都市農業の機能は食料の供給だけではない!多面的な魅力に注目!

都市農業の機能は食料の供給だけではない!多面的な魅力に注目!

東京23区の農地面積の約4割を占める練馬区は、世界的にも珍しい都市農業が盛んな街です。

2019年11月29日(金)から12月1日(日)には「世界都市農業サミット in 練馬」が開催され、練馬区や世界の都市農業の魅力を知れる貴重な機会でした。そこで今回は、イベントに実際に参加した私が、練馬区の都市農業の魅力についてお伝えします。たくさんある魅力のなかから、以下の5つの魅力をピックアップしました!

  • 庭先直売所で地産地消
  • 農地を残す工夫
  • 子どもの食育
  • 余剰野菜の上手な活用法
  • 災害時の避難場所として活用

都市農業の代表である練馬区の農業の魅力を知れば、さまざまな都市においても、農業は必要であると感じるかもしれません。

都市農業の直売所は地産地消に貢献しながら地域のコミュニケーションの場となる

練馬区では、農園の隣で新鮮な野菜を提供する「庭先直売所」を設置している農家の方が多くいらっしゃいます。その数は農産物ふれあいガイド(庭先直売所の位置が一目でわかるマップ)に記載されているものだけで108カ所もありますが、区の職員の方に聞いたところ269カ所(平成30年8月実施の練馬区農業経営実態調査の結果より)もあるのだとか!
農産物ふれあいガイドは区役所で配布されているので、お好みの農園の新鮮野菜を購入できます。

庭先直売所のメリットは、採れたての新鮮野菜をお客さんに提供できるだけではありません。
まず挙げられるメリットは、野菜の輸送によって発生する、環境問題を抑えられることです。庭先直売所で売られている野菜は、周辺地域の人々が消費することがほとんどで、これを地産地消と言います。地産地消することは、トラックによる輸送が不要となることから、化石燃料の消費や温室効果ガスの発生を抑えられるのです。

もう一つのメリットとしては、農家の方の顔が見えることでお客さんは安心して購入できることにあり、さらに農家の方も喜んで購入してくださるお客さん を見て、野菜を作る喜びを感じるそうです。

ここからは、私が訪れた庭先直売所をご紹介します!

直売所の対面販売は野菜を作る喜びと生きがいを感じさせる

今回私が訪れた鈴木さんの農園は、西武池袋線の保谷駅から徒歩3分。住宅・商業施設に囲まれた中に、5,500平方メートルの畑を所有しています。

鈴木さんの農園

こちらの農園では、キャベツ、枝豆、ブロッコリー、カリフラワーなどの多品目の野菜を栽培し、1日2回、庭先のコインロッカーに野菜を入れて販売されています。

鈴木さんのコインロッカー式直売所では1日2回新鮮な野菜 を入れている

約380年前から先祖代々農業を続けている農業一家の鈴木さんは、サラリーマンを経たのち、農園を継ぎました。鈴木さんが農園を継いだ当時は、キャベツのみを生産していましたが、出荷価格が落ちていて、経営が厳しかったそうです。

 

価格の安いキャベツの生産だけでは、仕事に意欲が湧かないと感じ、多品目の野菜を試行錯誤しながら作るようになりました。

多品目の野菜を直売所で販売するようになってから、お客さんから野菜の食べ方や保存方法を聞かれるようになり、次第にコミュニケーションがとれるようになったそうです。

コミュニケーションをとるなかで、「美味しい野菜をありがとう」と言われるようになり、野菜を作る喜びを感じ、仕事への情熱が生まれ、生きがいになったと、鈴木さんは言います。

美味しい野菜作りには、土作りが大切だと語ってくれました。そのために、カリフラワーの葉を土に鋤込んで有機肥料にし、病気を防ぐために輪作(りんさく:同じ場所に同じ作物を作らないようにすること)を心がけるなど、工夫をしているそうです。

コインロッカー式直売所のおもしろい仕組み

次に、コインロッカー式直売所で野菜を売る、農家の高橋さんにお話をお伺い しました。こちらのコインロッカー式直売所では、商品の値段を100円単位でしか設定できません。ではもし、野菜を150円で販売したい場合、どのように購入してもらうのでしょうか。高橋さんが、その仕組みを説明してくださいました。

高橋さんのコインロッカー式直売所
  1. コインロッカーに200円を入れる
  2. コインロッカーを開ける
  3. 中に野菜と一緒に入っている50円玉を受け取る

おもしろいことに、150円の野菜が入るロッカーの中には、あらかじめお釣り用の50円が一緒に入っているのです。このように差額分を野菜と一緒に入れておくことで、細かい値段設定もできるそうです。

なかには、100円だけでなく千円札も入るコインロッカーもあります。

こちらのコインロッカー式直売所は千円札も入る

自動販売機のように千円札を入れれば、複数の扉から野菜を購入できるようになっています。一度に、たくさんの野菜を購入してもらえるようにする工夫だそうです。

区民農園や生産緑地制度で都市の農地の減少を抑える

練馬区のような都市は土地の固定資産税が高額のため、所有者が農地を維持できずに手放してしまうことがあります。しかし練馬区では、区民農園や生産緑地制度によって、固定資産税を免除・減額する対策をし、農地の減少を防いでいるのです。

区民農園は固定資産税が免除になる

練馬区内には、「区民農園」と呼ばれる農地が約30ヵ所あります。区民農園とは、区が所有者から無償で農地を借り上げ、他の区民に貸し出している 農地のことです。区に農地を貸した所有者は、固定資産税が免除となります。

さらに、区民農園の設備の管理は区が行い、修繕費用も区が負担します。区は区民へ月額400円(一区画・1年11ヵ月間利用可)で区民農園を貸し、区の収益としています。

このような区の制度により、農地を減らさない工夫をしているのです。

生産緑地制度

生産緑地制度とは、都市における農地などの緑地の保全を目的として、1992年に生産緑地法によって定められた制度です。これは、農地の所有者が30年間、生産緑地として農地の維持を約束すると、固定資産税が減額される制度です。農地の所有者の経済的な負担を減らすことで、農地の減少を抑えていたのです。

しかし、1992年に指定された生産緑地は2022年で30年を迎え、固定資産税の減額が終了します。すると農地の所有者は、高額な固定資産税を支払うことになり、農地を手放してしまうかもしれないのです。

そこで指定から30年を経過する生産緑地は、これまでと同様、農地の維持を条件に、特定生産緑地として税の優遇を10年ごとに延長できるようになります。固定資産税は引き続き減額されるため、農地減少を抑える対策になるようです。

ふれあい農園で子どもの食育にも貢献

前述でご紹介した高橋さんの20,000平方メートルある農園では、キャベツ、ネギ、ブロッコリーなどの野菜を作り、コインロッカー式直売所で販売しています。

髙橋さんの農園の写真

練馬区では区の都市農業担当に申し込むことで、農業体験できる「ふれあい農園」が 実施されており、高橋さんの農園でも行われたそうです。ふれあい農園は、ただ農業体験できるだけなく、子どもの食育にもつながっているそうです。

保育園や幼稚園の子どもたちが参加したときに、「いつも食べている野菜と比べて味の違いはどうか」と聞くと、「いつものより、美味しい!」と言ってくれる子が多いそうです。

なかには、ニンジンが土に埋まっていることを知らない子もいるので、驚きから野菜に興味がわき、食育につながるようです。

区の職員の方から、野菜嫌いな子どもの意識に変化が見られるとも聞きました。小学生が小学校の近くにある農地で野菜の収穫体験をし、収穫した野菜をその日の給食で食べられる学校もありますが、収穫した野菜を食べて、普段よりも美味しく感じたと言う子どもが続出するそうです。やはり、自分が収穫したことで野菜に興味が湧いたことで、普段よりも美味しく感じるのでしょう。

こうした食育を通じて、子どもたちに野菜への興味をもたせることで、給食の食品ロスの削減にも役立つのではないでしょうか。

余剰野菜は子ども食堂に送りお裾分けをして無駄にしない

最後に、7,000平方メートルの広い農園を活かし、「緑と農の体験塾」を開催されている、加藤さんの取り組みをご紹介します。「緑と農の体験塾」とは、区民が農園所有者から農園で、野菜の栽培方法を直接学べる農業体験農園です。

加藤さんの農園の写真

種・苗・肥料・農具はすべて農園で用意されており、作付け計画も農園所有者が行ってくれます。農園所有者による15分の座学、栽培方法のデモンストレーション講習に参加後、実際に自分の区画で農業を体験するそうです。

緑と農の体験塾で使える農具

一区画で食べきれないほどの野菜が生産できるそうですが、その消費方法が驚きでした。 緑と農の体験塾の参加者の約96%が、食べきれない野菜を近隣の方へお裾分けしているそうです。参加者一人あたり、3.9軒の近隣の方へお裾分け しているらしく、かなりの量の野菜が収穫されていることがうかがえます。

また、緑と農の体験塾は2015年に練馬区の「野菜のおすそわけ」 と呼ばれる、 体験農園から「子ども食堂」やNPO団体などへ野菜を送るプロジェクトを開始しています。子ども食堂とは、朝ご飯や夜ご飯をしっかり食べられていない子どもに、温かくて栄養のある手作りの食事を提供する場として作られた施設です。

食べきれないほどの野菜を無駄にすることなく、「必要な人の元へ分ける心の温かさ」が練馬区の農業にはあるのです。

都市の農園は災害時の避難場所となり豊富な野菜が備蓄になる

「緑と農の体験塾」を開催されている加藤さんの農園は、災害時には避難場所になります。さらに、炊き出し用の備品も用意されており、農園の野菜を使って炊き出しを行う準備が整っているのです。

世界都市農業サミットでは、災害時に調理される「豚汁」をごちそうになりました。温かく、たくさんの種類の野菜の甘味がぎゅっと詰まっていて、寒い屋外でも心と体が温まりました!

災害時の炊き出しで調理してくださる豚汁やアルファ米(乾燥米飯)

加藤さんの農園をはじめ、区内にある9つの体験農園で、1年に1回避難訓練を実施しています。このように、練馬区の都市農業は新鮮な野菜を提供できるだけでなく、防災面でも機能する重要な場所なのです。

都市農業は野菜の供給・環境保全・食育・防災面で機能するだけでなく人が集まる場所

今回は「世界都市農業サミット in 練馬」に参加し、練馬区の農業を体感してきました!練馬区には住宅地や商業施設の中にたくさんの農園が点在し、東京23区内とは思えない景色が広がっています。

直売所の野菜を買い求めにたくさんのお客さんが集まったり、子どもたちが収穫体験をした野菜を食べたり、自ら作った野菜を近隣に分けたり、避難場所として活用されたり…。

都市農業は、野菜の供給・環境保全・食育・防災面で機能するだけでなく、「人が集まってコミュニケーションをとれる場所」という印象を受けました。そんな多面的な魅力が、練馬区の都市農業にはあるのです。

都市では住宅や商業施設の開発により、農地が年々減少しています。世界都市農業サミットをきっかけに、都市農業の魅力が注目されることを期待しましょう!

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