富山市と宇都宮市のLRTに乗ってみた(下)
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止
宇都宮市は、LRT(次世代型路面電車、Light Rail Transit)を全線の道路にレールを敷き、走らせている全国で最初の市だ。それだけに、宇都宮市の「実験」がうまくいくかどうかは、LRT導入を検討している他の市にとっても関心が高い。開業して2年余たった宇都宮市のLRTに乗ってみた。
ジャーナリスト 杉本裕明
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宇都宮ライトレールの光と影
宇都宮芳賀ライトレール線は、宇都宮駅東口停留所から芳賀・高根沢工業団地停留所までの14.6キロ。19の停留所がある。2年前の2023年8月に開業した。
1日当たりの平日利用客は16,318人、土日祝日は5,648人と想定していたが、実際には17,000~19,000人、10,000人と、想定を上回っている。2年間で1,024万人が利用した。今後は、宇都宮駅東口から、高架でJR宇都宮駅を渡り、西口に渡し、メーンストリートを県庁に向け、4.9キロ走らせようとしている。
真新しいLRTが駅を滑り出した
宇都宮駅の新幹線の改札を出て、東に向かって2階の通路を歩くと、宇都宮ライトレールの乗り場が窓の下に見えた。階段を降りると、プラットフォームだ。
車体は、流線型のモダンな形で、3両1編成で160人近く運べる。先頭車両と次の車両にそれぞれドアが1つ。後尾車両に2つのドアがあり、ICカードで乗り降りする(現金乗車は先頭車両ドアで検認を受ける)。
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止
祭日の午後の昼間、宇都宮駅を出発した。「宇都宮駅東口」からの出発時、座席はほぼ埋まっていたが、大半の乗客が、4つめの停留所の「宇都宮大学陽東キャンパス」で降りた。実は大学はもう少し離れたところにある。間近にあるのは、商業施設のベルモール。映画館、飲食店、ショッピングプラザが入っている。みんなここがお目当てなのだ。
残った乗客は3両で計7人。しばらくすると、住宅がなくなり、水田が広がる。たんぼ道を時速40キロで走り、坂道を上がり、鬼怒川を越える。ここからLRTは、幾つもある工業団地の真ん中を走る。その合間に展開する新興住宅地のある「ゆいの杜中央」で、一人の婦人が下車した。
「ゆいの杜」は、UR都市機構が1997年~2012年にかけて開発した新興住宅地。宇都宮テクノポリスの土地区画整理事業として、工業団地の企業と研究する機関を誘致する計画だったが、思うようにいかず、宅地に転換した。最初は不便で売れなかったが、LRTの基本計画が公表されると、売れ始めた。2010年代から入居が増え、いま、3,300戸、7,000人が居住する。スーパー、ホームセンター、飲食店、小中学校、病院もできた。
「隣町から路面電車見に来た」
6人を乗せた電車は終点の「芳賀・高根沢工業団地」に着いた。お年寄りの女性2人と孫2人の4人はいったん降りて、再び電車に乗り込んだ。婦人が言った。「宇都宮市の南隣の上三川町からやって来ました。路面電車が話題になっているので、どんなものかと、孫を乗せてやりたかった。きれいで楽しかった」
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止
残りの2人の青年と中年男性は、ホームで、カメラで電車の撮影を始めた。こちらはLRTマニアのようだ。
恩恵のない住民と恩恵のある住民
宇都宮駅東口に戻る途中、鬼怒川を越え、「平石」で降り、近所の住民に話を聞いた。男性が言う。
「このへんはバスも通らない。電車が道路を遮断するため、通行禁止になった。車で南に行くのに迂回しないといけなくなり、逆に不便になった。自宅は駅から遠いし、電車に乗らない。必要ないね。ここは車がないと生活できないんだよ」
停留所近くの住民は利用するが、少し離れたところの住民は、不便さは前と同じなので、車に乗る生活は変わらない、ということのようだ。
福田くみ子市議が言う。「路線ルートは工業団地の中ばかり走っている。実は、清原地区には大勢の住民が居住していて、ルート選定の時、私はこの地区にLRTを通すべきだと思っていた。ところが、決まったルートは企業に配慮し、工業団地の中ばかり走っている。住宅地からはかなり離れており、工業団地のためのLRTになってはいないか」と指摘する。
早朝のLRTはぎゅうぎゅう詰めだった
朝7時10分。JR宇都宮駅の2階通路からLRT乗り場へ向かう。窓から見下ろすと、LRTが出発準備をし、ホームに通勤客が長い列を作っていた。座席に座るため、次の電車を待っているのだ。聞くと2回やり過ごさないと座れないという。
無理して車内へ。かなりの混みようなのに、停留所にとまるたびに、どんどん増えていく。このLRTは、スタジアム行きで、ここでどっと乗客が降りた。この停留所で、工業団地に向かうLRTに乗り込んだ。すごく混んでいる。最後の停留所で、全員が降り、ホンダの工場に向かって黙々と歩いている。間もなく工場での労働が始まる。背広姿のホワイトカラーは乗っていない。みな、工場で働く人々なのだ。
工業団地のホンダなど企業は、宇都宮駅からピストン輸送していたチャーターの通勤バスが廃止された。その人たち、数千人と見られる人たちがLRTに転換したというわけだ。
工業団地に通う車の渋滞緩和策として考案された
宇都宮市は人口51万4,000人。沿線にある工業団地は、清原工業団地(388ヘクタール、就業者13,600人)と芳賀工業団地、芳賀・高根沢工業団地(475ヘクタール、同25,000人)。栃木県グリーンスタジアム(収容人数15,000人)、宇都宮テクノポリスセンター(就業者13,000人)がある。
元々へんぴだった駅東部に市と芳賀町は、日本でも有数の工業団地を展開。通う人は3団地だけで3万5,000人。大手企業は専用通勤バスを走らせていたが、マイカー通勤の車も多く、渋滞がひどかったという
朝夕は通勤ラッシュ
逆に朝夕は通勤ラッシュだ。宇都宮駅東口には人が溢れ、車内はぎゅうぎゅう詰めだ。逆に、昼間はがらがら。予想人数を上回るというのは、工業団地に通う通勤バスがなくなり、その分がどっとLRTに回ったためのように思える。
朝は、大量の積み残し状態が続き、苦情がでないのだろうか。乗っているのは、ラフな恰好をした若い労働者ばかりで、いわゆるホワイトカラーは皆無といってよい。こちらは、マイカー通勤が認められているのだろう。
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止
LRTは渋滞緩和に貢献していると、市は言う。車(自家用車と通勤バス)で1時間かかっていたのが48分と12分短縮されたという。朝夕の混雑を緩和するには、増便しかないが、当初購入した車体は1編成4億3,000万円。いま揃えると2倍する。このため、市は、車輪部分の台車を1億円で購入し、点検等にかかる時間を短縮して、本数を増やそうとしている。
LRTは3つの工業団地の中を走っている。LRTで走ると、鬼怒川を越えてすぐ入るのが清原工業団地。1973年から造成が始まり、翌年から分譲開始した。キャノン、カルビーなど大手企業の工場が並ぶ。388ヘクタールは当時国内最大規模の工業団地だった。LRTは方向を変え、北に進むと芳賀工業団地と芳賀・高根沢工業団地に入る。ホンダが広大な土地を占有する。
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止
発端は工業団地通勤者のための渋滞緩和策としてスタート
宇都宮市の鬼怒川東部から芳賀町にかけて、大規模な内陸型工業団地である清原工業団地、芳賀工業団地、芳賀・高根沢工業団地があり、3万5,000人が就業している。うち3分の1以上が市民という。
しかし、公共交通はなく、通勤はマイカー。原材料・製品を輸送するトラックも合わせ、朝夕は鬼怒川の橋を中心に大渋滞が続いていた。
その渋滞の解決策は、道路の新設と、新たな交通システムだった。その検討は1987年、増山道保宇都宮市長が、宇都宮駅の東西を結ぶ都市計画道路の建設、新交通システムの整備などの案を示したのが最初になる。1993年、渡辺文雄栃木県知事が、宇都宮市東部の渋滞対策として、「新交通システム構想」を発表している。しかし、いずれも具体化されずに終わった。
宇都宮市の検討委員会が2001年LRTを打ち出した
具体化したのは、2001年4月、県の「新交通システム検討委員会」が、JR宇都宮駅から鬼怒川東岸をつなぐ新交通システムについて、ルートを3ルートに絞り、交通手段としてLRTを取り上げてからである。モノレール、ガイドウェイバスも検討し、建設費の安さなどからLRTに絞った。それに呼応し、市も、2002年に「県央地域における新交通シ ステム導入促進協議会」をつくって検討を始めた。
宇都宮市と芳賀町など関係市町での検討組織で、検討が続き、つくった案は、関係鬼怒川東岸のテクノポリスまでの12キロを当初区間とし、当時1万人が就業していた清原工業団地と8,000人の暮らす清原台を通るルートを優位とした。東武宇都宮駅からテクノポリスまで車で1時間かかるが、LRTだと50分としていた。
賛否両論の議会
富山市と宇都宮市の違いは、LRTで政争が起きたかどうかだ。富山市では、森市長が丁寧に説明し、なぜ、LRTなのか、まちづくりとの関係を説明し、市民説明会は130回に及んだ。
一方、宇都宮市は、ルートの選定含め、市民にその過程は知らされず、LRTの導入をめぐって、市議会、市民の間で真っ二つに割れた。その是非を問うため三度の住民投票の実施が提案されるなど、長く政争となってきた。宇都宮市は、LRTを「魚の背骨」と説明し、路線バスやタクシーはその「肋骨」の役目を果たすとした。これは富山市が「串とお団子」と呼んだのを真似たものだ。JR宇都宮駅を高架で通し、西側に延伸する計画も、富山駅にならったといえる。
提供:宇都宮市
利用者は多いが、前途は
富山市と比べて、宇都宮市が頭を痛めているのは、総事業費の多さだ。富山市は、富山港線が、JR西の路線としてすでにあったこと、富山駅南進も、すでに富山地方鉄道の路面電車網があり、市は、富山港線と路面電車をつなぐ事業に徹した。
これに対し、宇都宮市は、法整備が整い、事業費の2分の1の補助金が得られるなど特典があったが、工事まで長い期間を要したことから、489億円だった総事業費が高騰し、689億円に。それを市は公にしなかったが、情報公開請求で得た内部文書を新聞社に暴露され、認め、市民の批判を浴びることになった。
2023年8月、宇都宮ライトレールは開業し、予想を上回る利用者があり、2年で1,000万人を超えた。いま、市が取り組むのが、宇都宮駅西口に高架で乗りこえ、西側に4.9キロ延伸する事業だ。
しかし、これも当初の400億円が698億円に増え、なお、これに上乗せされそうな気配だ。
西側延伸計画の事業費が1.7倍になっても市長は「必要」
提供:宇都宮市
西部の事業について、市は、これまで2030年に開業するとしてきたが、昨年、2036年に遅らせると発表した。理由として、道路の一部拡幅によって立ち退きしなければならない建物がマンションを含めていくつもあることと、LRTの軌道予定の道路地区に、ガス、水道、通信など埋設物が多数あることがわかったからだという。保坂栄次市議が言う。
「道路の一部拡幅は、協議相手の県から、『拡幅しないと渋滞がひどくなり、大通りのすべてを片側1斜線とする市の方針を変更するよう求められたからだ。市の担当者は『掘ってみないと何があるかわからない』」と言っており、これまで、LRTが通るだけだと聞かされていたマンションの住人が、突然立ち退けといわれて、すんなり応じるとは思えない。698億円ですむわけがない。西側に無理にLRTを通す理由がない」
拡幅するのは県庁に近い地区になる。
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止
それでも、西側延伸計画を期待して、民間企業による再開発の動きは活発化し、ホテルや高層マンション、複合ビルなどの建設計画が進められている。市は「2028年から5年間で用地を取得、工事を始め、36年の運行開始に間に合わせる」(LRT整備課協働室)という。
市は、LRTによって、地価が上がり税収が増えた。沿線の人口が増加に転じた。企業の進出が増えた。国の補助で市の負担は事業費の半分になり、年間の返済額は最大で13億円で、宇都宮市の2400億円の一般会計予算の5%程度などと説明している。
太陽光発電の電気を自営線でLRTに送る計画に暗雲
実は、宇都宮市にはLRTをめぐってもう1つの課題がある。宇都宮市は、環境省の進める「脱炭素先行地域」として認定され、市内の特定の地域で同省の交付金を使い、5年計画で再生可能エネルギーを主に取り組んでいる。
「脱炭素先行地域」に選ばれるには、取り組みの独自性が求められる。選考の際、宇都宮市がアピールしたのが、LRTを再生可能エネルギーで走らせることだった。市の計画では、LRTの変電所から線路沿いに4キロ自営線を延ばし、沿線近くにある3か所のため池に太陽光発電パネルを設置、自営線で電気を変電所に送り、電車を走らせるというものだった。
提供:宇都宮市
発想は、「まちづくりの一環のLRTを、地区内で発電した再生可能エネルギーで走らせるところが評価された」(環境創造課)と、斬新な発想だったが、「具体的に計画を進めると、自営線の設置費が最近の物価高もあり、コスト的に厳しいことがわかってきた」(同課)。
再生可能エネルギーを進めるために、市は、宇都宮ライトパワー(株)を設立した。しかし、太陽光発電パネルは設置できても、自営線のノウハウはなく、東京電力の会社の協力を仰いだところ、当初想定した金額ではとてもすまないことがわかったという。
LRTが消費する電力は、現在、市のごみ焼却場がごみを燃やして発電した電力のうち、ごみに占める生ごみと紙ごみなど有機物の重量分を、CO2を出さないバイオマス発電分として東京電力に送電、その分をLRT運行と運行する宇都宮ライトレールの施設に使用している。
市は「バイオマス資源で得られる電力でLRTを走らせているので、100%再生可能エネルギーで走るLRTとアピールして」(LRT管理課)と説明する。しかし、ごみ発電したところで、廃プラスチックなどと一緒に燃やすため、大量のCO2が発生する。プラスチックの高率のカロリーで、カロリーの低い生ごみを無理に燃やしているのが現実で、ドイツでは、ごみ発電は再生可能エネルギーと認めていない。
市は「自営線設置は、検討をやめたわけではないが、別に下水処理場の空き地や廃棄物の最終処分場の跡地に設置し、東電の送電線につなぐ方法も検討し、地域の再生可能エネルギーを増やそうと検討している」(環境創造課)と話す。一部の事業者や利用者に限らず、地域に貢献し、歓迎されるLRTであってほしい。










