リユース市場拡大の動き見据え、環境省がロードマップ作成 優良事業者ガイドラインの策定で、業界の健全化促進
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止
リユース市場の規模拡大を見据え、環境省が、優良事業者ガイドラインを策定することになった。今年3月に示されたロードマップによると、リユース市場は2024年の3.5兆円から2030年に4.6兆円と1.32倍に拡大すると予測し、リユース業者と連携してリユースを進める自治体の数を、いまの300から2030年までに600に増やすことをめざしている。
一方、市場の急拡大によって新規の参入が激増し、業界は玉石混交の乱立状態にある。消費者の中古品の売買を巡るトラブルも多い。そこで、環境省は、消費者が安心して利用できるよう、どのような行為が求められるのか、優良業者の判断基準や対象とする事業者の業態や取り扱う品目の範囲を盛り込んだ優良事業者ガイドラインを2年かけて検討し、業界に示したいという。
ガイドラインづくりを担当する環境省の金子浩明・地域資源循環企画官と、リユース業界に詳しいリユース経済新聞の浜田里奈編集長に話をうかがい、対談形式でまとめた。
ジャーナリスト 杉本裕明
リユース市場は今後も拡大していく
――リユース市場が急拡大しています。
金子企画官「環境省は、定期的にリユース市場規模を試算しています。一般消費者が購入した中古・リユース品の総額は2024年の現状値は3兆5,000億円。3月にまとめた「リユース等の促進に関するロードマップ」では、2030年までの取り組み指標として4兆6,000億円という目標値を掲げています」
――市場を拡大することが、社会にとってどんないいことなのでしょうか。
金子「まず、2040年に向けた将来像を描きました。『適正なリユース市場の創出』『リユースの裾野(すその)拡大』『リユースを当たり前にする社会』の3つを掲げました。そのための行程を20230年の取り組み目標を設定し、数値化しました。『リユース市場の規模』は2024年度の4年度の1.3倍の4兆6000億円、『リユースの裾野の拡大』では、自治体とリユース業者との協働の取り組みを行う自治体を現在の300から600に増やす、『リユースを当たり前に』では、生活者(消費者)が1年に1回でもリユースを使った実施率を現在の40%から50%に引き上げるとしています」
参考:環境省
――3兆5,000億円には、中古車の販売額の1兆5,000億円が含まれていますね。一方、リユース経済新聞社も毎年市場規模を出しています。
浜田編集長「私たちも業界を取材し、把握したデータを積み上げて出しています。私たちは中古車を含めていませんが、2024年で約3.3兆円としています。将来予想は、順調に伸びた場合、2030年に4兆円、2040年に5兆円を予想しています」
市場が大きくなった要因はこれだ
――同じ市場規模の把握をめぐって両者でこれだけ違うというのは、個人同士の取引のマッチングなどで急成長するリユース業界の実態を把握することが難しいことや、何をリユースというのか、定義もはっきりしていないことなどが影響していると思います。それでも伸びるという認識は両方一致しています。急成長の要因は?
金子「メルカリ、ジモティといった売る側の消費者と買う側の消費者をつなぐCtoCのサービスが増えてきました。コロナで野外での活動が減り、自宅にいる時間が増えたことも影響しているのだと思います」
浜田「成長の理由は3つあります。1つは消費者の節約志向。リユースはインフレに強い市場です。2008年のリーマンショックで、消費者の所得が減り生活防衛意識が高まった際に伸び、さらに最近の物価高が追い打ちをかけています。新品よりも安いリユース品を選ぶ人が増えました」
参考:環境省
――2つ目は?
浜田「リユースの一般化です。2013年からのプリマアプリ、メルカリが登場しました。それを後押ししたのがスマートフォンの普及です。これを使い、消費者は売る側と買う側の両方を兼ねるようになりました。いま、家で死蔵されたモノをそのままにしていたらもったいない。だから売りましょうというわけです。これに若年層や主婦層も参加し、拍車がかかりました」
――最近の中国はじめ、海外からの観光客のインバウンド効果もあります。
浜田「3つ目は環境意識です。若い世代は、物心ついたころから、地球温暖化やSDGsの教育を受けていて、サステナビリティへの共感があります。そのため過剰生産・過剰消費に違和感を持ち、中古への抵抗感がない。さらにSNSや古着ブームもあって、『1点ものの古着の方が、自分の個性を表現できる』と言われるようになっています。かつては中古品、使用済み品というと、『ちょっと我慢している』イメージでした。しかし、むしろ、持ち主が代わるだけで、製品を長く使い続けることは、かっこいい生活スタイルとZ世代を中心に評価されるようになりつつあります」
――なるほど、3つの要素、非常に説得力があります。環境省も製品を長く使い続ける長寿命化を重視していますね。
金子「中古品を買うことに対する抵抗感がなくなってきているのでしょうね。物価高の中、新品より安いリユース品はコスパがいいですし。ライフスタイルが変わってきていることもあります。例えば、カーシェアリングの増加。車を所有せず、カーシェアリングで車を使うというのが、新しいライフスタイルとして定着しています」
経済が循環していく仕組みにリユースを位置づける
――これまで環境省は、廃棄物の適正処理とリサイクルに力を入れてきましたが、リユースにはあまり関心を払ってきませんでした。
金子「リユースは、環境省が従来から進めてきた3R(リデュース、リユース、リサイクル)の1つではありますが、リサイクルする場合は、主に許可事業者が廃棄物を処理して、できた再生資源を製造事業者が利用して製品を作る、というように物の流れやその効果が比較的わかりやすい。しかし、リユースは有価の物としてそのままの形で人から人に渡ると、その流れが見みえづらく、それが経済や環境にどういう効果があるのかがわかりにくい。そこで、それを明らかにし、経済が循環していく仕組みにリユースを位置づけていくことが、ロードマップを策定した大きな意義だと考えています」
――方針の転換だと思います。ところで、リユース業界はこれまで国の支援も受けず、自力で成長してきました。国の動きについて業界の人たちはどう思っているのでしょうか。
浜田「国がリユースを後押しするのは大きい。信頼できる事業者が評価される仕組みになるなら歓迎されると思います。ただ、過度な規制や実務に合わないガイドラインになると、中小事業者の負担になる可能性もあります。行政としてどのように係わるかです」
――例えば?
浜田「極端な話、仮に、よりよい商品が消費者に渡るようにと、販売時に「衣類は必ず洗濯し、防虫対策まで行って、販売せよ」と、政府が義務づけたとしましょう。業者と消費者とのトラブルは減るかもしれませんが、その対策のための費用で、値段は大幅にアップし、逆に消費者の選択の幅が縮まってしまいます。業界が望んでいるのは、売却を強要する押し買いをしたり、価値あるものを極端に低く査定し信頼を裏切ったりするような、業者の排除です。一部の悪質な業者がリユースのイメージを悪くしてしまうので、まじめな業者は困っています」
政府が優良事業者ガイドラインつくる
――どんな業者なら信頼できるのか、それを判断できるような基準があればいいということですね。環境省も業界から要請を受けて、ガイドラインづくりになったと。
金子「廃棄物なのに、法規制のない中古品だと偽って流通させたり、遺品整理をしてあげると言って法外な料金をふっかけたり、違法業者もいます。また、中古品の扱いについて、法規制のかかる廃棄物か、かからない中古品なのか、判断が難しいなど、グレーな部分があります。このため、リユース業者もどの品目はどのように扱ってもよいのか、行政が判断基準を示してほしいという要望が業界からあがっていました」
――そこで、ロードマップでは、『適正なリユース市場の創出』の将来像を実現するために、リユースの信頼性の向上が必要だとして、優良事業者ガイドラインを策定するとなったと。
金子「リユース業でつくる団体では、違法業者や不適切な買い取り・販売を行う業者の存在により、リユース業者に不信感を持たれるのではないかと懸念しています。違法行為は取り締まられますが、同時に、法令遵守だけでなく、どういうことを心がければ優良事業者なのか、ガイドラインで判断基準を示せば、業界も取り組みやすいのではないかと思います。有識者によるガイドラインづくりのための検討会をつくり、2026年度内にガイドライン案のたたき台を出して、リユース業界や消費者団体などの関係者の人たちに、意見をいただきながら策定していきます」
参考:環境省
――リユースの世界はグレーな部分が多いこともあって、基準作りが難しい。検討会の学者だけで話合うと、頭でっかちで、現実離れした内容になる危険性があります。
金子「検討会には、現場のことをよく知るリユース業界の人たちにも委員として入っていただきたいと考えています。リユース業を営むに当たって、どのような法律・ルールを守らなければならないのか、法律に加えて何に配慮しないといけないのか、といったことを検討会で議論し、優良事業者と言える一定の判断基準を策定したいと思います。ガイドラインには強制力はありませんが、事業者にそれを守っていただくことで、リユース業界全体への信頼を高め、消費者が安心して利用できるリユース市場の構築を目指します。消費者も業者を見分けるときに役立ちます」
従来の価値観と違う人たちが起業
――業界の動向を外から眺めていると、いろんな人がこの業界に参入し、起業してすぐに数十億円の売り上げをあげている企業がたくさんあります。どんな人たちが参入しているのですか。
浜田「リユースは『古着が好き』『トレカが好き』『カメラが好き』といった趣味の延長で起業しやすい。個人の熱量がそのまま武器になる。若い方たちは売り方がうまいです。インスタやTikTokで世界観をつくり売っています。不確実性の高い時代ですので、今の人たちは、就職した会社で出世して定年まで過ごすという画一的な考え方ではなくなっています。一から何かに取り組み、作りだして満足感を得たいとか、従来と価値観が変わってきています。そのステージとして選ばれているのがリユースの世界かもしれません。会う人、会う人、それぞれに個性があって、飽きることがない。私も刺激されています」
―リユース業は、元手が少なくて起業できるといいます。
浜田「それも若者や多様な方の参入が多い理由のひとつでしょう。極端なことを言えば、スマホ1台で起業できますから。仕事をしながら、副業として始めた人も多い。店舗を持つ場合も、新品と比べ初期在庫など、少ないお金で始められます」
――環境省は、自治体がリユースに取り組むのを支援しています。
金子「2022年度から『使用済み製品のリユース促進に係わる検討会』を立ち上げ、有識者を中心に議論すると共に、リユースに積極的な自治体を増やすため、リユース業者と協働した取り組みをモデル事業として、自治体に補助金を出して支援しています。このモデル事業を行ったところは300自治体あり、2030年度末までに600に増やす目標を掲げています。
大臣主導し、ロードマップづくりへ
――浅尾慶一郎前環境大臣がリユースの関係者と懇談会もやっていました。
金子「はい、浅尾前大臣は、リユースの普及に関心をお持ちで、大臣指示の下、2025年1月に『リユース促進に向けた懇談会』が設置されました。初会合は大臣室であり、大臣自らリユース業界の人たちの話を聞きました。懇談会は5月まで4回開き、そこでいただいた意見も踏まえて、有識者の検討会で6月にロードマップの方向性をまとめました」
参考:環境省
――自治体とリユース業者と連携させたモデル事業って、どんなことをやっているのでしょうか。
金子「これまで自治体は、住民が出した不用品を粗大ごみなどの扱いで、処理してきました。燃やしたり、埋めたりする廃棄物の処理にはお金がかかります。それなら、リユース業者と連携し、中古品として別の市民に利用してもらえたら、処理費はかからないし、処分によって発生するCO2も削減できます」
自治体とリユース事業者が協力するメリット
――空き家には使用済みの胎蔵品がかなりあると言われています。そのままにしている所有者も多いです。
金子「埼玉県坂戸市は、これまでも子育て世帯向けにリユース業者と提携し、リユース品のマッチング事業モデル事業に取り組んできました。今回、遺品整理のモデル事業をてがけました。空き家の所有者124人にアンケートし、遺品を整理したいと答えた19人を対象に、市がリユース業者のジモティと協定を結び、遺品の整理、処分を委託しました。リユースできるものは売却し、残った不用品は廃棄物として市の清掃センターで処分しました。全体でリユースされたのが5.8トン、ごみとして処分されたのは25.3トン。リユース品の買い取り価格は約42万円でした」
――自治体にとっても、焼却や埋め立て処分するごみ量と処理費の削減になりますね。リユース業者にはどんなメリットがあるのですか。
浜田「一番は信用、信頼性でしょうか。自治体と一緒に行うことで、役所と一緒にやっているのだから、あの業者は確かだとなります。モノをたくさん所有している中高年層は、リユースに抵抗感のある人も多い。一般的なリユース店だとリーチできない層があるのです。でも、「自治体の紹介」と言うと安心感があるので、例えば不要品の処分で使ってみる、一度使うと良さに気づいてそのリユース店を利用するとなり、リピート客の増加につながります」
――リユース事業者、自治体、消費者の三者ともにメリットがあるということですね。
浜田「実際こんな例があります。あるリユース業者は、自治体と共同で行う店舗の隣に、別の特定のリユース品を扱う店舗を並べました。すると、その特定のリユース品の来店者も増え、売上も伸びました。高齢化に伴って生前整理や遺品整理の需要も増しています。また、空き家問題にもリユースは役立つと思います。全部捨ててしまって処分すればお金がかかりますが、価値あるものを買取りに出せば、むしろお金が入ってくるわけですから。今後も伸びていく市場だと思っています」
金子「行政が業者と消費者を仲立ちし、情報を提供することで、所有者も安心して利用できるかもしれません」
来店者の気持ちに寄り添う応対を
――私もリユース業者が遺品整理するのを取材したことがあります。さすがプロで、分別の作業は手際よく的確で、所有者の信頼を得ていました。廃棄物処理業者にまるごと処分してもらうより、費用は数分の1と、所有者のメリットが大きい。リユース業界が消費者から信頼され、資源循環とCO2の削減に貢献できればいいと思います。リユース業界はいま、どんなことに力を入れていますか。
浜田「お客様とどういい関係を築くということでしょうか。ある大手業者は、査定業務の多くをAIに任せ、店員は、来店者と接する時間を増やし、どう丁寧に、来店者の気持ちに寄り添って、応対できるかに力を入れています」
参考:環境省
――IAIと人の役割分担の好事例ですね。人と人がどのような関係性を結ぶのかという。
浜田「金額ベースでリユース市場は拡大しているものの、利用する人口は増えていないという調査データがあります。一回、買取りを利用してみたところ、いやな思いをしたとか、思ったような金額にならずがっかりしたとかがあって、二度と利用しようとしない。そんなケースがあるようです。例えば使用感があって値段がつかなくても、「大切に使われてきたのですね」と話したり、査定額の理由を丁寧に説明したりする。細かいことのように聞こえるかもしれませんが、リユース市場を成長させるには、こうした積み重ねが大事になってくると思います」
金子「リユース市場の健全化と環境負荷の削減をはかりながら、リユースが当たり前のこととして国民生活に浸透するような業界になってくれることを期待しています」
参考:環境省 リユース等の促進に関するロードマップ










