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自然と歴史を大切に持続可能なまちづくりを目指す神戸市の取り組み 世界初の淡水ブルーカーボンや里山保全など

自然と歴史を大切に持続可能なまちづくりを目指す神戸市の取り組み 世界初の淡水ブルーカーボンや里山保全など
©神戸市

SDGsに取り組み、持続可能性を意識したまちづくりを進める自治体は少なくありませんが、その取り組みが広く認知されているかと言えば、難しいところかもしれません。 そんな中、兵庫県の神戸市は積極的に取り組みを発信し、ユニークなまちづくりを進めています。

今回は神戸市によるSDGsの取り組みと持続可能なまちづくりについて、市の担当者の方に伺いました。

積極的にSDGsの取り組みを配信する神戸市

――神戸市では「SDGs貢献都市 神戸」というHPを昨年4月に公開していますが、こちらはどのような目的で制作されたのでしょうか。また、SDGsの取り組みや発信が活発になったきっかけがあれば教えてください。

「SDGs貢献都市 神戸」は神戸市のSDGsに関する取り組みを紹介するHPです。制作のきっかけは、多くの人が「SDGs」という単語を知っていたとしても、住んでいる自治体の取り組みについては認知が低い、という調査結果からでした。

神戸市のSDGsに関する特徴的な取り組みを、神戸市民の皆様はもちろん、その他の方にも広く知ってもらいたいという気持ちから、写真をメインにした視覚的に楽しめるデザインを心がけたHPを設置し、関心を持ってもらえるきっかけとなれば、と考えています。

「SDGs貢献都市 神戸」は視覚的に楽しめるデザインで、SDGsの取り組みが分かりやすく紹介されている
©神戸市

また、SDGsに関する取り組みが活発化したきっかけですが、神戸市ではターゲットに対し効果的に伝え、国内外に向けた発信力を強化するため、2022年から「広報クリエイティブユニット」を設置しました。

専門的なスキルや知識を持つ外部人材を活用し、戦略的な広報の実施に力を入れ、その中でSDGsは特に重点的に発信を行うべき事業として位置づけ、積極的な広報展開を行っています。

参考:SDGs貢献都市 神戸 https://kobe-sdgs.jp/

神戸市が世界初!淡水におけるブルーカーボンとは

――さまざまなSDGsの取り組みがある中でも、地球温暖化対策として「世界初の淡水におけるブルーカーボン」が話題になっていると思います。これはどういった内容なのでしょうか。

まずブルーカーボンとは、大気中の二酸化炭素が海中の藻などに取り込まれた炭素を指します。藻は海中で分解されにくく、海底へ堆積したり、水中へ漂い続けたり、重要な二酸化炭素吸収源となるため、ブルーカーボンは地球温暖化対策の新しい選択肢として注目され、生態系の維持や回復といった生物多様性の豊かさにも貢献するものとして期待されているのです。

海中の藻などは重要な二酸化炭素吸収源となるため、地球温暖化対策の新しい選択肢として注目されている
©神戸市

そんな中、神戸大学などの研究によって、淡水域でも湖沼によっては大気中の二酸化炭素を吸収していることが明らかになり、淡水域の水草による二酸化炭素吸収・固定(淡水カーボン)の評価方法を確立することにより、池の新しい利用方法となる可能性が出てきました。

神戸市はため池が多く、その中には農業利用されなくなって放置されている池も少なからず存在しています。これらを活用するためにも、神戸大学などと協力して取り組みを開始しました。 これまで日本に古くから存在しているササバモという水草を利用して、淡水カーボンの世界初の評価方法の確立を目指し、神戸大学などが実施する研究に対する支援や、市内にある2箇所のため池でササバモの移植実証を実施しています。

淡水カーボンの研究は神戸大学などが中心となって進められている
©神戸市

現時点では、ササバモによる二酸化炭素吸収量の推定モデルは確立し、固定量の推定モデルの確立に向けて神戸大学などによる研究の支援を実施しているところです。

自然の恵みを次世代につなぐ里山保全の取り組み

――その他に、里山保全の取り組みも大きな反響があったと聞いています。こちらはどのような取り組みなのでしょうか。

今の日本は、かつて里山で普通に見られたアカトンボやメダカなどの動物、キキョウやオカオグルマなどの植物が年々見られなくなっています。 このような里山の変化は、社会経済構造の変化により里山自体が人々の生活から切り離され、利用されなくなってきたことが原因の1つです。 里山の豊かな自然の恵みを享受するとともに次の世代に残していくためには、SDGsの観点を踏まえながら、持続的に生物多様性を守り、育てることが重要で、市民、企業、行政などの様々な主体がつながり、互いに連携していく必要があります。

そこで、神戸市は2023年の1月に「KOBE里山SDGs戦略」を策定し、里山の保全・管理・利用や生物多様性保全など、この戦略に基づく取り組みを全市で推進しているところです。

具体的な取り組みの1つとして、2023年10月に自然共生サイト(※)の第1弾に認定された神戸市北区の里地・里山では、学生や市民団体、大学などと連携し、里山の保全・再生や活用のほか、稲作を通じた棚田環境の保全、耕作放棄地の活用、生物調査などを推進しています。

※自然共生サイトとは「民間の取組などによって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定した区域のこと。認定区域は、保護地域との重複を除いて「OECM」として国際データベースに登録される。OECMとは「Other Effective area based Conservation Measures(その他の効果的な地域をベースとする手段)の頭文字で、国立公園などの保護地区ではないものの、効果的な保全が行われている場を指す。

神戸市北区の里地・里山は自然共生サイトの第1弾に認定された
©神戸市

自然共生サイトに認定された後は、生物多様性の保全や里山の維持・管理などに関心のある企業からの問い合わせが増えるなど、反響がありました。 企業に参画いただくための仕組みを協働で検討する、研修として保全の取組みに参画したい、といったお話もいただいており、これらの実現に向けて調整を進めているところです。 また、自治体や報道機関、出版社などからも取り組みに関する問い合わせをいただくなど、様々な方から関心を寄せられていると感じています。

参考:神戸市 神戸の里地里山が国連のデータベースに国内で初めて登録されました

下水道から再生?こうべ再生リンの事例

――食糧生産に不可欠と言われるリン資源の循環に力を入れていると聞いていますが、こちらはどのような取り組みなのでしょうか。

神戸市では,下水汚泥からリン成分を「こうべ再生リン(リン酸マグネシウムアンモニウム六水和物)」として回収し、肥料として市内の農業生産者や市民に供給することで「地産地消」として循環利用する、資源循環「こうべ再生リン」プロジェクトに取り組んでいます。

下水から回収したリンが循環するイメージ
©神戸市

きっかけは「下水処理場の配管閉塞の解消」と「資源の有効利用」という2つの目標達成のため,2011年度よりリン回収の検討を開始したことです。 さらに2012・2013年度「神戸市東灘処理場 栄養塩除去と資源再生(リン) 革新的技術実証事業」が国土交通省の下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)として、水ing(株)、神戸市、三菱商事アグリサービス(株)との共同研究体として採択され、これを機に消化汚泥から直接リンを回収し,肥料として有効かつ循環利用することを目的とした実証事業を国土技術政策総合研究所の委託研究として開始しました。

リンを回収するプラント
©神戸市

下水から回収されたと聞くと安全性が気になるかもしれませんが、こうべ再生リンは汚泥から純粋にリンの結晶を取り出したものであるため、重金属などの有害成分をほとんど含みません。また肥料成分量は年間を通じて安定しています。10年以上モニタリングを継続して安全性が担保され、肥料メーカーや農業生産者から厚い信頼を受けていることも特徴です。

モニタリング結果については本市HPで公表しており、こうべ再生リンの肥料としての有効性や安全性について広報を行っています。

参考:神戸市 資源循環「こうべ再生リン」プロジェクト

魅力ある建物に再生する空き家の活用支援

――空き家問題にも着目し、ユニークな支援を行っているようですが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。空き家に着目した理由も含め、教えてください。

空き家が管理不全となると周辺に悪影響を及ぼし、地域の荒廃をもたらしかねません。 増大する空き家に対しては個人の問題だけではなく地域全体の問題とも捉え対策を進めていく必要がある、と私たちは考えています。

特に神戸市においては、戦後や高度経済成長の時期に、山麓部やニュータウンで短期間に集中的に住宅が供給されたというまちづくりの歴史があり、今後はこういった地域が一気に老朽化し、空き家が発生するという恐れを孕んでいることから、最も力を入れなければならない分野の1つです。 そのため、神戸市では「使える空き家空き地は売却や賃貸、地域利用などの活用を促し、使えない空き家は解体して、土地の活用を促進する」を基本方針としています。

「使える空き家」の活用に関する取り組みは以下の通りです。

  • 空き家に関する様々な相談が可能で、ご希望に応じて具体的な買取などの提案を受けることもできる相談窓口の設置
  • 民間事業者によって、空き家の流通や適正管理・発生の未然防止などが促進されるよう、空き家対策に取り組む事業者への支援を実施
  • 後述の「建築家との協働による空き家活用促進事業」を始めとした、活用に際して必要となる各種経費への補助制度の充実

「使えない空き家」に関しても、以下のような対策を行っています。

  • 空家特措法・空き家空き地条例に基づく空家等所有者への指導
  • 全国最大の予算規模で実施している「老朽空家等解体補助制度」による所有者自らの早期解体の促進
  • 弁護士を含む特命チームを新設し、財産管理制度の積極的な活用による、所有者不明空き家・危険な空き家の早期改善を推進

使える空き家の活用における「建築家との協働による空き家活用促進事業」は、空き家を活用する際に、その改修設計に建築家が携わることで、空き家がその個性を活かしながら、意匠にも配慮された魅力ある建物に再生・活用される事例が集積し、にぎわいが生まれ、まちの魅力が向上するといった循環を生み出すことで、空き家活用の機運を高めていきたいと考え実施している事業です。

空き家を活用した「山と都市がつながる観光宿泊拠点」
©神戸市
空き家を活用した「里山古民家のカフェ・コワーキングスペース」
©神戸市

空き家を改修し活用する方(申請者)への支援(補助)制度ですが、その要件の1つとして建築家による改修設計が必要となっており、基本的には設計者という形で建築家に参画いただいていますが、中には建築家自らが空き家を改修し活用されているというケースもあります。

なお、改修設計する専門家は市が指定するものでは無く、申請者がご自身で見つけて依頼されるものです。もし、建築家の当てがない場合には、兵庫県建築士事務所協会神戸支部が相談を受けてくださるよう、神戸支部に協力いただいています。

生まれ変わった空き家の活用方法はさまざまですが、2023年度だけでも「山と都市がつながる観光宿泊拠点」「里山古民家のカフェ・コワーキングスペース」といった事例があります。 神戸市のHPでは事例の紹介を、「Good Morning! 空き家」という空き家活用に関するポータルサイトでは、特徴的な事例だけでなく、設計した建築家にフォーカスして紹介もしていますので、こちらも合せてご覧ください。

参考:神戸市 建築家の力で生まれ変わる空き家
参考:スマートこうべ Good Morning 空き家!

自然と歴史を大切に持続可能なまちづくりを

――SDGsや持続可能性を強く意識する神戸市ですが、今後どういった都市を目指しているのでしょうか。

日本の人口は2008年をピークに減少し、神戸市も同じ傾向をたどっている状況です。 このような時代に神戸市がまちづくりにおいて追求したい点は、未来にわたってこのまちを引き継ぐための持続可能性とSDGsの価値観です。

これからも神戸市は、先人たちから受け継いできた自然環境や、まちの歴史を大切にし、都心と郊外にバランスよく人口を誘引しながら、ゆとりがある質の高い生活を送れる、持続可能なまちづくりを目指します。 今後も進化するテクノロジーを積極的に取り入れ、市民や企業、NPO、大学など多様なプレイヤーと関わりながら、ライフスタイルを未来に紡ぎたいと思います。

参考:神戸市 神戸市の公式ホームページ

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