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ゼロカーボン社会の実現に向けて自治体の政策を見る(上) 長野県上田市は、地方鉄道の別所線を再生可能エネルギーで走らせる、長野県はゼロカーボン戦略を見直し、対策強化

ゼロカーボン社会の実現に向けて自治体の政策を見る(上) 長野県上田市は、地方鉄道の別所線を再生可能エネルギーで走らせる、長野県はゼロカーボン戦略を見直し、対策強化
新幹線もとまるJR東の上田駅。地方鉄道の別所線もここが起点だ
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

全国の都道府県、市町村の多くが、地球温暖化を防ぐため、2050年にCO2など温室効果ガスを排出しない「ゼロカーボン(脱炭素)戦略」を策定し、取り組みを進めている。中間目標として設定した2030年の排出量の削減量の達成が、5年後に迫る中で不可能な状況となっている。

長野県では、このままでは、2050年のゼロカーボンは厳しいと、取り組み状況を点検し、計画の見直しと対策の強化づくりに乗り出した。長野県と県内自治体中心に、自治体の排出削減の取り組みを見た。上では、脱炭素先行地域に選ばれた長野県の上田市などの取り組みを紹介する。

ジャーナリスト 杉本裕明



先行地域に指定された市町村では

環境省は、地方自治体の取り組みが重要だとして、「脱炭素先行地域」の選定を増やしている。2050年のカーボンニュートラルに向けて、民生部門(家庭・業務部門)の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等も含め、地域特性を生かして取り組む地域を指定する。

全国100か所を指定し、「脱炭素ドミノ」を起こすとしている。先行的な取り組みの筋道をつけ、2030年度までに実行するとしている。2022年から選定を始め、2025年9月現在で40道府県119市町村の地域が選定されている。長野県では、上田市、飯田市、小諸市、生坂村の地域が選ばれている。

長野県庁から車で約1時間、東京に向かって走ると、上田市に着く。上田市は新幹線の停車駅があり、人口約15万人。上田市の特徴は、市内を走る別所線の利用だ。「ローカル鉄道と市民がともに支え合う「ゼロカーボン×交通まちづくり」と題した先行地域は、上田電鉄別所線沿線、沿線自治会だ。

上田電鉄の経営する別所線は11.6キロ。15駅があり、地域住民の足としての役割を果たしている。起点となる上田駅のホームに立つと、高校生たちが続々と現れ、電車に乗り込んだ。

別所線の上田駅。若い女性、高校生らで客席が埋まる
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

筆者は上田駅と、本社のある下之郷駅で、記念切符を買った。お礼のことばを告げられ、駅員の雰囲気がすごくいい。

「別所線と塩田暮らし応援団」制作、「上田市民エネルギー」発行の「しおだトッコトコ」(VOL.3)に、上田電鉄社員の紹介記事があった。

運転士齋藤宏さん(神奈川県出身)

「学生時代、東急電鉄で『押し屋』のバイトをしていたのが鉄道会社との最初の縁です。車掌になりたくてJR東海に入社しました。その後運転士にも興味が出て、鶴見線を運転していました。第三セクターや地方鉄道を経て上田電鉄と、4社を経験してきました」

「上田電鉄は小さな会社なので、運転士もさまざまな仕事をします。記念切符の企画をイチから立ち上げたり、上司とともにシフトを組んだり、事務仕事に携わったり。滞りなく流していかないといけない運転の仕事に、やりがいを感じる反面、『残る仕事』にも憧れがあったので、ここでいろんなチャンスをもらえています」

「別所線は、ちびっこファンはもちろんですが、庭先まで出て手を振ってくれる大人の人もいます。こんなに手を振ってもらえるのは別所線だけです。通勤のお客様とは顔なじみになって、内勤で2週間ほど乗務しなかった時、『最近乗ってなかったね』と声を掛けられました。お客様のあたたかさは別所線が一番だと思います」

駅務係内村信一さん(長野市出身)

「別所線が好きでよく乗りに来ていた。一ファンでした。しなの鉄道で働いたあとにいくつか違う仕事を経て、高速バスの運転や運行管理をしていた時に中途採用の募集を見て、また鉄道の仕事をしたいと応募しました」

「いまは駅務係として窓口で仕事をしています。きっぷの発券、ご案内、改札などの業務です。(略)車庫のポイントレールの切り替えも行います。いわゆる転轍機を手で動かすので、緊張しますね。勤務は24時間で朝9時から翌朝9時まで。日中は窓口業務や運転士の点呼、車庫の出入り、発券の精算などをして、休憩をはさんで夜は日付が変わるまで仕事をしています」

「私は長野市に住んでいて、しなの鉄道と別所線を乗り継いで下之郷駅の本社に通勤しています。別所線はお客様がとても近いですよね。駅員と世間話をしてくれて、『いってきます』『いってらっしゃい』というやりとりがあるんです」

読んでいるうちに、別所線のファンになってしまいそうだ。

上田市の別所線の下之郷駅。鉄道のレールそばの沿線を自営線でつなぎ、再生可能エネルギーの電力を電車に供給する計画だ
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

そんな地域に親しまれる別所線。上田駅から別所温泉を結ぶ鉄道の架線柱を活用し、自営線を敷設し、沿線近くのため池、遊休地、民間施設、住宅等に太陽光発電パネルを設置し、自営線等を通じて別所線に電力を供給し、ゼロカーボン運行を行うアイデアが光る。

公共交通としてもともと環境に優しいのに加え、鉄道のゼロカーボン化によって、電力の地域内循環を達成しようという。

また、避難所の公共施設や大学に太陽光発電パネルと蓄電池を設置する計画だ。2024年度~2028年度に55億5千万円を投じる。国の補助が3分の2、残りは、実質的に事業の大半を行う市が出資して設立した株式会社サントエナジーうえだが、金融機関融資を受けてまかなう。

上田市の中村和志環境政策課長は「先行地域の取り組みを進め、脱炭素社会を実現したい」と抱負を語る
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

市の中村和志環境政策課長は言う。「ローカル線の別所線は地域住民の貴重な足であり、住民から親しまれている。その別所線のインフラを再生可能エネルギーでできた電力を供給する自営線として使えば、電車は100%再生エネルギーで走らせることができるという案が浮かんだ。いまは、沿線の住宅や民間の太陽光パネル設置が一部で始まったばかりだが、2026年からは事業を本格化させたい」

ブドウ振興にかける生坂村は、小水力と太陽光発電で

人口1,600人の生坂村はぶどうの産地として知られ、延べ30ヘクタールのブドウ畑が、幾つかのブドウ団地として、丘陵地に広がる。

生坂村の掲げる目標は「確かな暮らしを明日につなぎ明るく健やかに生きる村」。村は、2022年6月にゼロカーボンシティ宣言を行った。

しかし、達成のためには様々な施策に巨額のお金がかかる。これを達成するには、村の単独予算だけでは困難だ。悩んでいた時、注目したのが環境省の「脱炭素先行地域」制度だった。

村づくり推進室の藤沢友宏室長が中心となって村の特性を洗い出し、先行地域での民生(住宅)、業務(商業施設、公共施設)の排出量を2030年までゼロにする提案を行い、2023年4月に選定された。

元々村は、「脱炭素ロードマップ」で、2030年度に2013年度比55%削減の目標を設定していたが、先行地域に選定されたことで65%削減に引き上げた。

2023年度から2028年度までの6年間に60億円をかけ、太陽光発電施設と小水力発電施設、蓄電池施設、マイクログリッド、木質バイオマスの活用などをうたう。60億円のうち約3分の2は国が交付金として補助する。

参考:生坂村 地方公共団体実行計画

2025年度から村自営線マイクログリッドを村役場や道の駅などの公共施設と住宅が集まる上生坂地区と、最大のブドウ団地のある草尾地区に自前の送電線(自営線)を作る計画を進めている。養蚕が衰退したあと『次の産業』として1990年代後半からブドウ産業を育成してきた。

生坂村の村役場近くに民家が集まる。太陽光発電施設を重点的に整備するという
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

傾斜地のブドウ畑に水を送るため揚水ポンプをこれまで整備してきた。村内に変電所はなく、長い送電線は2019年の台風で破損し、停電したこともあった。災害から村の産業を守るための方策でもある。

生坂村に広がるブドウ団地の一つ。村は最も大きなブドウ団地に再生可能エネルギーの電力を供給しようとしている
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

供給するのは太陽光発電設備と小水力発電を計画し、100キロワットの小水力は生坂ダムから流れる維持放流水を使うので、必要な手続きはあるものの、水利権をめぐる複雑な調整もいらない。

生坂村は生坂ダムの放流水を利用して小水力発電を計画している
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

藤沢さんは「災害があっても、ブドウ団地を守るため電力の安定供給を考えた。電力網の運用のために、村などが共同出資し、地域エネルギー会社『いくさかてらす』を設立した。電力購入契約(PPA)事業として、公共施設と民家に太陽光パネルと蓄電池を設置、そこから得た電気代でまかないたい」と話す。

先行地域返上した自治体も

松本市は、2022年に全国のトップを切って先行地域に選ばれた。小水力発電と太陽光発電をメーンにする計画だったが、ほころびがでた。

2024年8月に指名型プロポーザルで発電事業者を決めたが、スケジュール通り進められないとの理由で事業者が辞退した。そこで24年12月に公募型プロポーザルを行い、別の事業者が手をあげたが、市の発電事業者選定実行委員会から懸念が示され、25年3月白紙に戻った。

市は、代わりに乗鞍地域に電力を供給するため、松本市内で太陽光発電を行い、供給することにしたが、電力供給を行う地域新電力会社「松本平ゼロカーボンエネルギー」の体制作りが遅れ、2025年9月、先行地域を返上した。

松本市環境エネルギー部環境・地域エネルギー課は「小水力発電事業費が当初計画より4割高騰したのと、利害関係者の調整にてまどるため、5年の計画内に完成させるのは難しいと判断した」と話す。

環境省によると、松本市のほか、奈良県三郷町、兵庫県姫路市も返上している。交付金は、環境省の地球温暖化対策税(エネルギー特別会計)と経産省のGX予算から捻出される。計画期間が5年と長く設定されているのと、補助率が3分の2と高いため、意欲のある自治体が多数手をあげた。環境省は、民生系と事業系を中心に、決められた地域で温室効果ガスの大幅削減に取り組む地域を「脱炭素先行地域」として指定、支援する仕組みをつくった。

全国地図の先行地域リスト
参考:環境省 脱炭素先行地域

環境省は先行地域を100か所指定し、取り組みを進め、他の自治体に波及させることを狙っている。同省の地域脱炭素事業推進課は、「松本市のように事前の準備が整わず、期限内に難しいと判断した自治体もあったが、いまは、事前に調整を済ませてから申請してもらうようにしている。エネルギー特会とGXの切り分けの振り分けは、民間事業者が中心なるものをGS予算としている。

選考地域の選定は専門家からなる委員会が行い、選定された地域の実施状況は、計画年度の折り返し点で、評価委員会に審査してもらうことにしており、フォローできる仕組みにした」)と話す。

参考:NPO法人上田市民エネルギー しおだトッコトコを発行しました!

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