廃棄物処分場とPFAS汚染 ― その解決策を探る

廃棄物処分場とPFAS汚染 ― その解決策を探る

発がん性、甲状腺疾患、胎児への影響ー―。健康への様々な悪影響が心配される有機フッ素化合物のPFAS(ピーファス)。4,700種あるといわれるPFASの中で、PFOA(ピーフォア)とPFOS(ピーフォス)の合計値を1リットル当たり50ng(ナノグラム、ナノは10億分の1)とする水道水質基準が決まり、2026年4月から実施されています。自治体などの水道事業者に、50ng以下の供給が義務づけられたことで、PFAS対策は一歩進んだといえるでしょう。

PFOAは、フライパン、衣類、化粧品など様々な製品に、PFOSは、空港などでの消防用の泡消火剤などに使われてきました。この2つは国際的に製造・使用が禁止されています。しかし、最終処分場に埋め立てられたPFAS含有破棄物や、工場・事業所からの排水が、河川や地下水を汚染する事例が、なお続いています。

このため、研究者や環境市民団体から、「水道水の規制だけでは解決しない。汚染源からの流出を止める規制がなく、垂れ流しが容認されている」と、新たな規制を求める声が高まっています。PFASは体内に取り込まれると、分解せずに蓄積するため、次世代の子どもへの影響も心配されます。PFAS汚染を止める手はないのでしょうか。

ジャーナリスト 杉本裕明



全国の市民団体が、政府に署名簿提出

PFAS問題に取り組む市民グループ、市民でつくる「つながろう!PFAS法規制にモノ申す全国ネット」は7月13日、環境省、農水省、こども家庭庁に、PFASの水道基準値の見直しと、妊産婦への血液検査を求める6万909人の署名簿を提出した。

環境省と子ども家庭庁に署名簿を手渡す「全国ネット」の人たち
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

会場となった第二議員会館には、大阪府、沖縄県などから約30人の市民が参加した。PFASの水道水の水質基準は50ng/Lと決まり、2026年4月から全国の水道にこの基準が適用された。給水する自治体などは、年4回給水する水道水検査をし、数値の高かった浄水場では、活性炭の除去装置を新たに導入し、対策をとっている。

「まずは基準を守りリスクを下げることが重要」と国

この日の集会では、呼びかけ人代表の長岡ゆりこさんがネットを代表して、政府の対応を質した。米軍基地を汚染源とする沖縄県やかつてPFASを製造していたダイキン工業の工場のある大阪府の市民らは、妊産婦の不安が大きいことを訴えた。

参加した女性は、妊産婦が抱える不安を訴えた
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

「水道水質基準が定められたのは一歩前進だが、他国に比べて数値が甘い。血液検査もごく限られて行われているだけで、汚染された地域で、調べてほしい。汚染のあったイタリアのベネト州では行政と市民が話し合いながら調査計画をつくり、取り組んでいる。日本もそんなやり方を見習ってほしい」と要望した。

これに、環境省の吉岡圭子環境管理課長は「みなさんの不安なお気持ちは理解します。水道水の規制値は多くの専門家により審議され、数値が決まり、4月に施行されたばかり。この規制が実施され、水道事業者はみな、基準を守ろうと努力しています。河川と地下水は(環境基準にする前段階の)指針値を2025年に決めました。要望のあった水道水質基準をゼロにするというのは、これまで国内でほとんど例がないが、新しい知見があれば検討していきたい」と話した。

市民団体の要望はかなえられなかったが、PFASを削減し、国民の健康リスクを減らしたいという点では、市民も官僚も共有していることが確認された。

汚染隠した自治体

全国の河川からPFASが検出され、対応を迫られたのは、水道水を住民に供給している自治体だった。どう対応したのか。岐阜県各務原市の場合を見る。

各務原市の中心部に給水していたのは、4つある浄水場の中の三井(みい)水源地。市民の半数にあたる約7万2千人が利用する。自衛隊の航空基地のすぐ近くにある。2020年11月、市が市内の浄水場で原水(塩素処理する前の井戸水)を検査したところ、製造と使用が禁止されているPFOAとPFOSが合わせて1リットル中99ngを記録した。各務原市は、大半を地下水からの取水に頼っている。

汚染された井戸が閉鎖されている各務原市の三井第二水源地
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

その年に、厚生労働省がPFASのうちPFOAとPFOSを水質管理目標値として50ngを設定、水道事業者に検査を求めていた。心配した市は翌年5月に、他の浄水場も含め、取水している27本の井戸水を調べたところ、550ngを最高に、軒並み高い数値を記録した。このため特に高い値を示した井戸一本だけ取水停止した。

岐阜県が立入調査し、事情聴取

当時、厚労省は、継続的に基準を超えた場合には同省に通報を求めていたが、市は「対策もたてずに公表すると、市民に混乱を招きかねない」(水道施設課)と、公表も同省への通報もせず、県にも知らせなかった。翌年、PFASを除去するための新たな施設の設置を検討すると共に、4本の井戸の取水を中止した。

隠していた汚染を公表せざるをえなくなったのは2023年7月。岐阜県庁に、県民から、「各務原市が隠している」との通報があった。県水道計画で、県内の市町村は検査結果を県に報告することになっている。県薬務水道課技術主査は、翌日三井水源地を立入調査、市水道施設課長に質した。筆者が入手した会議録からやりとりを再現する。

県「大変驚いている。現時点の状況や今後の対応を聞きたい」

市「2017年か18年ごろに市民からPFASに関するメールが届いた。当時はその物質の認識すらほとんどなく、検査も行っていなかった。2020年に原水の検査をしたところ、99ngがでた」

「誠に遺憾」と異例の通知書

県「市民への発表はどのように考えているか」

市「対策案もない状態で発表するといたずらに不安をあおるだけ。対策ができる目処がついたら発表したい」

県「汚染源の特定はしているか」

市「航空自衛隊岐阜基地の周辺には工場が多数あり、原因は特定できていない。岐阜基地に現状を伝えてある。2回うかがったが、リアクションがない」

なぜ、県に報告しなかったのかと問われた市は、「県が求めているのは供給する水道水。市が測定したのはその前の原水だからしなかった」と答え、県職員をあきれさせた。市は、塩素消毒し、原水を水道水として供給していたが、これではPFASを除去できないからだ。

県「副知事までレクを行う。市から報告書を出してもらうかもしれない」

二日後、県から市長宛に「水道事業の適切な管理について」と題する通知書が発出された。汚染の事実を公表せず、県に報告を怠ったこと、汚染対策を講じていないことをあげ、「誠に遺憾」と批判。検査結果の公表、市民への丁寧な説明、必要な対策の実施を指示し、「改善計画書」の提出を命じた。

三井第二水源地の水処理装置に急遽、活性炭が組み込まれた。PFASを除去している。担当者は「PFASの濃度を落とすために懸命に取り組みました」と語った
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

県に指導仰いだ記者会見の想定問答集

翌日、記者会見することになった。市は、記者の質問に答える「想定問答集」をつくるため、岐阜県に指導を仰いだ。素案を送ると、まもなく県の担当者からメールがきた。「少なくともこれぐらいのQには応えられるように」。20項目以上の新たな質問項目が並んでいた。

翌日の早朝にかけ、やりとりして完成させると、記者会見に臨んだ。会見場に浅野健司市長の姿はなく、磯谷均副市長が「認識不足だった」。想定問答集に沿い、会見が進んだ。

市の検査では、高濃度汚染は、工場・事業所から排出されるPFOAでなく、主に泡消火剤に含まれるPFASとわかっている。市の消防署に使用履歴がなく、元凶は航空自衛隊岐阜基地が疑われた。三井水源地のそばにある。岐阜基地は「2010年度以降は使用しておらず、2023度末までに処分する」と市に伝えた。だが、基地内の井戸水の検査には協力はしても、泡消火剤の詳しい管理状況は明らかにされず、独自の地下水・土壌調査もされていない。

市のデータ隠しに、市民の批判が高まった。2023年8月の1か月だけで、市への問い合わせや抗議が1,000件を超えた。「PFAS汚染からいのちの水を守る各務原市民の会」代表の今尾明美さんらが、小中学校に浄水器を設置するよう市に要望し、市が設置することになった(三井第二水源地で活性炭処理後は撤去)。

今尾さんらは、原田浩二京大准教授(現京都府立医科大教授)に協力を仰ぎ、血液検査を実施した。三井水源地の水道水を使っていた100人の平均値は32.2ng/mgと、他の水源地の水道利用者の3倍近くになった。米国科学・工学・医学アカデミーが、摂取量の削減や病気の検査を進める指針値(7種のPFAS合計値)の20ng/mgを大きく超えた。

今尾さんは「汚染が隠されたまま、市民は高い濃度の水道水を摂取し、汚染が進んだ。市は浄化施設を建設し一歩前進だが、安心できない。市には学校への浄水器の再設置を要望し続けています」と話す。

3省庁に提出した要望書の効果は?

ところで、浅野市長は、2023年9月と翌年3月の二度、厚労省と環境省に、防衛省にも24年3月に要望書を提出している。これを巡っては、事前に提出先の官庁と市が文面を調整した上、提出されていた。

例えば、防衛省への意見書案では、(汚染された基地内の)「土壌調査」を求めるとしたが、基地を所管する東海防衛支局から「土壌」の文字を削除することが可能か検討を求められ、「土壌」を抜き、さらに「調査」の文言もなくなった。最後には「基地内調査について」という項目が、「調査協力について」に代わり、「(市の)調査へのご協力、貴省による情報提供」などによる対応を要望するとなった。

各務原市の中心部に位置する航空自衛隊岐阜基地。中には入れない
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

環境省からも「要望内容も含めて国と市で調整をし、市民の方々に国との連携が伝わるような形にする必要があると環境省では考えるため、内容が固まる前にしっかり協議いただきたいというお話があった」(仲介した岐阜県のメール)。こんな「事前調整」をしていたら、要望書の意味がないのではないか。

新たなPFAS除去装置の設置へ

一方、市は、2023年夏、三井水源地周辺の44の井戸で調べると、13の井戸が50ngを超えた(最高値は450ng)。さらに全域に広げ95か所で調べると、5か所が新たに超過した。超過した井戸は基地を取り巻くようにあり、基地の西部に集中していた。

参考:各務原市 各務原市の PFOS/PFOA に関する専門家会議(第3回)

市は有識者による対策委員会を設置した。汚染の評価とともに、新たに導入するPFAS除去方法の選定と評価を担った。その結果、浅野市長らが視察した米国カリフォルニア州の自治体にあったイオン交換樹脂を除去方法として選択された。三井水源地に9億6,000万円かけた施設が、2027年3月から稼働する予定だ。

高濃度の地下水汚染は残る

安全な水を市民に供給できるめどはついたが、地下水の汚染は続いている。これをどうするかは、地元の大学教授らによる専門家会議の議論に委ねられたが、市は既存の地下水調査の結果を示すにとどまり、年一回の会議とあって審議は前に進んでいない。汚染源とみられている岐阜基地が、自主的に行っている調査データを市に提供しないのでは、限界があるのは当然かもしれない。

東京都も、府中市など多摩地域の浄水場で、取水する原水が汚染されていることがわかっても、長い間公表しなかった。汚染された井戸水の揚水をやめ、利根川の水を利用する措置がとられた2020年になって、汚染の事実が公表された。データを公表してこなかった都は都民から批判されたが、各務原市はこうした事実に無頓着だった。

一方、都の浄水場のある府中市では、市の11井戸のうち3か所で50ngを超えている。米軍横田基地が汚染源とみられるが、汚染源に迫る調査も削減対策もされていない。

「規制値をもっと厳しく」と要望

人の健康に直結する水道水の対策がひとまず終わった段階だが、米国やドイツなどでは、規制値の見直しが行われ、日本よりはるかに厳しい規制値が採用されている。このため、市民や研究者から、水道水質基準の強化を求める声が高まった。さらに河川や地下水の汚染を防ぐために、環境基準と、排水を河川に流す工場・事業所・廃棄物最終処分場の排出基準の設定を求めた。水道水だけ規制しても、河川や地下水が汚れたままでは、水道事業者が対応を迫られ、そのためのコストを、責任のない利用者がかぶることになるからだ。

汚染源は3つ

汚染源としては、①かつてPFASを製造していたり、PFAS含有の製品を造っていた工場・事業所、②泡消火剤を保有している空港、基地など、③PFAS含有廃棄物を受け入れてきた埋め立て処分場の3つがあげられている。

河川や地下水の汚染を止めるには、水質汚濁防止法で環境基準を決め、事業者への排出基準を決めないと、自治体が汚染源を突き止めようと、立入調査しようとしても、権限がなく難しい。京都府の担当者は「法律で規制してくれれば、立入調査し、違反があれば指導することができる。いまは、業者に対策をとってくださいとお願いするだけ」と言う。

PFAS廃棄物は最終処分場へ

処分場をめぐるPFAS汚染が大きな問題になったのは京都だった。2023年12月福知山市が芦渕浄水場の水道水から75ngが検出されたと公表した。浄水場の水源は地下水で、旧三和町に給水している。

市は「一時的に超過したものであり、飲料水としての使用は問題ないと確認しています」「関係機関と、原因調査と低減策について、調査をただちに行い、住民説明会を行う」と沈静化をはかったが、住民の不安は収まらなかった。住民らは、すべての浄水場(10施設)の水道水と土師川の6支川の水質検査を要望、相談を受けた京都大学の原田浩二准教授(現京都府立医科大教授)が協力した。12月に出た流域6カ所の数値は、のきなみ高かった。

京都環境保全公社の瑞穂環境保全センターの規模は大きい
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

処分場は猪鼻川の上流に位置し、処分場の上流では不検出だが、下流でPFOA71.3ng。PFHxAが1190.2ng、PFPeAが310.0ng。さらに下流ではPFOA2.8ng,PFHxA29.3ng、PFPeA9.8ngと、処分場の放流水が強く疑われた。

京丹波町はセンターの放流水を調べ、2024年6月1日に67ng、8月1日に71ngを検出した。公社が、2023年9月から11月まで1週間に1回放流水を調べると、11月に92ng,280ngと急上昇した。そこで11月20日から1か月に1回だった活性炭の取り替えを2週間に1回に増やすと、6.5ngに下がり、12月は1ng未満になった。こうして2週間に1回の活性炭の交換と検査した数値の公表が決まった。

活性炭処理を強化し、基準値クリア

筆者は、2025年春、現地を訪ねた。処分場は福知山市の境界に近い京丹波町の山地にある。埋立容積が200万立米を超え、かなり大きい。そこから下流に300メートル行くと、水処理施設があった。活性炭で除去する仕組みで、取材当時は1基だったが、その後増設し、2026年2月から3基体制をとっている。

このように多額の費用をかけて対策を行ったのは、地元の協議会の存在が大きい。公社と協議会の話合いで、50ng以下の放流をすることが決まり、公社はそれを守らざるをえなくなった。もし、河川の環境基準が50ng、排水基準が500ngに定められていたら、10倍緩くてもよかったかもしれない。

下流の浄水場が対策を迫られた

一方、PFAS汚染のあおりを受け、10キロ下流の福知山市も振り回された。同市三和町にある芦渕浄水場の浄水(水道水)が2023年10月に75ngを記録した。市は、地下水を芦渕浄水場に送っている第二取水施設に活性炭処理施設を5,800万円かけ、2024年11月に稼働させた。

市の上水担当者はいう。「三和町に供給する芦渕上水場は地下水を汲み上げている。自然由来のマンガンが高いので、除去装置を設置し、色と臭いを取り、塩素消毒して供給していた。今回、タンクを設置し、活性炭で吸着させることになった。PFASはほぼゼロです」

第二取水施設に設置した活性炭濾過器(福知山市)
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

綾部市では高濃度のPFAS検出

同じ京都府で、なお未解決なのは、綾部市のケースだ。2025年9月、綾部市の住民らでつくる「あやべPFAS汚染から健康を守る会」は、京都府に、流出防止対策と汚染調査を求める署名1,161人分を提出した。PFASを含む処分場の浸出水が河川を汚染している。

原田京大准教授が、河川水を分析したところ、犀川、天野川の2河川で高濃度のPFASが検出、天野川では最高6,300ngになった。排出源とみられる産廃処分場の放流水は49,000ngの高濃度だった。綾部市はホームページで、京都府の調査結果を掲載した。同様の傾向だった。

京都府が、2023年9月に公表した綾部市のPFAS調査結果。犀川支流が高濃度で、汚染源と見られる産廃処分場に活性炭での除去を要請、業者は対応したが効果がなく、逆に上がっている。京都府は環境省の国立環境研究所に相談したが、効果のある対策は示されず、汚染は放置されている
参考:京都府 河川における有機フッ素化合物の検査結果について(第2報)

天の川上流の処分場は、民間業者の管理型処分場で、1.4㏊、埋め立て容量14万立米と小さい。2004年5月~2023年11月まで稼働し、埋め立て終了後は、水処理装置だけが動いている。規制値のある重金属などを除去し、基準内にして放流している。

期待外れに終わった国立環境研究所訪問

PFASを削減するためにどうするか。2023年10月11日、京都府の環境管理課長と中丹東保健所の環境衛生課長ら3人が、茨城県つくば市にある国立環境研究所を訪ねた。鈴木規之企画部フェローが応対し、環境省環境管理課のPFAS対応チームの職員も同席した。

府側は、発生源の処分場対策と、原因究明、農作物、地下水への影響について、アドバイスを求めたが、鈴木フェローは「適した活性炭の追加、使用量を増やすことで除去できる。具体的な設計は水処理メーカーと相談したらよい。原因究明は容易ではない。土壌から農作物への移行はごくわずか」と一般的な話に終始した。

同月21日、3人は再訪し、PFASを扱う部署の倉持秀俊副資源循環領域長ら5人に向き合った。国環研側は「(活性炭で処理しても除去できないのは)活性炭塔に水が流れていない可能性がある。接触面積や流速は適切か」と助言、清水建設が取り組んでいる泡沫分離法を紹介した。「現場視察と水質測定をし、事業所に適した水処理方法の検討、提案をしたい」。結局、国立環境研究所は、現地を視察し、採水しただけにとどまった。

保健所は10回業者を説得した

高濃度を記録した綾部市の最終処分場について、府の中丹東保健所の技術次長は2023年から2024年まで計10回、業者を訪ね、交渉している。PFASを測定した濃度を伝え、活性炭での処理方法について助言し、対策を促した。綾部市も数回同行した。会社は最初担当者が応対していたが、次長の熱心さに負け、社長が出てくるようになった。

「法的規制はないが、さらなる低減対策の実施について検討をお願いしたい」(2024年4月)

「活性炭の交換頻度を増やすなどの対応を検討いただけないか」(同年7月)

これに対し、社長は否定せず、やりたいのはやまやまだが、費用対効果でと、首を縦にすることはなかった。技術次長は「会社は全面拒否ではない。必要性は理解してくれた。しかし、法規制もないのに、費用を負担するということを、簡単には決められないと思う」と語る。

処理業者にも言い分がある

ある処分場経営者は、筆者に、「PFAS含有廃棄物を持ち込んだ排出者に責任があるのに、なぜ、産廃業者が処理責任を負わなければならないのか」と語る。廃棄物を調べても、汚染廃棄物を特定するのは困難で、一手に排出責任を問われる。

熊本市では、市の北部にあたる白川、植木地区の多数の井戸水が50ngを超えるPFASが検出された。市は飲用を控えるよう周知した。同時に井戸に近い井芹川上流を調べると、多数の地点で50ng超えた。近くには産廃処分が8か所(7業者運営)があり、処分場からの浸出水(原水)と川への放流水を調べると、7処分場で50ngを超え、うち3処分場で500ngを超えた。最高は3,500ngだった。

参考:熊本市 第1回 熊本市有機フッ素化合物 対策専門家会議

「PFASを規制する法律がない」と委員

熊本市は有識者による「有機フッ素化合物対策専門家会議」を設置し、2025年2月に会議を開いた。

川越保徳・熊本大学教授「対策費用は事業者が負担するのか」

事務局「基本的には事業者。設備の設置に補助という考え方もあるが、維持管理、ランニングコストまで含めることは難しい。事業者とコミュニケーションをとりながら進めて行きたい」

川越教授「排水中のPFASを規制する法律がない。そもそもまだ義務がない。国は早く立場をしっかりと決めて示さないと。今回事業者は協力的だが、全国的にあちこち出てくる」

平田健正会長(和歌山大名誉教授)「土壌も水も排水をする時の基準がないと対策ができない。厳密な基準でなくともよいから、ガイドライン的なものは考えていかなければいけないと、環境省には言っている。少なくとも対策した時の水や土壌の濃度をどうするのかは決めないといけない」

市は、とりあえず500ngを浸出水の目標値とした。

処分場の周りに側溝つくり雨水流入防止

熊本市は、最初、雨水の流入・浸透を防ぐために処分場の上部を遮水シートでキャッピングし、処分場周辺に側溝を整備する対策を考えていた。しかし、キャッピングは、事業者から稼働中を理由に断られ、側溝の整備だけになった。濃度が下がるか不明だが、浸出水の量は減りそうだ。

工事費用は、熊本県が県内で産廃を処分場に持ち込む工場・事業所が県に払う産業廃棄物税から1億円をあてることになった。県の担当者は「汚染物質が排出され、河川が汚れているのだから、河川を少しでもきれいにすることを目的とした。そのための側溝整備の費用を県が市に補助することにした」と語る。産業廃棄物税は多くの道府県で導入されており、他県も見習うべき方策といえる。

製造企業に対し、住民が公害調停

ダイキン工業淀川製作所(大阪府摂津市)周辺住民ら803人が、大阪府公害審査会に、ダイキン工業を相手にした公害調停を申請したのは2025年12月。住民らは、ダイキン工業淀川製作所に対し、同社のPFAS汚染に関する一切の情報開示と継続的な環境調査・健康調査の実施、個別の対策や被害補償の枠組み作りを求めている。

ダイキン工業は、製造を中止する2012年までPFOAを使用・製造し、その間、河川、大気など環境中に放出していた。住民団体共同代表の和田壮平さんは、「昔は大気汚染などの公害で住民が苦しめられ、いまはPFASの汚染に不安が募る。同社は構内で地下水を汲み上げ、浄化しているが、効果は限定的で、地盤沈下すら招いている。すべての情報を提供し、真摯な態度で住民に向き合ってほしい」と語る。

大阪府の水質調査結果(2025年11月)。製作所周辺のAとBが高濃度だ
有機フッ素化合物(PFOA等)に係る水質調査結果(令和7年11月)について

二次申請を含めると1,031人になり、和田さんらは、さらに申請人を増やそうと運動の輪を広げている。26年7月1日には、第1回の調停があった。

公害調停は裁判と違い、公害審査会がお互いの言い分を聞きながら調停を進める制度だ。巨大産廃不法投棄事件の豊島事件で、島民らが、原因企業と香川県を相手取り、国の公害等調整委員会に裁定を求め、解決したことで知られる。

ダイキン工業淀川製作所は1942年に開設され、1960年代後半からPFOAを他社から購入、1980年代から製造している。2009年に敷地内の汚染された地下水の浄化を始め、2012年に製造・使用を終了している。

ダイキン工業淀川製作所の周りに建てられた遮水壁。「大阪PFAS汚染と環境を考える会」の長瀬文雄事務局長が「汚染された地下水が構外に漏れないように行われましたが、不十分です」と語る
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

同社は「2023年11月に敷地を周辺の住宅・農地と隔てる遮水壁を建設、2025年1月に新しい浄化設備の工事を始めるなど、対策をとっている」と説明する。ホームページでも取り組み内容を紹介している。

参考:ダイキン工業株式会社 PFASに関する当社の取り組み

しかし、効果は限定的で、摂津市民らの血液中のPFAS濃度が、他の地域住民に比べて突出して高いことがわかっている。住民らの不安はおさまらず、今回の公害調停になった。

環境行政を前に

PFAS汚染について、環境省も傍観しているわけではない。測定法が確定していない土壌の測定法の開発に取り組んだり、事業者が提案したPFASを削減する手法について実証実験を行い、評価した技術集を6月に公表したりした。担当者は「事業者に利用してほしい」と言う。

しかし、基準作りには慎重だ。担当者は「基準をつくり、規制しても、製造・使用禁止になるまでに使っていた事業者は無数。汚染があっても排出者にたどり着くのは難しいし、削減対策も容易ではない」と語る。環境基準の設定に、他の官庁の反対が予想されることも大きい。

しかし、基準なしでは、垂れ流し状態が続く。消極的な意見だけ聞いていては、環境行政は前に進まない。まずは早急に処分場に対するガイドラインを策定し、環境基準の検討を急いでほしい。

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