猛暑にどう対処?地球温暖化進み、住民を直撃 自治体は「クーリングシェルター」への避難を呼びかけ ウォーターサーバー導入の動きも広がる
杉本裕明氏撮影 転載禁止
連日の猛暑が日本列島を襲っている。高気圧が張り出し、気温35度を超えるのは当たり前。7日には静岡市で40.0度を記録した。8日も和歌山県新宮市で39.8度。東京都府中市が39.2度。いずれも史上観測1位を更新しました。連日数百人単位の熱中症患者が病院に搬送され、もはや気候変動という地球温暖化による「災害」の様相を見せています。
環境省は「熱中症警戒アラート」で、インターネットなどで国民に情報を提供し、どう行動したらよいのか、暑さ指数という数値をランク分けして、警鐘を鳴らしています。暑さ対策として自治体がいま取り組んでいるのが、クーラーの効いた公共施設などを「クーリングシェルター」として登録、住民に避難を呼びかけること。冷たい水を供給し、熱中症を防ぐのに役立つウォーターサーバーを設置する自治体も増えています。
ジャーナリスト 杉本裕明
「こんな暑さ初めて」「うだってげんなりだ」
7月4日、東京都心では2024年初めて35℃の猛暑日が観測され、東京、神奈川、千葉、埼玉、静岡の5都県で、2024年初の熱中症警戒アラートが発表され、多数の人が熱中症となり、救急車が出動、病院に運ばれました。
8日、39.2度を記録した東京都府中市。都内では185人が熱中症となり、病院に搬送された。府中市の道路では、人影は少ない。住民は「府中に住んで30年以上になるが、こんな暑さは初めて。エアコンが効きません」。別の主婦は「朝9時すぎには30度を超え、エアコンをフル回転。夜も寝られないのでエアコンに頼りっきりです」と嘆く。住宅街を歩くと、どの家もエアコンの室外機の音がし、フル回転していることがわかる。
心配なのが電気代だ。夫婦2人暮らしのある家庭。「6月の電気代は約9000 円。大幅に料金値上げになったのに、今度はいくら請求されるのか。でもエアコンを使わないわけにはいかない」。
一方で「クーラーは体に合わないから使わない」というお年寄りもいる。熱中症の死亡者が全国であいつぐ中、心配されるのが、エアコンのない家庭や、電気代の負担増を考え、使用しない人たち、特にお年寄りだ。
筆者も、エアコンのない独居老人や、低額の国民年金だけで生活し、エアコン使用を制限している家庭を幾つも見てきた。「エアコンは嫌いだ」というお年寄りもいる。生活困窮家庭は、地球温暖化の最大の被害者である。
これまで、地球温暖化による被害と言うと、ツバルのような海面上昇に伴う陸地の水没におびえる島嶼国家といった、日本とはあまり関係のないものと受け止められていた。日本では、異常気象による風水害が問題になっていたが、国民全体が遭遇するわけではない。
しかし、気温の上昇は、差があるにしても、全国一律にふりかぶってくる。
電気料金の高騰が追い打ち
7月に入っての異常ともいえる高温状態は、梅雨前線が日本列島の北に位置し、本州に高気圧が張り出し、起きたフェーン現象によるといわれるが、その根底には気候変動による地球温暖化の進行がある。
電気料金を巡って、政府はこれまで続けてきた補助金を5月で廃止。6月に続き、7月も高い電気料金に国民の不満が高まる中、岸田首相は8月からの補助金復活を決定したが、「いつまで続くか不透明」「税金投入はふさわしくない」との指摘も多い。
エネルギー価格が比較的落ち着き始めているのを背景に、電力会社は経営を改善し、巨額の利益をあげている。そんな中での電気料金の高騰である。
電気料金をめぐって欧米では、高率の環境税に加え、ウクライナを侵略したロシアからの天然ガスの輸入停止で、ドイツやイギリスの電気料金が2倍(日本の数倍)となり、国民が苦しむ事態を招いている。
日本の場合、原油価格や天然ガスの価格が高騰したのに加え、2012年から始まった再生エネルギー固定価格買取制度による、電気料金への賦課金が、毎年増やされ、電気を使う国民に一律にのしかかる。政府の試算では、賦課金は2030年まで上昇を続け、巨額の賦課金が再生エネルギー業者への補助に使われ、事業者を潤している。
こうした打開の見えない状況が、庶民のエアコン使用自粛につながっているように思える。それを示す調査結果もある。パナソニックが5月に行ったアンケート調査(エアコン所有の20~60代の男女555人が対象)によると、今年冷房利用を我慢しようと思うとの回答が43%。電気代が家計に負担と感じるのが81%を占めた。この数字からもかなりの数の人々が、電気代の高騰を背景に、我慢していることがうかがわれる。
参考:PR TIMES エアコン冷房利用進む、稼働率は関東で4割近くに 電気代値上げ&電気代補助終了で冷房による電気代増加が懸念… 「負担を感じる」81%、「今夏エアコン利用ガマンしたい」43%
「熱中症警戒アラート」の発出
環境省は、熱中症アラートを毎日発信している。環境省の「熱中症特別警戒アラート」(熱中症特別警戒情報)は、気温など幾つかの数値をもとに設定された「暑さ指数」を使い、インターネットなどで地域ごとに警戒情報を流すというものだ。
「過去に例のない危険な暑さとなり、人の健康に係る重大な被害が生じるおそれがあります!!」
「自分の身を守るためだけでなく、危険な暑さから自分と自分の周りの人の命を守ってください!!」
「全ての方が自ら涼しい環境で過ごすとともに、高齢者、乳幼児等の熱中症にかかりやすい方の周りの方は、熱中症にかかりやすい方が室内等のエアコン等により涼しい環境で過ごせているか確認してください」
「校長や経営者、イベント主催者等の管理者は、全ての人が熱中症対策を徹底できているか確認し、徹底できていない場合は、運動、外出、イベント等の中止、延期、変更(リモートワークへの変更を含む。)等を判断してください」
「室内等のエアコン等により涼しい環境にて過ごしましょう。その上で、こまめな休憩や水分補給・塩分補給をしましょう。高齢者、乳幼児等の方は熱中症にかかりやすいので特に注意し、周囲の方も声かけをしましょう。皆で、身近な場所での暑さ指数(WBGT)を確認し、涼しい環境以外では、運動等を中止しましょう!!」
8日には暑さ指数30を超える和歌山県、東京都、静岡県など27地域に熱中症警戒アラートが発表された(暑さ指数が35を超えると熱中症特別警戒アラートとなる。警戒アラートはあくまで注意喚起で、国民の行動を制約するものではない)。
自治体もアラートで警告
熱中症とは、高温で体温を平熱に保ち、汗をかくため、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)が減少し、血液の流れが悪くなり、体温の上昇で臓器が高温となる障害だ。めまい、こむら返り、頭 痛・嘔吐などの症状となる。水分塩分をとり、涼しいところにいることが予防法だという(環境省のホームページなど)。
自治体も熱中症対策として、ホームページや広報誌などによる注意喚起をしているが、中でも具体的な取り組みとして幾つかの自治体が取り組んでいるのが、公共施設のシェルターとして住民に避難してもらう対策だ。
東京都府中市は熱中症アラートをホームページで出しているが、7月8日の暑さ指数は以下のようだった。
- 1時 警戒 27.3
- 2時 警戒 27.4
- 3時 警戒 27.5
- 4時 警戒 27.3
- 5時 警戒 26.4
- 6時 警戒 27.9
- 7時 厳重警戒 30.5
- 8時 危険 31.2
- 9時 危険 32.3
- 10時 危険 33.2
- 11時 厳重警戒 30.8
- 12時 危険 32.1
- 13時 危険 33.7
- 14時 危険 35.1
- 15時 危険 34.3
- 16時 危険 34.3
- 17時 危険 33.2
- 18時 厳重警戒 30.7
- 19時 厳重警戒 29.2
- 20時 厳重警戒 30.1
- 21時 厳重警戒 28.7
- 22時 厳重警戒 28.8
- 23時 警戒 27.4
- 24時 警戒 27
政府は、危険は31以上。厳重警戒は28~31。警戒~28.注意は21~25.ほぼ安全は21以下とし、府中市もならっている。この数字を見ると、夜になっても数値は下がらず、「厳重警戒」が続いていたことがよくわかる。 日常生活と指数との関係は、以下のようになる。
府中市のホームページより「暑さ指数(WBGT)」とは、人間の熱バランスに影響の大きい気温、湿度、輻射熱の3つを取り入れた温度の指標です。環境省の熱中症予防情報サイトでは、当日の暑さ指数(WBGT)の実況地を提供しています。外出時は天気予報や「暑さ指数(WBGT)」を参考に、暑い日や時間帯を避け、無理のない範囲で活動しましょう。府中市は「暑さ指数(WBGT)」の測定地となっています。
参考:東京都府中市ホームページ 熱中症を予防しましょう
公共施設を冷房施設のあるクーリングシェルターに指定
府中市は、市役所と市内にある文化センター(11か所)や図書館など30の公共施設をクーリングシェルターに指定している。例えば、市役所は午前9時から午後5時まで、文化センターは午前9時から午後9時まで、中央図書館は午後10時まで、市民に開放している。
担当の福祉保健部健康推進課は「熱中症にならないよう、指定に当たっては当該の施設と綿密に打ち合わせしました。ホームページ等を閲覧できない人もおられるので、新たな周知方法も検討したい」と話す。
筆者が午後6時、ある文化センターを訪ねると、お年寄りたちが1階のラウンジのソファーで体を横たえていた。「エアコンが効いていて助かります」とお年寄りが言った。
府中市の健康推進課は、民間の施設も登録し、協力してもらいたいと呼びかけたが、いまのところ市内の郵便局24か所にとどまっている。健康推進課は「呼びかけたがまだ充分に理解していただけないようで、引き続き、協力を御願いしていきたい」と話す。
他の自治体の例を探すと、首都圏では城南信用金庫が積極的に自治体に協力している。東京都は745施設が指定され、港区は7月1日、東京タワーを民間施設第1号に指定した(1階から3階に約100席用意)。各地の自治体ではクーリングシェルターの入り口にのぼりを立てたりしてアピールしている。墨田区は35カ所の薬局をひと休みできる「ひと涼みスポット」に指定しているが、薬局ならではの機能も期待できるとしている。民間ではドラッグストアやホームセンターの協力が目立つ。
東京都環境科学研究所にある東京都気候変動適応センターは都内のクーリングシェルターを地図に落とし、簡単に検索できるサービスをしている。
画像は東京都気候変動適応センターのクーリングシェルター・TOKYOクールシェアスポットマップから引用改正気候変動適応法が24年4月施行され、熱中症特別警戒情報(アラート)発表時に暑さをしのぐため一般に開放される施設として、「指定暑熱避難施設(クーリング シェルター)」を市町村が指定できることとなった。熱中症警戒アラートが発表されると、シェルターを開放することが義務付けられている。
都の配置図を検索すると、公共施設が大半で、民間施設の協力はいまひとつのようである。それでも、環境省が2022年に行ったアンケートで、公共施設や商業施設を避暑のために利用する取り組みをしていると回答したのは592市区町村のうち125にとどまっていたのと比べ、大幅に増えている。
ウォーターサーバーの設置も広がる
一方、ウォーターサーバーを公共施設に設置する動きも強まっている。千葉県では、給水器を千葉県立中央博物館や合同庁舎などに設置した。ウォータースタンド株式会社と協定を締結し、設置を進めているという。埼玉県さいたま市、同所沢市、京都市、大阪府和泉大津市、東京都板橋区など広がりを見せている。
京都府亀井市は、プラスチック削減対策(ペットボトルの抑制)として、早くからウォーターサーバーを公共施設などに設置し、市民参加で使用ラリーをしたりして市民にアピールしている。市内のあちこちでウォーターサーバーが利用できるというのは、プラスチックごみの削減とともに、熱中症対策としても有効だ。
画像は千葉県ホームページのクーリングシェルターの指定状況等についてから引用 画像は亀岡市公式ホームページの取り組み紹介~BCome+のウォーターサーバー~から引用亀岡市では、持続可能な開発目標(SDGs)の「環境・経済・社会の三側面の統合的取組の推進」のもと、賛同したウォータースタンド株式会社と、2021年、「未来づくりパートナーシップ協定」を締結した。ウォーターサーバーのレンタル事業を展開する同社と連携し、市内の小中学校、高校・義務教育学校のすべて計23校と市役所など公共施設10か所に、マイボトル用のウォーターサーバーを設置した。子どもたちや市民の評判も上々で、利用率も高い。
環境政策課は「マイボトルの持参を進めることでペットボトルの削減につなげるとともに、熱中症予防も期待できます」としている。
改正気候変動適応法は、気候変動で熱中症の死者が増えていることから、予防強化の仕組み作りのために2023年に制定された。毎年1,000人を超える死者数を2030年までに半減するとしている。熱中症警戒アラートもその取り組みの1つだ。どう酷暑を乗り切るか。酷暑のなか、今日もアラートが鳴り続ける。