海洋プラスチック問題を7つの視点から考える③ジャーナリスト 杉本裕明
前回、前々回に続き「海洋プラスチック問題を7つの視点から考える」をご紹介します。
海洋プラスチック問題を7つの視点から考える①ジャーナリスト 杉本裕明
プラスチックの海洋汚染を防止し、資源循環を進めるための環境省のプラスチック資源循環戦略案が2018
プラスチックの海洋汚染を防止し、資源循
海洋プラスチック問題を7つの視点から考える②ジャーナリスト 杉本裕明
前回に続き「海洋プラスチック問題を7つの視点から考える」をご紹介します。 ③課題山積み
前回に続き「海洋プラスチック問題を7つの
⑤レジ袋有料化とペットボトル
レジ袋の有料化は効果がある、しかし
そんな戦略の中で、唯一具体策として書かれているのがレジ袋の有料化の義務化だ。これは、2006年の容器包装リサイクル法の改正の際にも議論された。当時やり玉にあがったのが、スーパーマーケットで、イオンは有料化の先頭に立って、まず京都の店舗で始めた。消費者の反応を見て、全店舗に広げていった。
各地の生活協同組合が歩調を合わせる一方、レジ袋を断ればポイントを賦与するなど、様々なスーパーがレジ袋の削減に取り組むようになった。また、地域での有料化の足並みをそろえようと、自治体と協定を結び、有料化を実施し、高い辞退率を引き出したところもある。富山県や名古屋市などがその成功例だ。
当時、環境省は、有料化の一律義務づけは法的な疑義があるとし、また日本チェーンストア協会や日本フランチャイズチェーン協会の理解が得られず、自主的な取り組みを進めることで決着した。それでもスーパーでは買い物袋の持参が進み、協会の調査では辞退率は5割強と、コンビニの同2割強よりはるかに高い。フランチャイズ協会は、レジ袋が必要か消費者に尋ねることで削減を図る「声かけ運動」をしているが、効果は限定的で、そもそも多くの店舗で行われていない。
ところで、レジ袋の削減というが、元々、どれぐらい配布されているのか。国にデータがないので、筆者が大雑把な試算をしてみた。日本ポリオレフィンフィルム工業協会によると、加盟社のレジ袋生産量は17年度が8万4000トン。ポリオレフィンフィルム類の輸入量は56万トンあり、レジ袋も含まれる。「国内産は全体の1~3割と言われる」(協会)ので、中間の2割を国内産とすると、レジ袋の総量は42万トンになる。
レジ袋Lサイズ(1枚6・8グラム)に換算すると617億枚。しかし、全国に5万8000店舗(上位4チェーン)のコンビニが配布するレジ袋はもっと小さいから、はるかに多いだろう。
また、ドラッグストアやホームセンターなどでも使われ、有料化論議の際には、業界ごとに使用実績を報告させ、その効果を議論すべきだろう。
プラスチック容器包装リサイクル推進協議会によると、使い捨てプラスチックの大半を占める容器包装類の排出量は226万トン。廃プラスチック全体の約4分の1を占める。戦略では、使い捨てプラスチックの25%を30年までに4分の1減らすというが、その分を容器包装で減らすとすると約56万トンとなる。環境省は「レジ袋削減の効果は大きい」と期待するが、有料化で使用量が半減しても、なお35万トン不足する勘定だ。
また、「コンビニはスーパーと比べて業態や購買層が違い、辞退率が大幅に高まると期待できない。消費者の負担を増やすだけで、辞退した客にポイントを賦与する方式の方がいい」(専門家)との指摘もある。
汚れた事業系のペットボトルが問題
事業系のペットボトル。飲み残しもありずいぶん汚い
写真は筆者撮影 転載禁止
もっと議論されていいものにペットボトルがある。小委員会で、普段配っていたペットボトルをやめてコップにお茶をつぎながら、議論の対象から外すのは矛盾していないか。
飲料メーカー各社は、肉厚を薄くすることでプラスチックの使用量を抑えてきた。PETボトルリサイクル推進協議会によると、17年のペットボトルの生産量は227億本と04年の1・54倍。しかし、二酸化炭素に換算した排出量は216万7000トンと、1・04倍にとどまる。
今後も増え続けるペットボトルを、軽量化だけで対応できるのだろうか。日本では国民1人が年間約190本も消費しているのである。
このペットボトルはリサイクルの優等生とも言われる。廃ペットボトルは有価で取引され、年に58・7万トンの販売量のうち、25・2万トンが中国などに輸出されていた(2016年度)。 ところが、中国が18年1月から輸入禁止措置(良質のペレットなら輸入可)をとり、輸出に頼ってきた事業系のペット(自販機やコンビニなどに集まったもの)の行き先が大きな不安を抱えている。それ以外の自治体の集めた家庭系のペットボトルは、容器包装リサイクル法で国内の処理業者に引き渡し、繊維やペットボトルに再生されている。キャップやラベルをとり、きれいな状態にした上、自治体が引き渡すことが定められ、品質の良い再生品を生み出している。
しかし、事業系のペットボトルは、飲み残しがあったり、キャップやラベルがついたものが大半だったりで、「汚いペットボトルから品質の良い再生品はできないので、引き取りを断っている」(リサイクル業者)。中国に拒絶されたペットボトルは東南アジアに向かったが、18年9月の実績では、韓国、台湾、ベトナム、タイ、マレーシアなどに計1万5604トン。前年同月と比べて4分の3にとどまる。他の月も同様の状態で、あふれたペットボトルのかなりの分量が焼却や埋め立てに回っているようだ。ある産廃業者は「引き取ってくれと頼まれて、焼却処理している」と語る。
全国清涼飲料連合会は11月に自販機の回収箱を「自販機専用空容器リサイクルボックス」と呼ぶことを決め、空容器専用のリサイクルのためのボックスあることを消費者へ周知していくことを発表した。品質を高め、リサイクルしやすくするのが狙いだ。環境配慮設計の推進もうたうなど評価できる点もあるが、回収後の処理は各業者が委託した処理業者に任せている点は変わらない。
結局、お金をかけて、きれいなペットボトルにしてリサイクル業者に引き渡さないと、質の良いリサイクルは望めない。
⑥リサイクルせず焼却する東京の11区
東京23区のうち11区が燃やしている
港区内の清掃工場。廃プラもここに持ち込まれている
写真は筆者撮影 転載禁止
いま、新聞やテレビが話題にするのは、どこの事業者がストローの全廃を打ち出したと言った話が多い。プラスチックストローをやめるのも一つの取り組みだが、それで廃プラスチック問題が解決するわけではない。
盲点が、容器包装リサイクル法だ。家庭から出たペットボトルや容器包装プラスチックを自治体が集め、引き渡された事業者がリサイクルを行う。その間に容器包装リサイクル協会が介在し、入札で業者を決める仕組みだ。戦略で重点を置いたリデュースも、同法で重要な役割を期待されている。しかし、各業界団体の自主的取り組みに委ねられ、十分機能しているとは言い難い。
例えば、業界の発生抑制の数値目標を見ると、プラスチック容器包装は20年までに04年比で16%削減だが、実績は15・3%。ペットボトルは、一本当たりの重量で25%削減が目標で実績は23%。目標値に近づいているように見えるが、目標値が低いことと、製品の軽量化に主眼が置かれ、リサイクルしやすい「環境配慮設計」にはあまり目が向かない。
それに比べ、フランスやドイツでは、リサイクルしにくい製品にペナルテイを与えて事業者の負担金を増やし、しやすい製品は負担金を減らすことで「環境配慮設計」を進める政策が行われている。彼らが署名した海洋憲章と、今回の日本の戦略は、表面上はよく似ているが、ベースになるところが随分違っている。
戦略の具体化を進めるには、自治体の役割も大きい。だが、このままではホームページで市民に使用の抑制を訴える程度にとどまりそうな気配だ。自治体が抱える廃プラスチックの大きな課題は、容リ法の施行から18年が経過しながら、いまだに全国の3分の1の市区町村が容器プラをリサイクルせず燃やしていることだ。オリンピックを迎える東京23区では、文京区、台東区、墨田区、大田区、世田谷区、渋谷区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、足立区の11区が、容リプラをリサイクルせずに燃やしている。海外の観光客がそれを知ったら、どう思うだろうか。
もちろん、人口が密集する23区では、容器包装プラスチックを保管する場所が見つけにくいという事情があるかもしれない。しかし、そもそもペットボトルや缶、瓶をリサイクルしているにもかかわらず、容リプラだけはやらなくてもいいというのは、理屈が通らない。
⑦プラスチックに含まれる化学物質が心配だ
環境ホルモン問題は再燃するか
写真は筆者撮影 転載禁止
今後の廃プラスチック問題で、必ず大きな問題となるのが、プラスチックに含まれる化学物質だ。プラスチック製品には可塑剤や難燃剤などの様々な添加剤が使われている。加工しやすく、品質を高めるためだが、有害化学物質や内分泌かく乱物質(環境ホルモン)を含み、海洋で微細なマイクロプラスチックになると、海水から有害化学物質を吸着させ、生物への汚染が懸念されている。
高田教授らが東京湾の堆積物からマイクロプラスチックの個数を調べたところ、深さ80~82・5センチと比べ、5~7・5センチの場所では4・4倍と経年的に増加し、汚染が進んでいることがわかった。
プラスチックの汚染を巡っては、最近、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)ビスフェノールAの代替物であるビスフェノールSにも同様の作用があることがわかり、欧米の飲料容器メーカーなどが使用自粛に動いている。ビスフェノールAは、容器などに使われている間に飲食物に移行するとして、欧米では規制されている。日本では食器などの販売が自粛された結果、暴露量は欧米より低かった。
ところが、日本を含むアジア7カ国の人の尿に含まれる二種類のビスフェノールを、マレーシアの大学の研究者などが調べた(12年公表)。日本は、ビスフェノールAの濃度がアジア6カ国の中で最も低い代わりに、ビスフェノールSはダントツに高かった。両物質を合わせると、最も値の高いインド、韓国、マレーシアにほぼ匹敵する。ビスフェノールAも、EU委員会が18年に食品と接触する容器などへの規制値を10倍厳する値を発表し、日本も再検討を迫られている。
廃プラ政策でEUに競り負け?
一方、家電メーカーは、テレビやエアコンなど電気・電子機器に対する新たな化学物質規制の対応に追われている。特定有害物質を規制するEUのRoHS指令で、従来の6物質にフタル酸エステル類の4物質が加わり、19年7月から規制が始まるからだ。規制値を上回ると、EUへの輸出ができなくなる。4物質は大半の機器の配線・ケーブルに使われ、規制を上回ると輸出できず、検査や代替物への交換に忙しい。
化学物質規制でEUに主導権を握られる中、ある官僚は「EUのプラスチック対策は産業政策の一環。日本も網を広げて取り組んでいかないと」と危機感を語る。企業も危機感を持っているところは同じだ。ある大手家電メーカーは「いつもEUに基準をつくられ、それに日本が従う構図が続き、企業は対応に振り回されている」と嘆く。
環境ホルモンを巡っては、環境省は98年の「SPEED98」で疑いのある67物質のリストを作成、解明に積極的な姿勢を見せた。しかし、その後、明確な確認が難しく、「環境ホルモン空騒ぎ」と一部の研究者らから批判を受けて、見直された「ExTEND2005」(05年)ではリストを事実上廃止、調査を生態系に限るなど消極的な姿勢に変わった。次の「EXTEND2010」では、理解のある官僚が人への影響について文献調査を追加するなど、軌道修正を図った。さらに「EXTEND2016」が出ているが、研究は細々と続くだけである。
化学物質問題に取り組んできたダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議代表の中下裕子弁護士は「戦略づくりでは、ほとんど議論されなかったが、この問題は、化学物質による汚染と切り離せない。プラスチック製品に含まれる化学物質について有害物質規制を導入すると共に、製品に使われる添加剤を、規制物質の先に決めるポジティブリスト制を導入し、成分表示の義務づけが必要だ。環境ホルモンに再び光があたる可能性がある」と話している。
引用・参考文献 「世界」1998年9月号、「都市問題」1999年1月号、杉本裕明