水銀による公害とは?水俣病とは何だったのか
水銀と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。
まず思い浮かべるのは、最近は少なくなりましたが、体温計に使われる水銀ではないでしょうか。
もしくは、水銀と聞いて「水俣病」を連想する人も少なくはないでしょう。
水銀は便利な液体金属ですが、水俣病のような恐ろしい公害の原因にもあります。
水銀とはどのような金属なのでしょうか。また、水俣病とは何が原因だったのでしょうか。
水銀とは
水銀は元素のひとつで、銀色の液体のような見た目から、その名で呼ばれるようになりました。
個体から液体になる温度の融点が-38.9度で、個体が気体になる温度である沸点が357度であることから、金属の中で唯一常温が液体となるのが水銀です。
多くの金属と混和することも特徴で、歯科治療で使われるアマルガムを作るためにも水銀が必要です。
薬として使われることや、蛍光灯の発光原理にも水銀は必要不可欠です。
水銀は便利な元素ですが、毒性があることでも知られています。
メチル水銀の毒性は有名で、人間の体内に入った場合、脳が障害を起こしてしまう危険性があります。
水銀による公害として有名な水俣病も、このメチル水銀によるものでした。
それでは、水銀とはもともとは、どこから発生するものなのでしょうか。
水銀の循環
実は、水銀はもとから地殻に含まれている元素です。
水銀が大気中に排出されるのは、火山活動や岩石の風化などによるものがありますが、現在大気中や水中、土壌に存在している水銀は、大部分が人間の活動によるものです。
大気中に放出された水銀は雨や雪となって降り、大地に吸収されます。
湖底に沈む場合や、河川を流れて海へ移動することもありますが、どちらにしても再び蒸発して大気中に散って循環しています。
しかし、産業革命後の人間の活動により、環境の中に存在する水銀の濃度は高くなってしまいました。
水銀は環境の中に、元素水銀、無機水銀化合物、有機水銀化合物として存在します。
無機水銀化合物は水中の微生物によってメチル水銀に変化します。
魚はプランクトンからメチル水銀を取り込んでしまい、体の中に蓄積してしまいます。
これを人間が食べてしまうと、大変なことになってしまうのです。
水俣病とは
水銀による公害の中で、有名な水俣病はどのような経緯があったのでしょうか。
1941年、チッソ株式会社は熊本県の水俣市で水銀を使用したアセトアルデヒド(当時、プラスティックの原料として大きな需要があった化合物)を製造していました。
このとき使用した水銀を回収することなく、原液を川に流していました。
そして、水銀に汚染された水は水俣湾へ流れ込み、汚染された魚や貝を食べてしまった人々が水俣病となってしまったのです。
多くの人が水俣病に苦しみましたが、チッソ株式会社と政府の対応は悪く、この件が公害と認定されたのは患者が発生する1953年から15年後の1968年でした。
こういった経緯もあり、水俣病は環境問題として悪い意味で大きな印象を残したものだったのです。
また、2018年にはアメリカの人気俳優であるジョニー・デップ(Johnny Depp)が、水俣病を題材紙にした新作映画「ミナマタ(Minamata)」に出演することが決まったそうです。
これは、水俣病が公害として認定された1968年から50年経った今でも、水俣病が忘れてはいけない環境問題であることを表している、と言えるのではないでしょうか。
その後の水銀
1972年、ストックホルムで開催された世界環境会議で水俣病が取り上げられ、多くの人にショックを与えました。
それ以降、水銀の持つ毒性は危険視され、水銀の使用量は減少傾向にあります。
しかし、途上国による水銀の採取は続き、アメリカでも水銀が排出される石炭火力発電所が大規模に使われています。
日本では水銀の使用はピークに比べると大幅に減少されましたが、まだ医療用計測器やボタン電池、ランプ類などに使われています。
蛍光灯には水銀が必要不可欠ですが、水銀を使用しないLEDへの転換が進むなど、水銀の使用量を下げる工夫が行われています。
また、北極圏の動物に多く水銀が含まれていることが判明し、人間による環境汚染であることが指摘されています。
2013年に水俣市で開かれた水俣条約外交会議では、水俣条約が採択され、50ヵ国による批准により2017年に発効されました。
参考:環境省 水銀に関する水俣条約の概要
水銀による環境問題は依然として猛威を振るっていると言えます。
私たちも水銀を使用した体温計を使わない、電気はLEDを使用するなど、できることから水銀の削減を意識してみましょう。