抗生物質が効かなくなる「薬剤耐性」とは?河川汚染に見るAMR
体調が悪いとき、どうやらただの風邪はない、と病院へ行ったところ「抗生物質」を処方されたことはないでしょうか。 抗生物質は私たちの体を守り、とても身近なものでもありますが、実は環境を汚染している恐れがあると話題になっています。
抗生物質がどのように環境を汚染し、人体に悪影響を及ぼす恐れがあるのでしょうか。 抗生物質の環境汚染についてご紹介いたします。
薬剤耐性によって効かなくなる?抗生物質の役割とは
まず、抗生物質とはどのようなもので、私たちの生活にとって、どのような重要性があるのでしょうか。
抗生物質は、細菌の成長を阻止できる物質です。 市販で売られているような風邪薬と抗生物質が、どのように違うかと言えば、症状の原因がウィルスなのか、それとも細菌なのか、ということです。 風邪やインフルエンザは、ウィルスの感染が原因で症状が出ますが、細菌によって症状が発生する病気があります。 例えば、マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマという細菌が肺で増殖してしまったことで発症します。 このような、細菌をやっつける効果があるのが、抗生物質なのです。
抗生剤は1929年に青カビを作るペニシリンが、感染症の原因であるブドウ球菌の成長を抑えると発見されたことが、広く知られるきっかけでした。 それから、抗生物質は様々な病を克服し、多くの感染症に対する治療薬として使われるようになったのです。
抗生物質が世界の河川を汚染!薬剤耐性の恐れも
このように、治療薬として優れた抗生物質ですが、世界中の河川を汚染してしまっている、と話題になっています。
これはイギリスのヨーク大学の研究によって発覚しました。 72ヵ国で、テムズ川からメコン川、チグリス川など様々な河川から、711のサンプルを摂取し、調査したところ、その中の3分の2から1種類以上の抗生物質が含まれていました。 それは世界中の河川が抗生物質で汚染されていることを意味しています。 なぜ、これだけの抗生物質が河川に流出してしまったのでしょうか。
抗生物質は体内で分解されることがありません。そのため、尿や便と一緒に排泄されます。 抗生物質を含んだ排泄物は、下水処理場へと向かいますが、最先端の施設であったとしても、完全に抗生物質を取り除くことができません。 そのため、抗生物質は自然界へと流れ出てしまうのです。
薬剤耐性(AMR)とは?抗生物質が効かず死者急増か
それでは、抗生物質が自然界に流れることで、どのような事態が懸念されるのでしょうか。
最も恐れられているのは、薬剤耐性問題です。 抗生物質は細菌に対して効果がある薬ですが、昨今では抗生物質が効かない菌が現れ、世界中で問題になっているのです。 それを薬剤耐性問題と言い、抗生物質が河川を汚染してしまっていることが、薬剤耐性菌の進化を促しているのではないか、と懸念されています。
現在でも、薬剤耐性菌によって命を落としてしまう人は少なくありません。 しかし、もし河川が抗生物質で汚染されたことで、薬剤耐性菌が増えてしまえば、それによる感染症が、世界の死因のトップとなる恐れもあります。
私たち人間を治療するための薬が、私たちを滅ぼす原因となってしまうとなったら、何とも皮肉な話ではないでしょうか。
薬剤耐性菌が広がらないよう抗生物質の使用に注意
自然界に抗生物質が流出してしまうことを少しでも防ぐために、私たちは抗生物質に対して、正しい認識を持つ必要があるでしょう。 風邪の症状であっても「念のため抗生物質を飲んでおこう」という気持ちで使ってしまったら、必要以上に抗生物質を自然界に出してしまうことになってしまうでしょう。
また、処方された抗生物質は用法・容量を守って飲み切る必要があります。 なぜなら、途中で飲むことをやめてしまうと、退治し切れなかった細菌が薬剤耐性菌になってしまうかもしれないからです。
不明な点があれば、まずは医師に相談してみましょう。 自然や私たちの健康を守るためにも、抗生物質の使い方には、ぜひ注意してみてください。