学生が企画から接客販売まで行い地域を盛り上げる その意義は経営者の育成と地方活性化 地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」とは?3期生メンバー 西村胡桃さん インタビュー
撮影:西岡潔
これからの日本は若い世代の力と地方の活性化が重要な鍵を握ると言われていますが、それを体現するようなプロジェクトが、東京駅の目の前に存在しています。 47都道府県の地域産品を販売するセレクトショップ「アナザー・ジャパン」です。 若者に学びの機会を与え、地方に活力をもたらすアナザー・ジャパンとは、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
今回は、アナザー・ジャパンのメンバーで現役大学生の西村胡桃(にしむら くるみ)さんに、その活動内容をお伺いしました。
学生が運営するセレクトショップ「アナザー・ジャパン」とは
――東京駅・大手町駅から徒歩5分の場所に店舗を構えるアナザー・ジャパンですが、どのようなコンセプトをお持ちなのでしょうか。
アナザー・ジャパンは、47都道府県の地域産品セレクトショップを学生が経営するプロジェクトです。 「新しい発見と懐かしさを届け、もう1つの日本をつくる」をコンセプトとして、各地域の魅力を発信するともに、学生たちが経営を本気で学べる場でもあります。 三菱地所と中川政七商店によるサポートのもと、収支管理・商品セレクト・デザイン・現場オペレーションまで行い、店舗運営の経験と経営ノウハウを学びながら、各地域出身の学生が自らの地元をPRすることが大きな特徴です。
どのような商品を扱っているかと言うと、食品が3割、非食品が7割ほどで、学生が現地で事業者さんと交流をしながら、より魅力を伝えられるものを選びますが、さらに3つの選定軸を大切にしています。
1つは「地域性」で、歴史や背景を大切にし、その土地らしさを活かしたものづくりが行われているか、という点。 次に、伝統を大切にするだけでなく、ビジョンや思想、こだわりなど常に革新を続けているか、といった「個性」も重視しています。 そして、3つめが「共感性」で、私たち学生が経営者や事業者のビジョンに共感し、商品に愛着を持てるのか、という点です。
現地で聞く情報とこれらの選定軸を大事にしているので、他のアンテナショップでは扱っていない珍しい商品に出会えることも、アナザー・ジャパンの魅力だと思います。
店内のレイアウトや商品紹介のPOPも学⽣によるもの撮影:西岡潔
――外観から店内のレイアウトまで、空間づくりもこだわりがある印象ですが、こちらも学生によるものなのでしょうか。
店内のレイアウトや売り場演出は学生によるものです。 アナザー・ジャパンの採用は、経営を担当するセトラーと、デザイナーの二部門で募集しますが、後者の学生たちは 企画の伴⾛から、売り場演出や装飾、インスタ投稿といったビジュアル⾯まで、すべてを担います。 そのため、アナザー・ジャパンは経営について学べるだけでなく、クリエイティブの力を発揮できる場でもあります。
アナザー・ジャパン は地⽅活性化の循環の始まりの場所
――アナザー・ジャパンは地方の活性化に重点を置いているようですが、これにはどのような理由があるのでしょうか。
アナザー・ジャパンは、三菱地所が進める東京駅日本橋口前、常盤橋街区の再開発プロジェクト「TOKYO TORCH」において開業し、三菱地所がプラットフォームを提供し、中川政七商店が小売業のノウハウを教育およびメンターとして学生の経営に伴走しています。TOKYO TORCHでは2028年に、日本一高いビル「Torch Tower」の完成を目指しており、「日本を明るく、元気にする」というプロジェクトビジョンを掲げて開発が進められています。また、中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、地域の工芸メーカーの経営者不足に課題感を感じ、将来の経営者人材が東京に留まるのではなく地域で活躍する流れを作っていきたいという想いを抱えていました。
学生たちは中川政七商店による研修を通じ、経営のノウハウを学んでいる撮影:アナザー・ジャパン
そうした両社のビジョンが重なり、アナザー・ジャパンを通して学生が地域を学び、経営を学び、“将来、自分の働く場所として、地元を選択肢の一つにする”。そして地方に若い世代が戻ることによって、本当の地方活性化が始まると考え、このプロジェクトが立ち上がりました。
アナザー・ジャパンで取り扱われる商品は学生たちの地元愛がつまっている撮影:アナザー・ジャパン
実際、アナザー・ジャパンに所属する学生は郷土愛が強く、地元自慢が好きな人がいれば、参加前に地元の全市町村を回った人もいるくらいです。 アナザー・ジャパンが立ち上がってから、まだ3年目なので地元に腰を据えて働き始めたメンバーはいませんが、仕入れでお世話になった地域の事業者さんのところへインターンに行くなど、関係を続けているケースも多いため、今後は何らかの形で地方に還元できる日もやってくると考えています。
アナザー・ジャパンを通して知る地方の魅力
――西村さん自身がアナザー・ジャパンに参加したきっかけを教えてください。また、アナザー・ジャパンの活動を通して、郷土愛がより深まった経験があれば、それも教えてください。
私は北海道の出身で、常に観光が身近にあったせいか、幼いころからいわゆる観光業といわれて連想がしやすいホテルの従業員やキャビンアテンドといったサービス業に漠然とした興味がありました。 その想いが高校生になると、観光というものはあらゆる産業と結びついているのだという裾野の広さを感じ、観光がもたらす地域経済の利点はもちろん、同時に⽋点や弊害も考えるようになり、それに関係するプロジェクトやコンテストに参加するなど興味を持ち続け、大学進学の際は観光学部を選んでいます。
ただ、一年生のときは無難な大学生活を送っていて「このままでは何も打ち込めたものがなく、学生時代が終わってしまう」と考え、インターンやいろいろなプロジェクトを探したところ、偶然アナザー・ジャパンの3期生の応募フォームを見つけました。 そこに書かれた「フロンティアスピリットと郷土愛がある人を募集」という言葉に惹かれ、さらには学生が経営を本気で学べる点や地⽅創⽣、観光と親和性が高いこともあって、参加を決意しました。
私自身が郷土愛を感じた経験としては、企画展を任されたときのことです。 アナザー・ジャパンでは、47都道府県の地域産品を取り扱う常設展の他に、メンバーの一人が担当して地元の魅力を深掘りする企画展があります。 私は10月の担当を任せていただいたので、アナザー・札幌を企画しましたが、そこでは「札幌軟石」という石を特集のメインに据え、その歴史や関連する商品を取り扱いました。
主題を石に選んだ理由としては、企画を考える段階で、まずは札幌の伝統的な商品や文化を探しても、北海道の開拓が始まりは150年前と意外に歴史が浅く、適切なものが見つからなかった、という経緯があります。 しかし、その開拓では札幌市南区で産出する凝灰岩で、後に「札幌軟石」と呼ばれる石材が多く使われていたことを知り、これを商品に取り扱うことで、現在の私が好きな北海道・札幌という⼟地をつくり出した開拓を⾃⾝の郷⼟愛の1つとして表現できるのではないかと考えました。
インタビューに協力してくださった西村胡桃さん。札幌軟石をメインに扱ったアナザー・札幌は好評だった撮影:アナザー・ジャパン
実際に販売した商品の1つは、札幌軟石を使ったアクセサリーです。 札幌軟石は吸水性と揮発性が優れているので、アクセサリーに使われた石の部分に好きなアロマオイルや香水をかけると、香りが楽しめるというものでしたが、これが好評で、お客様から「札幌って食べ物とかおいしいもののイメージが強いのに石の特集をやっているなんて面白い」と反応をいただいたときは、地元の新たな側⾯を伝えられて誇らしく感じたことを覚えています。
また、私たちは企画展のときも地元に足を運んで、現地の事業者さんや作り手さんから直接話を聞いているので、お客様から「札幌ってこんな魅力があるんだ」「面白い商品があるんだね」といった言葉をいただけると、自分事のように嬉しく、改めて地元愛を感じられました。
日本を支える地域の力を伝えるアナザー・ジャパン
――最後に、地方活性化の重要性と地元を盛り上げたいと考える学生にメッセージをお願いします。
まだ私⾃⾝も、地⽅から上京してから1年半強、アナザー・ジャパンのセトラーとして8ヶ⽉程度の経験とまだまだ学んでいる途中で、地域活性化の重要性という⼤きいテーマで語ることは難しいのが正直なところです。ですが、この時点で地方活性化の重要性を語るとしたら、日本各地にはどこも切り取り⽅次第で、固有の⾯⽩い⽂化があり、素晴らしい技術を持つ事業者さんたちがいて、ひいてはそこに暮らす地元の住民の方々が、その文化を引き継いでいっていますが、多くの人がそれに気付かないまま日々を過ごしている、ということです。 もしかしたら直接関わっている方も、その価値に気付いていないのかもしれません。
だとしたら、世界に誇れるものづくりや文化が地域に存在していても、途絶えてしまいそうな地域が日本中にあると思います。 そういった地域を持続させ、価値ある文化やものづくりを残すためにも、地域の活性化が必要ではないでしょうか。
アナザー・ジャパンで活躍した学生たちが、地域を盛り上げると期待されている撮影:アナザー・ジャパン
なので、地元を盛り上げたいと考えている学生には、その地域の固有性や⾯⽩さを改めて⾒つめなおし、それをアナザー・ジャパンのように東京のど真ん中でなのか、あるいは地域の中からなのか、活躍の仕⽅は様々だと思いますが、いずれの場所でも「この地域が好き」「この⾯⽩さをもっと多くの⼈に知ってほしい」という想いを強く持つべきだと感じています。 アナザー・ジャパンの企画展を担当させてもらった身としては、そういった想いが地元の事業者さんに温かく迎えてもらえた経験があるので、このシンプルだけど熱い気持ちを持ち続ければ、きっと誰かに伝わると思います。
西村胡桃(にしむら くるみ)
北海道札幌市出身。大学進学を機に上京し、現在は立教大学観光学部2年生として大学生生活を送る傍ら、アナザー・ジャパン3期生として活動中。2024年10月には企画展『アナザー・札幌』で、自身の郷土愛の根源となる北海道開拓に関連する札幌軟石をはじめとした商品の特集を企画・担当。現在は、アナザー・ジャパンの接客に関する部門のとりまとめを担いながら、2回⽬の企画として今年2⽉に開催予定の企画展「アナザー・静岡」に向け奮闘中。