廃プラスチックの国内処理の現状とは?東港金属・福田社長に聞く
2017年末に中国へ廃プラの輸出が禁止されてから2年以上が経過した。その間、国内での処理量増加に伴う産廃処理費用の値上げや最終処分場のひっ迫感、また、代替国として東南アジアへの輸出量が増加するなど様々な動きがあった。コロナウイルスが猛威をふるい、世界経済が停滞するなか、産業廃棄物の中間処理を行う東港金属の福田隆社長に廃プラ処理の現状を聞いた。
現在の廃プラ国内処理状況は?
東港金属の福田隆社長。貿易統計によると、廃プラの日本からの輸出数量は、中国への輸出が可能だった2017年で年間約140万トン。その後、中国へ輸出が禁止され、2018年は年間約100万トン、2019年は約90万トンと減少している。つまり、中国輸出禁止前と比べ現在は、毎年新たに約50万トンの廃プラを国内処理しなければならない状況になっている。当然ひっ迫感が予想されるが――。
――現在の処理状況は?
意外にも現在の廃プラの処理量は落ち着いている。昨年までは、受け入れ量が増え、ひっ迫感を抱えていた産業廃棄物処理会社が多かった。例えば、東京の大手産廃会社では廃プラなどの廃棄物がヤード内で溢れかえっており、荷下ろしも間に合わないほどだった。多い時は荷下ろしに5時間や10時間待ちなどもあったぐらいだ。
2018年末がピーク。これは、国内の発生量増加に加え、昨年9月に大型の台風15・19号があった影響で、各地で多くの災害廃棄物が発生したことにもよる。そうした災害廃棄物の処理も含めて民間、公共の処理施設ともに昨年末はひっ迫感があった。しかし、今年に入ってから徐々に受け入れ量が減ってきて今は、処理能力と受け入れ量の需給がバランスしている。おそらく、コロナウイルスの影響と昨年の消費税増税などで国民の消費が落ち込み、一時的に廃プラの排出量が減っているのではないか。
――結果的に良かった?
確かに、昨年のひっ迫感を考えると廃プラ処理にとっては良い環境だが、別に根本的に何かが解決したわけじゃない。国内の処理能力に変わりはない。廃プラの量が特殊な要因で減っているだけだ。今後、コロナが収束し、また景気が良くなって排出量が増えてくればまた、全国の処理会社はひっ迫するだろう。もちろん今でも焼却処分場(広義の意味。サーマルリサイクルも含む)に余力があり、どこでも出せるという状況ではない。
廃プラ処理、今後の課題や解決にむけて
――今後の処理については?
2020年度の環境省の廃プラスチック関連の予算は前年度に比べ104億多い188億円となっている。廃プラ処理施設の導入支援で補助金が出る政策にも力を入れている(CO2型リサイクル等高度化設備導入促進事業)。環境省の方に話を聞くと全国の民間会社で廃プラ処理設備に関わる進行中のものや計画しているものを合わせて、たぶん関東地区から出荷できる先として、青森とか近畿ぐらいまでで20ぐらいプロジェクトがあると聞いている。単純な焼却処分施設から、サーマルリサイクル、ケミカルリサイクルなどの施設まであるという。
しかし、その中でも稼働するのは早くて2年後らしい。ほかの大半は5年後、下手すると10年後になる。それまでの間どのようにして凌ぐかが目下の問題だ。また、新しく産業廃棄物処理の施設を作るのは、周辺住民の理解を得ることが難しい。例えば、産廃処理大手の大栄環境(神戸市)が静岡県御前崎市に大規模産廃処理施設の建設計画を立てていたが、昨年12月に住民投票で否決されてしまった。しかも反対投票は9割に及んだ。そうした問題などもあり、全てが計画通りにいくかは分からない。まぁ、それでも20のうち7割ぐらいが計画通りに作られれば年間増えた約50万トンの廃プラ処理は可能になると思う。
――廃プラがひっ迫してヤードに滞留した際に懸念される問題点は?
一番心配されることは、火事だ。景気が回復して、相当在庫が増えたときは処理が追い付かずヤードに山積みにする期間が長くなる。その際に火事が発生する危険性がある。原因は電池。近年はリチウムイオン電池が内蔵された製品などもあり、それが廃棄物に紛れ込んでいる可能性がある。重機などでハンドリング(掴んで持ち上げる)しただけでそれらは発火して火事になってしまう。相当気を付けても難しい。現に昨年、廃プラなどの廃棄物がひっ迫していたときはヤード内の火事が多かった。ニュースでも大きく報道されていた。
また、新聞沙汰にはなっていないが、小さな火事も周りで多くあったようだ。ほかに、ひっ迫した時に心配されるのはシュレッダー材だ(廃棄物の中に金属類が多く混入しているもの。シュレッダーと呼ばれる破砕機にかけ、選別などを行い、金属分を取り出してから処分する)。大型のシュレッダーを持っている会社自体が全国に少ないし、処理する際に発生するシュレッダーダストの処分費用が大きく値上げしている関係で、フルで稼働できない会社も多く、押し付けあってしまう可能性がある。
本社工場にある圧縮梱包機。――貴社の月間の処理能力は?
今、月間処理量は混合廃棄物で3,000トン。先ほど話したシュレッダー材も5,000トン処理している。シュレッダー材は、金属類が55%、ダストが45%程度の割合だ。選別機の設備投資などを行い選別技術の向上に努めている。
中国以外の廃プラ輸出動向
2019年5月にスイス・ジュネーブで(※)バーゼル条約第14回締約国会議が開催され、「汚れたプラスチックごみ」を同条約の規制対象とする改正案が採択された。対象となる廃棄物の判断基準や範囲を示す付属書の改正が行われ21年の1月1日から発効される。廃プラの輸出量は、中国への輸出が禁止されたとはいえ、東南アジア向けが増え年間90万トンが輸出されている。今後、廃プラを輸出する際には相手国の同意が必要になる。
※バーゼル条約=一定の廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組みおよび手続等を規定した条約のこと。
――輸出が厳しくなる?
バーゼル条約の規制対象になったため、廃プラをOECD加盟国に輸出する場合は、対象品目なので出していいか?そちらで適正に処理できるか?とお互いの国の環境省の同意が必要になった。そのため、対象になったから輸出が全くできなくなるというわけではないが、厳しくなるは確実だ。
――付属書について
改正された付属書はⅨとⅡ、Ⅷがある。Ⅸは、リサイクルに適したきれいなプラスチックごみで「規制対象外」。Ⅷは、有害な廃プラで輸出ができない。ⅧとⅨの間にあるのがⅡ。これは、汚れているがリサイクルできる部分があるもの。ⅡとⅧは、今後輸出する場合お互いの同意が必要な「規制対象」となる。
ただ、これは判断が難しい。汚れているのか、汚れてないのか。例えばジュースが付着したものだとだめなのか?など。そういった定義の部分は各国に委ねられているため、日本でも検討会が開かれ、今後話し合いが行われていく。主に、これはⅡに入るのか、Ⅸに入るのか、つまり「規制対象」なのか「規制対象外」なのかを話し合うだろう。例えば、ペレット加工したものは良いが、フレーク(細かく破砕しただけのもの)は駄目なのか?未加工品は?処理すれば出せるのか?など定義は非常に難しい。
私も検討会に呼ばれているので、ベールだけをしたものや、臭気があるものなど実務者として様々な事例について発言していこうと考えている。PSABSミックスなどもⅡに入るのかⅨに入るのかが不透明。PSABSミックスは、廃家電類を破砕選別すると発生する廃プラ。家電を粉砕し、水選別でPPとPEを浮かして取り除く。残ったものでゴムとか余計なものを飛ばすと、PSABSミックス(ポリスチレンとABS樹脂が混ざったもの)が残る。PSABSミックスは、輸出されることも多い。現地で選別して使い道があるが「規制対象」になれば今後輸出が難しくなるかもしれない。
――国内リサイクルが重要になってくる?
もちろん、そうだが、日本はプラスチック製品の品質基準がかなり厳しい。そのため、廃プラからリサイクルして製品を作りづらい側面がある。一方、中国では今まで何十年も廃プラから製品を作り続けてきた。その結果、中国のリサイクル技術は上がり日本のリサイクル技術が遅れることになってしまった。静電分離方式の選別技術だって日本ではまだ馴染みが薄いが、中国のリサイクラーでは普通に使いこなしている。国内のリサイクル技術を高めることは急務の課題だ。
廃プラを廃棄するのではなくリユースする世界へ
ReSACOについて説明する福田隆社長。同社のグループ会社であるIT会社トライシクルでは、ReSACO(リサコ)というBtoBの中古品の売買を可能にするマッチングサービス を開発し、2019年1月からサービスを開始している。また、千葉工場(千葉県富津市)近くにはReSACOリサイクルセンターという7万6,000㎡におよぶ中古品置き場も構える。
――ReSACOの狙いは
中古品を捨てる前にリユースするという流れは世界的になっていくと感じているためだ。中古車市場などは成熟しているのに、企業間同士のオフィス家具などの売買の市場はまだまだ未発達。だから弊社としては、その受け皿になりたい。廃棄物として受け入れするもののなかにはまだまだ使えるものも混じって入ってきている。そうしたものをこのサービスを使って減らしたいという思いもある。
――ReSACOの事業は順調か?
実は少し苦戦している。ユーザー数も少し伸び悩んでいる。これは、売り手と買い手を両方育てていかなければならないからだ。例えば、売り手が増えた時に買い手のユーザーが少なかったり、反対に買い手が増えた時に売り手が少なかったりとなってしまうとすぐにユーザーはサービスを使わなくなる。そこで、新たに始めたのが無料回収サービスと、大手企業内で使用できるようにReSACOをカスタマイズするサービス。すると、ユーザーが少し増えてきた。
――無料回収した後は?
リサイクルセンターでリメイクして販売しようと考えている。例えば、廃棄されたサーフボードをテーブルにしたり、パイプ椅子の座面部位に木の板を取り付けたりと新しい商品に生まれ変わらせる。また、作るのは弊社の社員たちに担ってもらう。働き方改革も兼ねていて、社内副業という形でものづくり班を作る。趣味と実益を兼ねて、自分の好きなことができる新しい働き方を提供していきたい。若い人が買ってくれるようなオシャレな家具などを作れれば。
福田隆(ふくだ・たかし)
1974年生まれ、東京都出身。96年、成城大学卒業後、メーカーの営業職として従事。その後、外資系コンピュータ企業に転職するも、家業を継ぐために02年2月、非鉄金属リサイクル業を営む東港金属に入社。入社半年後に、父親である前社長の急逝に伴い、同社の4代目社長に就任(現任)。1,000馬力シュレッダーを有する千葉工場の開設、グループ会社としてIT会社のトライシクル設立など次々と新たな事業に着手し、業績を伸ばしている。リサイクルオタクチャンネルではユーチューバーとしても活動中。