。自由な校風でユニークな先生達と級友と出会った高校時代と、小学校の恩師の独特な授業との出会いが、研究を自由に楽しみ、わかりやすく伝えるスタイルの土台。「羽鳥モーニングショー」を始め、ニュース番組、バラエティ番組にも多数出演。定期的に出演している三重テレビの情報番組「Mieライブ」は、番組YouTubeで見ることができる。また、小・中・高校への出前授業、講演活動も行っている。幼少期から大学時代までの生い立ちや後進へのメッセージが書かれたインタビュー本『今の自分があるのは、小学校の時に仮説実験授業をうけたことにある』立花義裕(談).NPO法人楽知ん研究所からネット販売。(検索:楽知ん商店街)。

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