不要品回収業者を正しく理解しよう④ 理不尽な警察と環境省の「チラシ事件」

不要品回収業者を正しく理解しよう④ 理不尽な警察と環境省の「チラシ事件」
リユース業者にエアコンや洗濯機を渡す回収業者さん。
写真は記事とは関係ありません。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

不要品回収業者は組合をつくって、「地位向上」とともに、勉強会をしたり、自己研鑽に取り組んだりするのですが、彼らに聞くと、こんな理不尽なことがありました。その紹介と共に、環境省が作成した「チラシ事件」の顛末について説明しましょう。

ジャーナリスト 杉本裕明



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パトカーにつけられる

一方、家庭ごみとしてではなく、中古品を買い取り、再使用するために使うのなら何ら問題はありません。回収業者の多くは、警察署で公安委員会から古物商(質屋さんらが持っているもの)の資格を得て、回収事業に携わっています。

ところが、2013年秋、こんなことがありました。埼玉県のある市で、回収業者が軽トラックで住宅街を巡回していたところ、警察のパトカーに止められ、警察署へ来るように言われました。パトカーの後に従い署に着くと、そこで家庭ごみの収集・運搬の許可をとるように指導されました。そこで市役所に出向いて、「ごみの収集・運搬の業の許可を取りたい」と申し出ました。ところが、市の担当者はこんなことを言いました。「許可を出す予定はありません。それにあなたの集めているのは中古品でしょ。廃棄物ではないので許可はいりません」

東京都内の別の回収業者も同様に警察署に連れていかれ、取調室に入れられると、2人の刑事から「おまえの積んでいた家電は廃棄物だろう」と問い詰められました。「いや、これはリユースのための中古品です。これからリユース会社に持って行くところなんです」と説明しても聞く耳を持ってくれません。そして、「役所に行って廃棄物の収集・運搬の許可を取ってこい」の一点張りです。

取調室での取り調べは2時間続き、「2週間後にもう一度出直してこい」と言われ、やっと釈放されました。回収業者は、区役所を尋ねました。担当者は「許可をもらうためには試験を受けなきゃいけない。試験はすごく難しいですよ。あなたが受けても無理だと思う」。粘って、試験を受けるための説明会が開かれることを知り、今度はその説明会の会場に行きました。受付の職員に理由を告げると、職員は「中古品を販売しているんだから、あなたは受ける必要ないんですよ。廃棄物の許可なんていりません」。

一方、2週間後に警察署を訪ねると、今度は取り調べ室でなく、会議室に通され、「実は俺たちも何がなんだかわからなくなったんだよ。もう帰っていいから」。この回収業者は「いったい、あの2時間の取り調べは何だったんだろう」と憤りました。

環境省が作成したチラシとは

その頃、環境省は数種類のチラシをつくり、全国の自治体や関係団体に配布していました。チラシには「廃棄物の処分にこのような不用品回収業者を利用していませんか?」と見出しがあり、その下に「以下のように不用品回収業者は市町村の許可を得ずに廃家電などの廃棄物の回収を無許可で営業している者がほとんどです。違法な不用品回収業者によって回収された廃家電の多くが不法投棄されたり、不適正に処理されたりしています」と書かれています。

環境省が作成したチラシ

チラシには冷蔵庫と洗濯機、テレビと見られる家電を積んだ軽トラックの写真があり、大きな×印がつけられています。またトラック型回収、空き地型回収、チラシ配布型回収などと書かれています。

環境省が作成したチラシ

筆者はこの写真に疑問を抱きました。これって、先の回収業者たちが言っているように、リユース目的の中古品の家電製品ではないのかと。廃棄物にしてはきれいだし、倒れて傷がつかないようにロープでしばっている。

「一般市民から写真提供受けた」

そこで筆者は環境省を訪ね、この写真について担当者に尋ねました。

Q「チラシはいつどれだけ配ったのですか?」
A「チラシは小型家電のPRのチラシと一緒に、3種類20数万部を刷ってもっぱら自治体に配りました。自治体はカウンターなどに置いています。これと一緒にポスターも作成し、自治体に配りました」
Q「配布先はそれだけですか?」
A「それだけです」
(あとで筆者が調べたところ、別に廃棄物関連団体に計47万枚送っていたことがわかった)
Q「チラシに使った軽トラックの写真はどうやって手にいれたのですか? 相手の承諾を得ていますか?」
A「得ていません。軽トラの写真は前年の秋に、一般市民から環境省に送られてきたメールに添付された写真です。都内で撮られたもので、メールには『私が渡した家電ではない。そばで、それを渡した消費者と回収業者のやりとりを聞いていて、消費者からお金をとって、家電を引き取っていることがわかった』といいます。これを問題視した市民が送ってきたのです。チラシを作るのに便利なので、この写真を使いました」
Q「チラシには、一般廃棄物の収集・運搬の許可がないので違法とありますが、自治体は新規に許可を出しません。環境省が自治体を指導し、回収業者が申請したら許可を出したらいいのではありませんか?」
A「許可を出すのは自治体で、環境省ではありません」

市民から情報提供があったと言いますが、そんな出所がはっきりしないものを政府機関が使うものだろうか。調べたところ、その写真は環境省が所管するある団体の幹部が提供したものであることがわかりました。

廃棄物と確認したわけではなかった

幹部とのやりとりは以下のものでした。

Q「あの写真はあなたが提供したものですね」
A「そうです。環境省の担当者が、私がその写真を持っていることを知り、『提供してほしい』と言われました。しかし、どういう使い方をするのか、説明はありませんでした」
Q「チラシでは、軽トラックに乗せられた家電は廃棄物だと断定していますが、確認したのですか?」
A「いいえ、していません。渋谷区を歩いていて、たまたま見かけたので写真を撮りました」
Q「これを渡した消費者と回収業者のやりとりを聞きましたか?」
A「いいえ、持ち主の姿も見ていませんよ」

以上のように、写真を撮った幹部職員は、それがリユース目的なのか、それとも廃棄物処分目的なのか、知らないまま写真を撮ったにすぎなかったのです。この写真をある回収業者に見てもらいました。

彼はこう言いました。「あのね、廃棄物を集めて回ってもお金にならないんだよ。写真を見ると、ロープで縛って、きちんと整頓して積んでいる。中古品だから大切にしている証拠だよ」

筆者から虚偽の指摘を受けると、環境省はまもなくそのチラシを廃棄処分しました。そして、もう少し穏当な表現のチラシに差し替えることになりました。

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