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地球温暖化の原因は化石燃料から発生のCO2だけでない。忘れられたフロン対策が重要 フロン削減対策推進協議会の笠井俊彦会長に聞く

地球温暖化の原因は化石燃料から発生のCO2だけでない。忘れられたフロン対策が重要 フロン削減対策推進協議会の笠井俊彦会長に聞く
フロンの回収中。接続部が漏洩のないことを確認している(ベトナム)
笠井俊彦氏提供

世界気象機関(WMO)は、世界で排出される温室効果ガスを大気中の濃度に応じて、ガスごとに地球を温める力の強さ(放射強制力)をW/㎡で表しています。それによると、CO2は66%と3分の2近くを占めますが、それ以外のガスもかなりの比重を占めます。その中にフロン類があります。冷凍冷蔵庫やエアコンの冷媒等に使われ、温室効果の少ないものに代替えが進められてきました。

しかし、使用中の製品に生産しなくなったフロンが使われ続けているのも事実です。CO2の2万倍近くの温室効果を持つ物質もあり、途上国では回収・破壊が進まず、大気への放出が続いています。環境省の官僚時代にフロン回収・破壊法の制定に尽力し、現在はフロン等温室効果ガスグローバル削減推進協議会(FGRA)会長としてフロン等の削減に取り組む笠井俊彦さんに、話をうかがいました。

ジャーナリスト 杉本裕明



事業者や研究者らが集まりFGRA結成

――FGRAはどんな組織なのですか。

フロンやメタンといったCO2以外の温室効果ガスを中心に、温室効果ガスの地球全体での効果的な削減を実現するため、フロンの回収再生破壊に取り組む事業者や研究者、コンサルタントなどが集まり、2019年に設立されました。私は2代目の会長で、事務局長も兼務しています。国に政策提言したり、セミナーを開いたり、削減が不十分なアジア諸国のフロン回収再生破壊ネットワークを構築するための相談・調整、現地企業の取り組みの支援などを行っています。

モントリオール議定書で製造は禁止になったが

――フロンは、皮膚がんを防いでいると言われる大気のオゾン層を破壊する物質であることが国際的に問題となりました。1985年にオゾン層保護を目的とした「オゾン層の保護のためのウィーン条約」ができ、1989年には、オゾン層を破壊するフロン類の生産・消費を規制する「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が発効しました。議定書によってフロンの生産が止まり、それまで拡大していたオゾンホールの拡大がみられなくなるなど効果があったのではないでしょうか。

モントリオール議定書により生産規制が行われた結果、日本では、1995年でCFC(クロロフルオロカーボン)の生産が禁止され、その代替物質として生産されていたHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)もモントリオール議定書が定めた期限を前倒しして生産規制が行われてきました。しかし、世界全体で見れば、モントリオール議定書は大変な問題を抱えたままです。

――主に化石燃料による地球温暖化問題が顕在化し、オゾン層の破壊に着目するだけでは不十分ということになってきました。

そうです。温室効果に注目すると、自動車のカーエアコンに使われていたCFC12はCO2の1万倍を超える温室効果があります。2000年当時、日本でのカーエアコンからの排出だけで、先進国の温室効果ガスの排出削減量などを定めた京都議定書で日本の基準年とされていた1990年度の温室効果ガス総排出量の2%を占めていたのです。当時、新しいカーエアコンには、代わりにCO2の1300倍ほどの温室効果を持つHFC(ハイドロフルオロカーボン)134aに替えられていましたが、古いカーエアコンで使われていたCFCも新しいHFCも回収・破壊されず、大気に放出されていました。

「フロン問題は温暖化対策にとって非常に重要な課題です」と話す笠井俊一さん
笠井俊彦氏提供

――こうした国際的な規制が始まった1990年代末に、自民党の環境族といわれる政治家たちがこの問題に取り組み始めました。国の動きが鈍いのなら、議員立法で規制しようという動きが起きました。

私は環境庁の大気保全局のフロン担当室長だったのですが、議員の先生たちは『このまま放置していたら、日本の国際的責任を果たせないではないか。CFCが放出されてしまい、回収できなくなる前に、フロン回収破壊法をつくることが緊急の課題だ。京都議定書の対象ガスでなくても強力な温室効果ガスではないか!』と、環境庁はじめ政府の尻をたたいたのです。私も同感で、議員立法のお手伝いをすることになりました。

環境派の国会議員ら中心に議員立法へ

――山本公一衆議院議員は熱心でした。私も当時、山本議員に取材し、フロン問題を熱っぽく語っておられたのを覚えています。

後に環境大臣に就任されるなど、環境行政を進めるため活躍されましたが、残念ながら2023年に死去されました。

――当時、家電リサイクル法が1998年に制定(2001年施行)され、家庭用の冷凍冷蔵庫とエアコンのフロンの回収・破壊は義務化されました。ところが、自動車のカーエアコンと、業務用の冷凍冷蔵空調機に冷媒として使われているフロンは規制のないままでした。

そこで自民党環境部会は、カーエアコンと業務用冷凍冷蔵空調機器について、独自の回収・破壊制度を議論し、その方向性をまとめました。それを基本に自民、公明、保守党の3党の与党プロジェクトチームで検討された結果、カーエアコンのフロンは、回収業者が自動車メーカーにフロンを持って行けば自動車メーカーが回収等の費用を払うこと、業務用冷凍冷蔵空調機器は、機器を廃棄する者が費用を支払うことでまとまり、2001年6月に『特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律』(フロン回収・破壊法)が議員立法として成立しました。業務用冷凍冷蔵空調機器に関する部分は、翌年の2002年4月に施行されました。

フロン回収・破壊法が先行し、自動車リサイクル法が後に続いた

――カーエアコンのフロン回収は、フロン回収・破壊法のもとで行われ、その後、政府が進めた自動車リサイクル法に引き継がれます。

フロン回収・破壊法は、カーエアコンについて、自動車リサイクル法に先駆けて、ユーザーが回収等の費用を支払ったことを確認することを規則(省令)で定め、2002年10月に施行されました。当時、政府は、検討していた自動車リサイクル法の中で、車検制度を利用し、費用の支払いをチェックする仕組みを導入しようとしていました。フロン回収破壊法が先行する時期だと、ユーザーの支払いの確認のないフロンは、自動車メーカーが引き取らなくてもいいことになるので、不十分ではないかとの意見が強くありました。しかし、『自動車リサイクル法の制定前でも、少しでも早くフロン回収を始めるべきだ』と、フロン回収・破壊法案を検討した国会議員から強い働きかけがありました。

――法律の施行日を早めて、少しでもフロンの放出を減らそうということですか。

この働きかけによって、カーエアコンの回収が、フロン回収・破壊法の施行期限の2003年4月よりも半年早めて施行されることになりました。自動車リサイクル法の施行後は、カーエアコンのフロンの回収部分は、自動車リサイクル法が担うことになりました。同法が施行される2005年1月までの2年以上の期間、フロン回収・破壊法が大気への放出を防いだことになります。

フロン問題は解決していなかった

――議員立法は、基本法のような実効性に欠ける法律が多いのですが、フロン回収・破壊法は、事業者に回収と破壊の義務を課す実効性を持つ法律として高く評価できると思います。これでようやくフロン問題は解決したのですか。

そうではないのです。そもそも、気候変動枠組み条約は、モントリオール議定書の対象ガスを対象外にしていて、CFCとHCFCの排出には触れていないのです。これらはCO2に比べたら、大気への排出量ははるかに少ないのですが、温室効果はCO2の数千倍から1万倍を超えます。

――モントリオール議定書にも欠陥があると?

モントリオール議定書は、生産と輸出入を規制してはいますが、大気への排出は規制していません。さらに、議定書は、生産規制を行っても先進国と途上国で生産規制のスケジュールをずらしています。このために、HCFCは、先進国が2020年までに生産を全廃しているのに、途上国では廃止期限の2030年まで生産が続きます。だから、途上国では、HCFCを使用した機器が、先進国が廃止した後も市場に出回り、その機器から大量に排出される。東南アジア諸国で回収を義務付けているのは、ベトナムくらいです。

――ここで、登場した3つのフロン類を整理すると、モントリオール議定書により、まずCFCが1996年に生産が全廃となった。代わりにオゾン層の破壊力が弱いHCFCが登場したが、温室効果の高いことから先進国では2020年までに生産が全廃、途上国は2030年まで生産が認められることになった。HCFC代替のHFCはオゾン層を破壊しませんが、温室効果が非常に強く、ようやく、2016年のキガリ改正で段階的な生産輸出入規制の対象となりました。モントリオール議定書に問題のあることはわかりましたが、それなら地球温暖化防止の取り組みの観点で規制できないのでしょうか。2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議」(COP21)で、途上国を含む全ての加盟国に排出削減を求めた「パリ協定」が採択され、翌2016年に発効しました。協定は代替フロンを規制していないのですか?

パリ協定にもとづく温室効果ガスの総排出量に、CFCとHCFCの両物質はでてきません。パリ協定は、オゾン層を破壊しないといわれるHFCを排出規制物質にはしていますが、その対応は各国に委ねられています。このHFCも、ものによって違いがありますが、平均すれば温室効果はCO2の2,000倍あります。

笠井俊彦氏提供

――パリ協定は、各国に排出量の報告を求めているのに。

当初、途上国の排出量報告に、HFCなどのフッ素系ガスは含めなくていいとされていましたが、ようやくアジア諸国もHFCを報告対象に入れ始めているところです。できれば、HCFC、CFCの排出量も一緒に報告してほしいところです。パリ協定採択以前から、自分としてはいろんなところに、HCFC、CFCを含めた枠組みを作る必要性を訴えて働きかけてきました。しかし、世界の規制の穴の開いた状態を変えることが出来ず、本当に残念ですし、若い人たちに対して責任を感じます。

製造禁止になっても使われ続けている

――加盟国が合意し、画期的だと世界から賞賛されたパリ協定ですが、こんな穴があった。

パリ協定の基になる『気候変動枠組み条約』がモントリオール議定書の対象物質を除外しています。国際条約間の縦割り構造で抜け落ちてしまっているわけです。WMOが公表している2024年度の放射強制力にもとづく、大気中の濃度から見た世界の温室効果ガスの地球温暖化への寄与割合を見ましょう。地球温暖化への影響は、排出量ではなく、大気中の温室効果ガスの濃度で決まります。CFC類が9%、HCFC類が2%、HFC類が1%を占めています。全体の1割あります。ちなみにCO2は66%、メタンが16%、亜酸化窒素が6%。メタンは化石燃料の採掘に伴う排出、水田などの農業の排出や家畜の消化管発酵、廃棄物埋め立て処分場などが人為的な排出源、亜酸化窒素は家畜の排泄物などが排出源です。

笠井俊彦氏提供

――これらのフロン類に、各国はどんな対応をしていますか。

日本では、家電リサイクル法、フロン排出抑制法(2013年にフロン回収・破壊法が法改正され、名称が変更された)、自動車リサイクル法で、この3種類のフロンの回収と破壊が義務づけられています。私が室長だった時は、CFC,HCFCも含めて排出量を公表していましたが、その後環境省は、CFCとHCFCの排出量の公表をやめてしまいました。そこで、私たちの協議会の会員が、『特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)』で企業が国に報告した公表データなどを使って集計し、温室効果が分かるようにCO2換算もしてくれ、協議会として公表しています。

――国の不備を補っているわけですね。

CFCと同じ精度でCHC、HCFCの排出量を把握できているわけではないのですが、我々が把握できるデータだけでも実態に迫りたいということです。それを見ると、排出量と破壊量は徐々に減っていますが、3つの法律のもとで回収されたフロンの破壊量は、この20年の間にCO2換算で約2億3,000万トンになります。

笠井俊彦氏提供

2022年の排出量は約5,500万トンあり、このうち約800万トンは、1995年で生産が禁止されているCFCです。これは、大半が建物の断熱材として使われ、解体等で放出されていると思われます。一部は冷媒に使い続けている機器もあるということです。

途上国での回収への取り組みが必要だ

――協議会は途上国の取り組みに貢献しています。

モントリオール議定書は生産と輸出入を規制する入り口規制のみで、機器に使われているフロンが大気中に放出されることを規制していません。ですから、途上国では、放出を規制し、対策を講じている国は限られています。回収や再生破壊については、政府も国際機関も充分な支援を行ってはいません。途上国では、機器使用中の漏洩防止や機器廃棄後のフロンの回収再生破壊は、新たなコストになるため、機器のユーザーは負担するのを嫌がります。結局は大気中に放出されているのです。

「途上国に対して、日本政府の貢献と協力を期待したい」と語る笠井俊彦さん
笠井俊彦氏提供

――どの国も消極的なのですか?

積極的に取り組む国も現れています。ベトナムは、2024年から一定規模以上の冷凍冷蔵空調機器を持つ者に回収を義務づける法律が施行されました。該当する事業者は国に報告義務が課せられました。私たちの協議会では、会員企業の(株)エムゼットがベトナムで回収再生事業を担うMZVINAを立ち上げ、日本から持ち込んだ再生設備を使って、ベトナム唯一の登録回収業者であり、品質保証のある再生業者として運営しています。そのきっかけは、日本のエムゼット社に技能実習生として機器設置等の技能を学びに来たベトナム人に会社が助けられたことから、『彼らが母国に帰っても、機器設置事業だけでなく、フロンの回収等も仕事にできればいいのではないか』と、社長が考えたからです。

フロンの回収にはこうした機器が必要だ(ベトナム)
笠井俊彦氏提供

――もう少し、詳しく聞かせてください。

回収再生事業を行うためには、回収ルートを確立し、再生設備が必要です。ダイキン(会員企業)のベトナムにある工場とサービスネットワーク、パナソニックのネットワークを活用するほか、MZVINAのある工業団地の企業をはじめ、日系企業も含めた現地の企業に呼びかけ、参加企業の回収ルートをつくりました。再生を行うMZVINAに日本から再生設備を持ち込み、ベトナム法にもとづく再生品質証明をとりました。さらに、フロンが回収され、再生されたか確認するために、回収ボンベにQRコードのラベルを貼り付け、充填量と回収量をスマホで入力し、追跡するシステムを活用しています。回収等の費用負担については、法律が制定されたこともあり、冷凍冷蔵空調機器の所有者または管理者にお願いしています。

会員企業がベトナムなどで回収はじめる

――追跡システムがあればごまかせませんね。

再生できないフロンは破壊しますが。破壊施設はベトナム国内に2か所しかなく、破壊費用が日本の数倍とかなり高いのが難点です。こうしたことから、私たち協議会も協力し、2025年3月に日系企業に呼びかけ、現地でセミナーを開きました。また、現地の回収業者(設備業者)がフロンを回収して詰めるボンベや回収機を持っていないため、MZVINAはボンベなどを貸し出しています。FGRAは、2024年度には24㎏までフロンを回収できるボンベ(QRコード付きで管理可能)を80本、MZVINAに寄贈しました。現地の事業者にフロン回収が事業として成立することを知ってもらおうとしています。

回収したフロンをためるボンベ。FGRAが寄贈した(ベトナム)
笠井俊彦氏提供

――他の国ではどうでしょうか。

現地の企業と提携したり、協力したりする試みは、タイやマレーシア、インドネシアでも行われています。こうした取り組みは、エムゼットのほか、(株)イチネンTASCO、太洋商事(株)、ダイキン工業(株)、岩谷産業(株)などの会員企業が行っています。

――モデル的な取り組みだと思いますが、フロンを破壊せず再生すると、古いフロンがいつまでも残ってしまいませんか。

回収しても再生できないフロンは破壊すべきですが、回収破壊費用を払うことに難色を示される中では、大気への放出を避けるため、再生したフロンから収益が得られる回収再生を進めることが、アジア諸国で回収量を増やすための唯一の方法だと思っています。

――かつて日本は世界一のODA大国でした。いま経済的に落ち込んだ日本は、過去と同様の支援は難しいかもしれませんが、巨額の資金を伴うわけでもありません。こうした地道な貢献にもっと目を向け、支援すべきでしょう。

日本政府は公的支援を

パリ協定は各国の国内削減を義務としていて、わが国も国内削減を優先させるのはやむを得ないと思います。しかし、地球温暖化は全地球的な現象なので、日本以外の国の削減が進まなければ、その影響は日本を直撃します。パリ協定では、排出が多くても自己申告の義務が緩い国もあります。私としては、日本国内の削減にこだわるのではなく、日系企業または日本の公的支援での海外の削減も含め、国内削減に使えるかどうかはひとまず置き、地球全体の削減に日本が貢献することこそ、今必要なことだと思います。

――かつて環境派の国会議員たちが立ち上がったことを、忘れてはいけませんね。

日本は2000年当時、国会議員たちが、CFC、HCFCは京都議定書の対象物質でもないのに、地球温暖化防止のためにやるべきだと、フロン回収破壊法を制定しました。その気概を日本政府の皆さんも持って、国内削減だけでは日本への影響は緩和できないことを踏まえて、日本の国内削減に使えない削減も含めて日系企業の海外での削減を評価する仕組みを拡充して、世界全体の温室効果ガス削減に貢献してほしいと思います。

――その意味でも、FGRAの地道な活動をもっと広げなければなりません。

実際、MZVINAのように公的な支援がなくても、海外での削減に貢献しようという日本の中小企業があります。この人たちを応援することがFGRAの使命です。日本の家庭での地球温暖化への取組となると、自宅での省エネなど自分の排出を減らすことに関心が行きがちですが、年5,000円でFGRAの個人賛助会員になってもらえれば、CO2の1万倍を超える温室効果ガスの削減に協力することができます。参加と応援を期待しています。

笠井俊彦(かさい・としひこ)
1983年環境庁(現・環境省)入庁。初代地球環境局フロン対策室長、内閣官房副長官補室内閣参事官、総合地球環境政策局環境経済課長、NEDO京都メカニズム事業推進部長、函館税関長などを歴任。一般社団法人フロン等温室効果ガスグローバル削減推進協会(FGRA)会長、フロン等グローバル削減研究所代表。

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