太陽光発電施設を建設する際に知っておきたいこと② 自然との共存の可能性

太陽光発電施設を建設する際に知っておきたいこと② 自然との共存の可能性
グリーンインフラ機能の高い谷津の風景
写真提供:西廣氏

①では、国立環境研究所が発表した「太陽光発電施設による土地改変」について、研究チームの一人である西廣淳氏に、ソーラーパネルの“習性”について話を聞いた。②では、実際に土地改変により失われるグリーンインフラとしての価値や、土地を改変せずにCO2排出削減を可能にする「バイオ炭」などの方法を聞いた。

①はコチラ

グリーンインフラの重要性

――太陽光発電施設を設置し、土地を改変してしまった場合、具体的には私たちにとって何が損失してしまうのでしょうか。

自然は本来、多機能なものなので、一言で説明するのは難しいです。例えば、実際に農業をしている土地であれば野菜や米が収穫できなくなるといった問題として表面化しますが、後継ぎがいなかったり、農業をしていない土地だったりすると「ソーラーパネルを設置して何が悪いんだ」と考える方も多いと思います。

ただ、私たちの安全で便利な暮らしを守るために、建物や水道、道路などのインフラがあるのと同様に、樹林や草原、それを支える地形と地質、水の循環といった自然も、実は私たちの暮らしを支える重要な“グリーンインフラ”なんです。日常生活では意識しにくいですが、大雨や渇水など非常時にはその価値が意識しやすくなります。

例えば、平成27年9月に発生した関東・東北豪雨により、鬼怒川の堤防が決壊しましたが、この時も水害を防ぐ役割をもっていた川岸の砂丘を削ってソーラーパネルを設置していた付近から、水が溢れて被害が生じました。自然が本来持っていた防災機能を低下させてしまっていたのですね。

自然の機能という意味では、耕作放棄地も重要な役割を担っている場合が少なくありません。お米を生産しなくなった水田でも、大雨の時にいったん水を貯めて下流の水害リスクを下げる機能や、水質を浄化する機能、さまざまな動植物に生息場所を提供する機能を、高い水準で維持している場合が少なくありません。

手入れをした谷津に生育する水生植物
写真提供:西廣氏

貴重な資産を失わないために、建設前のきちんとした議論の誘発を

――それでは、経済指標には現れない、目に見えない資産を失っているということですか。

そうですね。そうしたグリーンインフラとしての価値が認識されずに土地が失われていっている現状に非常に危機感を覚えます。ただ、この恩恵を受けるのは、地域住民の方や都市域の住民ですので「この土地を売らないでくれ」と地主さんだけに負担を押し付けるのは不公平です。公共がきちんと社会全体のインフラと位置付けてサポートする体制を構築しないと、メガソーラー建設などの乱開発は止まらないと思います。自然の資源を守っていく制度の拡充は今後も急務でしょう。

また、ソーラーパネルの問題は、再エネと経済を優先に考えた推進派と、貴重な生態系を守るんだという反対派で意見が対立することが多いですが、これでは駄目なんです。対立するのではなく、さまざまな側面からメリットとデメリットについて考え、また長期的な視点をもって議論・選択を行っていただきたいと切に願います。

グリーンインフラ自体の認知度は少しずつ高まっているようで、一昨年度、国土交通省は推進戦略を打ち出しました。また多数の民間企業や自治体が参加する「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」が構築されるなどの動きもあります。自然の機能を積極的・持続的に活用する方向に社会が進んでいくことに期待したいですね。

――建設の仕方によっても、土地改変の度合いが変わりそうですね。

その通りです。切土や盛り土を行うとその土地が元の状態に戻るのに長い年月がかかってしまいます。また、コンクリートでベタ打ちなどを行って建設してしまうと、水の循環が大きく改変されます。そうではなく、例えば地盤を固めないといった建設方法や、簡単な架台で設置するなど、復元を考えた設置方法を考えることが有効ではないでしょうか。水循環を阻害しない設置方法や、ソーラーパネルの下で農業を行うソーラーシェアリングなども両立する一つの方法ですね。

自然を維持する活動、「里山グリーンインフラ」

――西廣さんは、個人で「里山グリーンインフラ」の活動も行っていますね。

ええ。主に、印旛沼・手賀沼流域をはじめとする千葉県北総地域で活動しています。活動の一環として、里山グリーンインフラ勉強会を毎月開催していて、NPO法人や市民団体の方に数多く参加していただいています。

上:市民の方との勉強会(室内) 下:市民の方との勉強会(野外) ※ともに新型コロナ感染症拡大の前に開催した様子
写真提供:西廣氏

参加者には、自然の活用や保全の取り組みを行っている方も多くおられます。例えば、地主さんの許可を得て、谷津(やつ)と呼ばれる小さい谷の耕作放棄水田を使わせてもらい、耕して子どもが遊びやすい場所にしたり、小規模に米作りをしたりするような活動です。これは地主さんにも歓迎されやすいです。樹林化すると獣害が増えるし、復田が難しくなるので、どのような目的であれ手入れがされるのは役立ちます。同時に、公共的には、治水や水質浄化といったグリーンインフラとしての機能も高まります。ふるさとの風景や生物多様性が守られることも、大切な機能です。

最近はバイオ炭を活用する活動とも連携を始めました。

――バイオ炭ですか。

「バイオ炭」というのは、木やもみ殻などのバイオマスを原料とする炭のことです。CO2排出量を減らす取り組みの一環として、昨年からは農地へのバイオ炭の施用がJ-クレジット制度の対象にもなりました。

モウソウチクから作ったバイオ炭
写真提供:西廣氏

谷津の耕作放棄地や、その水源となる樹林を手入れすると、たくさんのバイオマスが発生します。昔は薪炭林として使っていたわけで、刈り取ってもすぐに再生してくる植物が多く、バイオマス生産は持続的です。これを炭化することで、炭素の貯留に役立てることができます。バイオ炭の農地への施用は、この地域では「北総クルベジ」として展開している農業団体があり、そのような活動と植生管理が結びつくことで、自然から引き出せる価値が大きく高まると考えています。

今後は、この活動の意義を定量的に評価したいと考えています。手入れをしながらバイオ炭などを使いつつ、維持し続けた里山が炭素貯留をした場合と、ソーラーパネルを製造から廃棄までのライフサイクルを通したCO2排出量削減効果を比較するような発想です。とはいえ、炭素の貯留は自然の機能の一つに過ぎないので、その他の機能評価とあわせて、土地利用の議論に役立てたいですね。

――なるほど。数値化できると、ソーラー建設の際に非常に参考になりますし、土地利用に関して選択に幅がでそうですね。

ええ。都市部では、カーボンニュートラルに向けて、建物の作り方や構造、都市開発の技術が急速に進歩しています。それと同じで、自然が持っている機能を活用する方法はまだまだあると思っています。

私たちの研究で、谷津の耕作放棄地の防災上の機能や水循環での役割といったグリーンインフラの機能が、少しずつ見えてきました。これらは、気候変動に対する適応策で、気候変動が進行しても大きな被害が生じない社会をつくる上での大事な機能です。さらに、バイオ炭の活用のように、気候変動に対する緩和策でも、カーボンニュートラルへの貢献の可能性も見えてきています。

人類は自然の価値をまだ一部分しか認識できていません。その価値を土地利用に反映させる仕組みづくりも、まだまだ未熟だという自覚をもって、謙虚に取り組んでいくことが非常に重要だと考えます。

西廣淳(にしひろ・じゅん)
1971年、千葉県生まれ。博士(理学)。1999年筑波大学大学院博士課程修了。建設省土木研究所、国土交通省国土技術政策総合研究所、東京大学大学院農学生命科学研究科、東邦大学理学部を経て、2019年より国立環境研究所気候変動適応センター。2020年度より同センター室長。専門は植物生態学・保全生態学。日本生態学会理事。日本自然保護協会理事。

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