不要品回収業者を正しく理解しよう⑤ 不透明な「見えないフロー」とは

不要品回収業者を正しく理解しよう⑤ 不透明な「見えないフロー」とは
リユース業者に中古品を渡す回収業者さん。これも廃棄物の家電は見当たらない。
写真は記事とは関係ありません。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

環境省が、リユース目的だと言う回収業界に「不審の目」を向けるのには理由がありました。もともと、環境省によって立つ法律は廃棄物処理法です。そこにはリユースの話は出てきませんし、リサイクルにもほとんど触れていません。重視しているのは廃棄物の適正処理です。

しかし、出てきた廃棄物を安全に処理・処分していればいいという考え方は、90年代以降大きく変わりつつあります。リサイクル社会をつくろうという流れから次々と個別のリサイクル法が整備されていきます。その一つが、家電リサイクル法でした。ところが、その法律が施行されると、いろんな課題があることがわかりました。

ジャーナリスト 杉本裕明



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回収した多くが途上国へ

もともと、リユース業者は環境省所管の法律では縛ることのできない業界で、廃棄物処理法の外にいる存在です。たとえば不要品回収業者の多くは、公安委員会から古物商の許可をもらっています。古物商の許可は質屋も持っており、所管官庁は警察庁になります。しかし、回収業者が集めた中に壊れた廃棄物の家電が含まれる可能性があることから、廃棄物を所管する環境省が乗り出すことになりました。そこには、家電リサイクル法が思ったほど、うまくいっていないという事情がありました。

家電リサイクル法は、メーカーがテレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機の4品目の廃家電を家電メーカーが家庭から引き取り、リサイクルすることを義務づけています。ユーザーは、廃棄する時に量販店などで、数千円払ってリサイクル券を買い、それとともに廃家電を引き渡します。量販店などから、廃家電はメーカーのリサイクル工場に運ばれ、リサイクル券の費用でリサイクルされるという仕組みです。

経済産業省と環境省の試算によると、家電リサイクル法でリサイクルが義務づけられているテレビ、冷蔵庫、エアコン、洗濯機の4品目は最新の17年度で1,843万台が使用済みとなり、家庭と事業所から廃棄物として排出されたと見られています。

ところが、家電リサイクル法でリサイクルに回った台数は、半分の1,189万台。回収率は63%しかありません(10年前は53%)。残りは東南アジアやアフリカなどの途上国にリユース目的で輸出されている分が91万台。資源として回収(つまり鉄スクラップのこと)し、海外に輸出されているのが512万台。残りは国内のリユースが181万台、スクラップとして国内利用されているのが43万台と見られています。残りは廃棄物処理業者が処分したり、自治体が埋立処分したりした分です。

問題視された「見えないフロー」

マニラでは、日本から輸入されたさまざまな中古品が売られている。
写真は記事とは関係ありません。
杉本裕明氏撮影 転載禁止

家電リサイクル法を所管する経済産業省と環境省は、家電リサイクル法で処理されていない半分近くの家電について、「見えないフロー」と呼んでいます。

消費者にとってみれば、使える家電なのに、リサイクル料金を払って処分してもらうのはもったいない。それにだれかが引き取って使ってくれれば資源の節約にもつながるのに、となります。しかし、リユースなら法律(廃棄物処理法)に抵触せず、環境にもいいことだといって、中古品と一緒に壊れた家電も一緒に渡すと、それは最終的に海外に雑品スクラップとして輸出されることになります。それは、本来、家電リサイクル法のルートに流れるはずの廃家電が、別ルートに流れることになり、家電リサイクル法の回収率を高めることを阻害することになります。

この問題がクローズアップされたのは、2008年に家電リサイクル法の改正について議論した両省の合同会議の場でした。問題にしたのは、家電メーカーでした。リサイクル料金を、家電製品を買った時に払う「前払い方式」か、廃棄する時に払う「後払い方式」のどちらにするかを巡る議論になっていた時に家電メーカーが持ち出した論理でした。

日本は先払い方式

EUや韓国、中国など日本以外の国では、もともと製品の価格に処理費が含まれています(これを内部化といいます)。つまり、製品を買った時に廃棄時の処理費も払っていることになります。処理費は製品価格に含まれていますから、メーカーは自己努力してリサイクル費用を下げようとする、リサイクルしやすい設計を心がけるというメリットがあります。消費者も廃棄する時にリサイクル費用を払わなくてすみますから不法投棄に走る動機も生まれません。ただ、途中で家電メーカーが倒産したりすると、廃棄時にそのリサイクル費用をだれが払うのかといった問題が起きる可能性はあります。

環境省(当時は厚生省の水道環境部、2001年の省庁再編で環境省に吸収合併)は、EUの方式が不法投棄を防ぐのに良いと考えていましたが、家電メーカーの猛反対を受けて断念、後払い方式となりました。その後の2008年の見直し論議でも、自治体や家電量販店側の委員は、日本以外の国々が採用している前払い方式に変えるよう求めましたが、その時に形勢が不利になった家電業界が持ち出したのが、この「見えないフロー」でした。半分近くの廃家電がどう流れているのか、それを解明するのが先決だ、そうした不透明な流れが、不法投棄を招いているのではないかというのです。

「見えないフロー」から回収業者に問題ありに

家電メーカーはまじめにリサイクルしているのに、残り半分がわけのわからない状態で、外国で環境汚染や不適切処理が行われる温床になっている。だから、不法投棄を減らすために後払い方式から前払い方式に替えたところで、見えないフローがある限り、不法投棄や不適正処理は減らないというのが、家電メーカーの理屈でした。この「見えないフロー」はドイツなどでも問題になってはいます。しかし、それをもって、世界で日本しか行われていない後払い方式をかたくなに守る理由にはならないはずです。しかし、なぜか、審議会では多くの委員がその議論に乗り、「見えないフロー」の片棒を担いでいるとして「不要品回収業者」がやり玉にあがったのです。

同様の議論は、2013年から14年にかけての2度目の家電リサイクル法の改正論議でもありましたが、結局前払い方式の続行が決まりました。そして、「見えないフロー」にいる不要品回収業者の取り締まりを家電メーカーや消費者側の委員が唱えました。

傍聴していて不思議に思ったのですが、この13~14年の審議では、前回の2008年の審議の時に、前払い方式を唱えていた消費者側の委員や家電量販店代表の委員、大学教授の委員らが軒並み前払い方式を容認するようになったことです。そして、家電リサイクル法での回収率が低いのは、「見えないフロー」による好ましくない処理と輸出が行われているからだという理屈づけが行われました。そして「見えないフロー」を担っている業者の規制強化が重要な課題となりました。

家電メーカーにとっては、廃家電の輸出や処理業者による独自の処理が減り、メーカーのリサイクル工場に来る廃家電が増えれば稼働率が上がり、収益も増えます。

通知そして法改正へ

「見えないフロー」にかかわるスクラップ業などへの監視と規制強化は、家電リサイクル法ではなく、廃棄物処理法で対応すべき問題です。そこで、合同会議で「早急な取り締まりの強化」を求められた環境省は、まず2012年3月に全国の都道府県に通知を出しました。回収・保管業者への立ち入りと指導・摘発の考え方を示し、特にリサイクルが義務づけられている家電4品目に対して厳しい指導を求めました。これにもとづき、岐阜市内で、空き地で破砕し輸出業者に転売していた業者が摘発されたことは、前回紹介した通りです。全国各地で自治体がパトロールと立ち入り検査を行い、違法性の強い回収・保管業者への指導を強めることになりました。環境省も出先機関の中部地方環境事務所、税関、名古屋市役所と合同で、名古屋港近くのヤード業者の立ち入り調査を行ったりしました。当時、環境省のリサイクル推進室の職員は筆者に「実態を正確につかむのは難しいが、立ち入り調査と指導を繰り返すことで、不適正処理を防止したい」と抱負を語っています。

さらに2017年には廃棄物処理法を改正し、廃家電を「有害使用済機器」と名付け、保管や破砕を行う業者に自治体への届け出を義務づけ、重い罰則を課すことになりました。

こうした流れを追うと、家電リサイクル法や小型家電リサイクル法で思ったほど、家電が集まらないため、なんとかして海外への流出を止め、その分、国内のリサイクル法のルートに乗る量を増やしたいという国と家電業界の狙いがわかります。不要品回収業者は弱い立場で、組合をつくったからといって声を上げづらい環境にあります。なんだかスケープゴートになった感があります。もちろんリユース目的といいながら不法行為を行う回収業者もおり、それは厳しく取り締まるべきですが、大半の回収業者にとっては災難と言って良いかもしれません。

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