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クマの被害防ぐには、人の生活圏に近寄らせないこと もし出会ったらどうする?

クマの被害防ぐには、人の生活圏に近寄らせないこと もし出会ったらどうする?

留守にしていた家に戻ったらクマがいた。果樹畑でばったり出くわした。クマに襲われ、負傷するケースが相次ぎ、住民の不安が高まっています。普段は山奥で生活しますが、ドングリなど餌となる木の実の不作や、奥山の開発で、餌を求めて人里に下りて、出くわした住人に危害が加えられる例が増えています。

自治体は、猟友会の協力も得て捕獲・殺処分していますが、動物保護団体などは、捕獲後に奥山に戻すよう求めています。もし、クマに出くわしたらどうしたらよいのでしょうか。

ジャーナリスト 杉本裕明



クマの被害が急増

環境省のまとめだと、クマによる被害に遭った人は、2024年度は12月までで82人。うち3人が亡くなっている。2023年度は219人と多く、6人もの死者を出している。

統計を取り始めた2008年度は59人、死亡1人。年ごとにでこぼこがあるのは、ドングリをはじめとする木の実などが凶作だった年と豊作だった年の差も影響しているのかもしれない。2023年度は統計を取り始めた2008年度以来、最大を記録した。

環境省:令和6年度 第2回クマ被害対策等に関する関係省庁連絡会議から引用

出没情報を見ると、2023年度が2万4348件と最も多く、2024年度(12月まで)も1万9979件となっている。2023年はドングリの大凶作のあった年だが、数年おきに大量出没が起きている。本州に生息するツキノワグマの分布域は2003年度から2018年度までの15年間で1.4倍に広がり、北海道に生息するヒグマの分布域は同1.3倍に広がった。

環境省:令和6年度 第2回クマ被害対策等に関する関係省庁連絡会議から引用

これは、生息域だった奥山が開発されたりしての、里山への侵入もある。里山の広葉樹はクマの好む木の実が豊富だが、これまでは人の手が入り、クマは近寄れなかった。

しかし、住民の高齢化や過疎化が進み、人の手が入らないようになり、かっこうの餌場になったところも多いという。さらに里山を下ると、そこに住宅地や農地が広がる。食べ物を求めたり、迷ったりして里山からおりてきたクマと住民が遭遇することが増えた。

捕獲したクマの大半が殺処分

これまで自治体は、目撃情報などをもとに、ワナを設置したり、地元の猟友会に委託したりし、捕獲してきた。だが、猟銃を持って危険な業務を行う猟友会のハンターの日当は1万円にも満たない。過疎で高齢化し、人が足りない。筆者がかつて取材したハンターは「身の危険があるうえ、都会のよそ者たちからは、クマを虐殺する悪人扱い。だれが好き好んでやりますか」と不満を語った。

2024年6月に開かれた、環境省、農水省、警察庁など関係省庁で構成されるクマ被害対策業務関係者会議で、北海道の猟友会のハンターの声が紹介された。「日当8,500円。高校生でもコンビニでこれぐらいでるでしょう。それでクマに立ち向かっていくのですか。誰が行くのですか?」

法律できちんと役割を位置づけ、権限を与え、正当な報酬を払う。そんな当たり前のことを、国は怠り続けてきた。

2024年度(12月まで)の捕獲数は5,101頭で、うち4,899頭が殺処分された。なんと96%が殺処分されたことになる。2023年度は9,274頭が捕獲され、9,097頭、98%。2019年度は6,285頭が捕獲され、6,039頭、96%と高い。

都道府県ごとに見ると、長野県は2020年度に416頭捕獲されたが、殺処分されたのは316頭、76%と、全国で一番殺処分率が低かった。しかし、2024年度には345頭捕獲し、320頭が殺処分され、93%と高まっている。

奥山に返す学習放獣という方法

長野県は他の県に比べて、補殺率が低いようだ。その理由を林務部森林づくり推進課の担当者に聞くと、「長野県では学習放獣を施策に位置づけています。クマの出没時の対応マニュアルがあり、再出没したクマは麻酔銃を使って捕獲し、人と接触しないように学習させ、放獣させることになっています。また捕獲は頭数の目標を定めず、(捕獲の)上限の頭数を特定計画をつくって定めています」。

計画は5年ごとに見直されるという。2024年にクマが特定管理鳥獣に指定されたことで、環境省の予算が一部の事業に利用できるようになったが、捕獲事業での利用はしていないという。

学習放獣に取り組むNPO法人

この学習放獣を民間団体でやっているところがある。軽井沢で活動するNPO法人ピッキオがそうだ。ホームページでこう紹介している。

「25年ほど前からツキノワグマによる被害(ゴミあらし、住居侵入、農業被害等)が増加していた。それまでは駆除しかなかったが、個体管理という手法を取り入れ、同時に誘引物管理を徹底した。(1999年頃より)個体管理と誘引物管理を行う事で、人の住むエリアの被害を大きく減少する事ができている」

クマの殺処分に頼る方法ではあまり効果はなく、真の原因を取り除かない限り被害は続くとし、調査し、それを基に対策を講じ、ヒトとクマが適度な距離を保ちながら、共に暮らす方法を模索している。

具体的には、ワナで捕獲したクマを検査した上、電波発信器を装着し森に戻す。その際、人やイヌの大声、ゴム弾などで威嚇しながら放獣することで「人や犬は怖い」と学習させる方法(学習放獣)を採用している。

しかし、各市町村が実行するためには、専門家を配置したり、予算も必要だ。ある自治体の担当者は「学習放獣は奥山に返すことだが、奥山の所有者が認めないとできず、地域によって差がある。それに奥山の多くは国有林ですが、林野庁は職員の安全面から、放獣を認めていません。学習放獣を否定しないが、条件がそろわないと難しい」と語る。

抗議電話が殺到し、役場の業務に支障も

一方、殺処分した自治体に対し、「殺す必要があるのか」との抗議や疑問の声が殺到することがしばしば起きている。

秋田県美郷町では、2023年10月、作業小屋に入ったクマ3頭が捕獲され、その後殺処分された。その報道があった1日だけで抗議の電話が320件あり、通常業務がマヒした。

「電話の応対で、通常業務に支障がありました。元々美里町はクマの被害はほとんどありません。2024年に出没情報が28件ありましたが、同じクマを住民が見ており、実際にはその半分です」と同町農政課の職員は話す。

秋田県では、鹿角市で2024年6月、行方不明の人を探していた警察官2人がクマに襲われ、負傷した。県は、同年7月から、情報マップシステム「クマダス」を動かし、ホームページで県や市町村が把握したクマの出没情報を提供している。登録すると、メールで情報が得られる。

指定管理鳥獣」に指定し、捕獲の体制整える

2024年4月には、環境省は、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)の省令を改正し、クマ類を「指定管理鳥獣」に指定した(四国の個体群は絶滅の恐れがあると未指定)。

指定されると、都道府県等が計画に基づき行う捕獲や被害対策等に必要な費用を国が支援することになる。

これまで環境省はニホンジカとイノシシを指定管理鳥獣に指定しているが、共に繁殖力が高く、農作物等に被害を与えている。そこで生息数を減らすというのが目的だった。

しかし、クマはどの程度生息数が増えているのかも明確でなく、過度に捕獲し殺処分すると絶滅の心配があったからだ。

このため、指定管理鳥獣に指定することについて専門家からなる「クマ類保護及び管理に関する検討会」では、環境省が提案する指定管理鳥獣への指定を認める一方、自治体の対策が補殺に偏ることを懸念し、それを防ぐことをもとめる報告書となった。

NPO法人も検討会で発言

検討会には、猟友会、農協などのほか、NPO法人ピッキオも出席し、発言した。

委員「長年 軽井沢で(学習放獣など)対応を継続的に実施できているのは非常に素晴らしい。職員の育成や意識醸成などの体制はどのようにして維持・継続しているのか」

楠部真也代表「実施している作業、共存モデルの目的を理解してもらうことがまず重要です。その中で、自分たちが社会に貢献する役割を認識してもらうことが、体性とモチベーションの維持につながっていく重要な部分だと考えています」

座長「ツキノワグマ対策の事業として、軽井沢町から2,000万円の事業費が出ているという話だが、業務量などを考えると十分な人員配置は難しそうに思える。現在、ピ ッキオで行っているツキノワグマの保護管理事業では、軽井沢市の中でどの程度の面 積を何人程度で対応しているのか」

楠部代表「保護管理に従事するスタッフは6人で、軽井沢町全域をカバーしています。夏は、長野県 東信地域の事業としては錯誤捕獲への対応も実施しています。人件費等を含め3,000万円程度は必要で、不足分は自主事業で実施しているエコツアー等の売り上げで補填(ほてん)しています」

地道な活動の実態と厳しい財政事情が明らかになった。

人とクマのすみ分けを目標とする

報告書は、人とクマがすみ分けすることを目標とし、ゾーニングによる管理を求めた。そして、人の生活圏とクマの生息域を区分した。

  • 人の生活圏(市街地・農地等)にはクマを生息させず、人の安全を最優先する。クマを呼び寄せる放任された果樹を除去し、クマの出没防止対策を徹底し、侵入したクマは速やかに排除する
  • 緩衝地帯(人の生活圏と保護優先地域の間の地域)は、伐採や刈り払いなどの環境整備や林業等の人間活動を実施する
  • 保護優先地域(奥山等)は、地域個体群の安定的な維持を図りつつ、クマにとって良好な生息環境を保全する

と提言する。また、モニタリングに基づく順応的な管理とし、分布や個体数、軋轢(あつれき)を評価するモニタリングを定期的に実施し、個体群が適正な生息状況となるよう、順応的な保護・管理を進め、順応的な管理を行うとしている。

検討会は、知事たちの陳情受け開催

この提言を行った検討会は毎年春に開かれていたが、2023年12月に急遽開催された。その裏には、国の姿勢に業を煮やした北海道東北地方知事会の会長、達増拓也岩手県知事ら3道県の知事、副知事が環境省と農林水産省を訪問し、クマ対策の強化を求める緊急要望書を提出した動きがあった。

伊藤信太郎環境大臣に面会した知事らは、指定管理鳥獣にクマ類を追加し、財政支援を求めるとともに、クマを殺処分した自治体に非難の電話が殺到していることについて、国民に正しい情報を伝えるよう求めた。

達増知事は「(クマ対策は)新たな局面に入っていると言っていい。緊急対応の部分を強化せねばならず、国の財源と専門知識に期待する」と述べた(朝日新聞など)。

委員全員が指定を容認したが

環境省は「クマ類保護及び管理に関する検討会」を急いで開いた。委員には、秋田県と島根県の職員も入っていた。検討会は2024年3月までに3回開かれ、まず現状について議論され、両氏が報告した。

近藤麻実・自然保護課主任「ツキノワグマの大量出没はブナ科堅果類(の凶作)だけでは説明がつかない。今年は、夏季に熟していないリンゴ、スイカやクリを食害していたようだ。夏季の餌資源が不足し、その結果、行動権の拡大と共に人の生活圏への接近や人との遭遇リスクが増加したのではないか」

澤田誠吾・島根県西部農林水産振興センター主幹「島根県ではゾーニング管理を導入し、捕獲が進んでいることから、今年は大量出没を少なく抑えることができた可能性が考えられる。ゾーニング管理の効果検証が重要になる」

地域によって、餌となるドングリの生育状況が違い、住民が育てていた柑橘(かんきつ)類もクマが餌にしている状況がわかる。

ゾーニング管理が重要

ゾーニングの重要性に触れた意見も多かった。

小池伸介・東京農工大学教授「(提案書原案の)目的は非常に明確。その中でも、ゾーニング管理がとても重要になってくる。2000年代以降に大量出没が発生しているが、出没を抑制する取り組みが必要である。現状の特定計画では、ゾーンが描かれていたとしても、ゾーニング管理は多くの地域で実現出来ておらず、出没を防ぐための対策が進んでいない」

棲(す)み分けをするには、クマと人の活動域を区分けし、人の活動域にクマが侵入してこないように、木を伐採したり、奥山の自然を保護したりと、土地を管理することが必要になってくる。単にクマを追い払えばよいということではない。

環境省:令和6年度 第2回クマ被害対策等に関する関係省庁連絡会議から引用

最後の第3回の検討会では、クマ研究の第一人者と言われる座長の山﨑晃司・東京農業大学教授が、こうまとめた。

「指定管理鳥獣に関する議論が上がった時に、かなり迷った部分があった。シカやイノシシの指定管理鳥獣捕獲等事業の現状を考えると、クマ類を指定しても大丈夫かどうかという懸念があった」

「だが、シカやイノシシとは同一の制度ではない新たな制度や名称の変更の検討、新たな交付金メニューを作成した上で実施するということを前提とした上で、クマ類の指定管理鳥獣への指定は賛成としたい。事業がきちんと目的に沿った形で運用、評価されているのか等、国として状況を集約し順応的な指定管理事業が行われているかを見ていく必要がある」

こうして委員全員が指定管理鳥獣にすることを容認した。いずれも計画的な施策の実行を前提としていた。報告書の副題は「クマとの軋轢の低減に向けた、人とクマのすみ分けの推進」。

なお、四国では絶滅のおそれが高いとして、四国のクマは除くことがきまった。四国ではすでに40年も捕獲が禁止されているのに、生息数はまったく増えず、絶滅の危機が続いている。地域ごとに生息していることが重要で、どこか別の場所に生息しているから、ここからいなくなってもよいというわけではないのだ。

指定鳥獣にして、殺処分の圧力強まらないか

鳥獣保護管理法に基づく「指定管理鳥獣」と指定されると、捕獲について幾つかの特例措置が設けられている。指定管理鳥獣捕獲等事業実施計画に位置付けると、捕獲の禁止(第8条)、捕獲した鳥獣の放置の禁止(第18条)、夜間銃猟の禁止(第38条第1項)といった鳥獣保護管理法で禁止されている規制が適用されず、捕獲の自由度が高まる。

ところで、ニホンジカとイノシシが先に指定されていたのは、全国規模で生息数が急増し、それに伴い農作物への被害も急増したため、生息数を減らす必要があるからだ。推定される個体数(中央値)を見ると、イノシシは2011年度に121万頭あったのが、指定鳥獣に指定され、半減を目指した結果、2019年度に72万頭に、ニホンジカ(本州以南)は同233万頭から222万頭に減った。ニホンジカは半減すると計画しても、うまくいっていないことがわかる。

一方、クマは生息数の把握ができていない。クマが人的被害を及ぼすのは、別の要因によって人の生活圏にクマが入り込むことがトラブルを起こしている。クマが生息する奥山が近年、太陽光発電所の設置に伴う大規模森林の伐採などで縮小し、人とクマの生活圏の間にあった里山が、過疎化で人の手が入らなくなってクマが進出。さらに人の生活圏に侵入し、柿などの柑橘類の味を覚え、滞留する例が増えているからだ。

計画的に捕獲すると言っても殺処分の圧力が必要以上に強まれば、個体数が減少する恐れがある。座長が「人とクマのすみ分けの推進」を報告書の副題にすることを条件にしたり、クマの保護活動に携わる団体が指定に反対するのもこうした事情からだ。

クマとの共存へ

秋田県は、クマが指定管理鳥獣に指定されたことから、2024年の補正予算で、クマ出没抑制緊急対策事業を計上、環境省の交付金も得て、クマが奥山から里に降りてくるルートにある藪(ヤブ)を刈り払いし、見晴らしを良くすること、放任された柿などの果樹を持ち主の許可を得て伐採することの2つの事業を行った。

県自然保護課の担当者は「クマは頭がよいので、いったん柿などを食べるとそれを覚えていて、再び果樹のある場所に戻ってきます。最近、クマが建物の中に立てこもる事例があり、環境省に対して建物の中でも麻酔銃が使えるようにしてほしいと要望していましたが、環境省では一定の条件の元で認める方向で検討しているようです」と語る。

また、学習放獣については「対象となる奥山は少なく、また奥山の所有者の了解が得られない」としている。麻酔銃は、獣医や研究者に限られ、体の大きいクマは麻酔が効くのが遅く、危険だと認められてこなかった。しかし、こうした事例が相次ぎ、自治体の要望もあり、環境省が見直しに着手したとされる。

秋田県のアドバイス

秋田県は次のような対応策をホームページで示している。

  • 単独行動を避け、できるだけ複数で行動する
  • ゴミは必ず持ち帰る
  • 持ち物が奪われた・後をつけられたなど、積極的に人に接近するクマと遭遇した場合は、必ず市町村もしくは警察に通報し、情報を共有する

積極的に人に接近するのは特定の限られたクマであり、ほとんどのクマは人の気配を感じると逃げるので、鈴やラジオなどの音出しは有効な事故防止策です。県内で発生した大半の事故は、鈴やラジオなどを持たずにクマと鉢合わせをした結果、起きています。入山可能なエリアでは、音を出すことで鉢合わせによる 事故を避けましょう。

もしも、クマと遭遇してしまったら

  • ゆっくりと後ずさりしながらクマとの距離をとり、静かにその場を立ち去りましょう。背中を見せて走って逃げてはいけません!
  • 住宅地では建物や車の中に避難しましょう。避難が間に合わない場合は、攻撃を受けづらくするため、電柱や塀など、自分とクマとの間に遮蔽物を挟みましょう。
  • 万が一襲われそうになった場合、クマを退けるためにクマ撃退スプレー(強力なトウガラシスプレー)が有効です。避難先やクマ撃退スプレーが無い場合は、顔や首を守る防御姿勢(下写真)をとりましょう。
秋田県:ツキノワグマ情報から引用

引用:秋田県ホームページ ツキノワグマ情報

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