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ネパールで氷河が崩落し、大参事 日本では、線状降水帯による内水氾濫や土砂災害 2つを結ぶ「気候変動」という糸

ネパールで氷河が崩落し、大参事 日本では、線状降水帯による内水氾濫や土砂災害 2つを結ぶ「気候変動」という糸

気候変動による災害が頻発化しています。ネパールと中国にまたがるヒマラヤの山岳地帯の一角で、2026年8月26日、氷河が氷解、巨大な土石流がボテコシ川を下り、河川沿いの集落、橋梁、水力発電施設を飲み込みました。これまでにわかっただけでも、ネパール側の死者は1,369人、行方不明者は5132人にのぼる大惨事となりました。行方不明の中には、多数の外国人が含まれており、ツアーに参加していたと見られる日本人5人(子ども3人と両親)が含まれます。

一方、日本では線状降水帯による局地的な大雨が、列島各地を襲い、連日のように場所を変える線状降水帯によって、内水氾濫が起き、住宅や道路、車が浸水しました。千葉県では死者13人が犠牲となっています。

地球温暖化によって気温が高まり、氷河が溶けたり、海水が温められ、水蒸気になって低気圧を呼び込み、線状降水帯を各地に生み出したりしています。さらに心配なのがエルニーニョ現象。今年は特に強く、それによって、来年の気温がこれまでにない高温が早くも予想されています。気候変動の脅威が、現実のものになっているのです。

ジャーナリスト 杉本裕明



「ネパールの友人たちはー」

「ネパールの友人たちは大丈夫だろうか」。土石流による大災害のニュースを流すテレビ画面に、近藤吉信さんは食い入るように見つめた。彼ら、大丈夫だろうか。

近藤さんは、自動車会社の元技術者。退職後、仲間を募り、ネパールの支援活動に取り組んできた。ネパールと日本の間を行き来し、ネパールの事情も詳しい。

2015年の大地震の時は、現地に行き、災害級支援に奮闘した。安否が心配で、何人もの友人にメールを出した。しばらくして返事がきた。

「私はカトマンズにいたので大丈夫です。安心してください」

被災地は、首都カトマンズから北に100キロ離れた地域。ネパール側の氷河が、標高5,200メートルの地点で崩壊、氷河と岩盤が土石流となって川を下り、標高1,800メートルにある中国チベット自治区シガツェ市吉隆県の国境検問所をなぎ倒したという。その間には幾つもの水力発電ダムの検察現場や集落があり、それらを飲み込んでしまった。

上が災害前の現地・シャブルベシ村。下が災害後(近藤吉信さん提供)

近藤さんが言う。

「トレッキングが大好きで、現地を訪れたこともあります。ヒマラヤの景色はすばらしい。水力発電所があちこちにあり、工事現場では、中国人の労働者が働いていました。2015年に大地震があってから、何回か、氷河が崩落し洪水が発生しています。大事故が起きないかと、心配していたのです」

近藤さんが提供してくれたのは、2011年に訪問したシャブルベシ村の写真である。中心部を、宿泊したロッジから撮影したという。今回の土石流で跡形もなく流されてしまった。

近藤さんは、ロッジにいた子どもたちに2011年に起きた東日本大震災の話をした。子どもたちは、英語とパソコンを上図に使いこなし、「Tsunami」の言葉も知っていた。

シャブルベシ村のロッジで、子どもたちが、パソコンで学習していた(近藤吉信さん提供)

「みな、人懐っこくて,日本人の私に彼らから話しかけてきました。教えられる方が多かった。いまごろは、成長し、年頃の娘さんになっていたでしょう。彼女たちの安否が心配です」。近藤さんは思いをはせた。

募金呼びかけるNPO法人

NPO法人地球の木(事務局・東京都)の理事、乳井京子さんも心を痛める。地球の木は、ネパールのNGOなどと連携し、ネパールで教育の支援活動に取り組んでいる。乳井さんは、約10回ネパールを訪問し、教育を受ける環境にない子どもたちを援助する活動を続けてきた。

「ネパールでは、地球温暖化が進み、災害の危険性が指摘されていました。先進国の排出削減を求めて、デモ行進も行われていました。ネパールの外相が、温室効果ガスの大量排出国の名前をあげて、損害を賠償するよう訴えましたが、その通りだと思いました」

「地球の木」が募金呼びかけ

「地球の木」のホームページは、「被災地は『世界一美しい渓谷』と言われるランタン村やトレッキングルートなどがある有数な観光地でもあり、多くの外国人観光客も被害に遭いました」と紹介し、募金を呼びかけている。

参考:特定非営利活動法人 地球の木 ネパール洪水緊急支援募金のお願い

乳井さんは「シャハ大統領は、従来あった汚職一掃に取り組み、信頼できるので、政府の支援金活動を応援しています」と話す。ネパール政府に直接募金するほか、「シャプラニール市民による海外協力の会」と「プラン・インターナショナル」という2つの団体の募金も紹介している。

ネパール環境協会の分析

ネパール環境協会(NES)は、今回の事故について、「ボテコシ・トリスリ・フロード悲劇に関する調査報告書」を発表した。それによると、報告書は、会長の気候科学者、ビノド・バニヤ博士、低温層危険の専門家、ニテシュ・カドカ博士、洪水災害の専門家、アムリット・プラサド・シャルマ博士らの専門家チームがまとめた。

参考:Nepal Environment Society ネパール環境協会

報告書は今回の洪水を、こう分析している。

「2026年8月26日8時30分~9時15分、ヒマラヤ山脈の中国・ネパール国境沿いのボテコシ川、トリシュリ川流域で、ネパールのラングタン・リルン峰の北斜面で大規模な氷岩雪崩(氷と岩石の崩落)が起き、洪水となった。河川の水位を平均で100メートル以上上昇させた」

赤で囲ったところが、被災現場(近藤吉信さん提供)

「正確な発生メカニズムは解明されていない」とことわった上で、「レンデ・コーラに流入した氷岩雪崩が、融解水、岩石、堆積物、瓦礫を巻き込んで、連鎖的な現象を引き起こした可能性がある」

「衛星リモートセンシング画像や地表の変動を監視する装置によって、今回はかなり正確な情報が集まった。衛星の静止画像を見ると、ネパール・中国国境に近いラスワ地区のボテコシ川上流域のチョチェン川、チュスムドゥ川周辺、レンデ・コーラ川へと、崩落した標高の高い地域で広範囲に雪や氷が減り、下から地表が露出していた」

これまでも災害は何回も起きている

実は、ヒマラヤ地域では、こうした氷河の崩壊による「突然の洪水」が増えている。ネパール環境協会によると、インド側では2021年にチャモリ洪水、ケダルナート洪水が起き、ネパール側では、2021年メラムチ洪水が起きている。

協会は、「いずれも気候変動に起因する極端な洪水現象で、今回の洪水は、ネパールで記録された氷河の崩壊(氷雪崩)による洪水として最大級」という。

この氷河の崩壊の流れによって2つの湖ができた。これが決壊すると、二次災害の危険性があるとしている。こうした突然の洪水は、より規模が大きく、より頻度を増している。ネパール・ヒマラヤの氷河は地球温暖化によって融解のスピードを早めている。

監視と警報システムの充実訴える

ネパール環境協会は、また、国際的な支援を求めている。ヒマラヤ地域の安全確保と洪水災害に備えるために、気候と氷河の監視システムを強化し、能力を向上させることが必要だというのだ。

今回も監視機能はあったが、住民に知らせる警報システムは、時速180キロの早さで襲ってきた土石流に流され、機能しなかった。

協会は、「氷河圏や国境をまたぐ上流域の監視には、遠隔測定機能を備えた水文気象・氷河圏観測ステーションなど、下流域では、GSM(携帯電話網)を利用した受信局を備えた早期警戒システムの数と機能の大幅拡充」を訴えている。日本をはじめ、先進国がどう答えるか。

ネパール外務大臣が、温室効果ガスの大量排出国批判

「地球規模の気候変動の結果だ」。被災地を視察したネパールのカナル外相は1日、こう指摘し、温室効果ガスの排出量が多い中国、アメリカ、インドの名前をあげて、「歴史的責任がある」と補償を求めた。カナル外相は「ネパールは温室効果ガスの排出量が極めて少ないにもかかわらず、我々が引き起こしたわけではない地球規模の危機に対して大きな代償を払わされている」と主張している。その後、「特定の国から個別に補償を求める意図はない」と釈明しているが、国際社会に向けて一石を投じる役目を果たした。

カナル外相の発言の背景には、温室効果ガスの大量排出が途上国に大きな被害を与えるという予想が現実味を帯びていることがある。

国際的な支援体制が必要か

ロイター通信によると、ネパール政府は、地球温暖化による氷河の崩落が土石流を招いたとし、9月、「損失と被害」を支援する国連の基金に、2千万ドル(約30億7千万円)を要請した。

基金は、2022年の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で、途上国支援を目的に設立が決まったが、資金は思うように集まっていないという。ネパール政府は、国内の住宅、インフラなどの損失が25億6千万ドル以上と推計し、復興に最大50億ドルが必要としている。欧州連合(EU)によると、世界の温室効果ガスの排出量のうちネパールは0.08%しかない。

国際的な協力としては、「緑の気候基金」(2010年のCOP16で設立が決まった)による支援もあった。ネパールの氷河湖決壊洪水のリスクと被害の軽減を目的としたプロジェクトだった。

2018年から検討が始まったが、承認されたのは2025年7月。国際NGOの「FoEアジア太平洋」のミーナ・ラマン氏は「もっと早く承認されていれば、少なくとも早期警戒システムなどの対策を整え、壊滅的な被害を最小限に抑えられたはずです。このようなことは二度と繰り返してはなりません」と述べている(FoEホームページ)。

日本では、「線状降水帯」による被害が続出

線状降水帯とは、「次々と発生する積乱雲が列をなし、線状に伸びた地域に大雨を降らせる現象」(気象庁)。2014年に広島県で発生した集中豪雨から注目されるようになった。地球温暖化で海水の温度が上昇し、水蒸気が増えて積乱雲の多発化を招いている。

今年の夏は、以下の通り、日本列島各地で発生した。国土交通省の資料などから状況をまとめた。

千葉県(8月13〜14日)

千葉市、市川市、船橋市など広域に、レベル5の大雨特別警報。死者13人。内水氾濫で広範囲に浸水。24時間雨量は千葉市で367.0ミリ(観測史上1位)。

国土交通省 令和8年8月千葉豪雨に伴う河川の対応状況

石川県、富山県(8月27日)

羽咋市・志賀町・宝達志水町・中能登町・氷見市にレベル5の「大雨特別警報」。住宅浸水、道路冠水など。石川県羽咋市で317.5ミリ、富山県氷見市で12時間317.0ミリ(観測史上一位)

鹿児島県(9月3〜6日)

屋久島・奄美地方。屋久島町にレベル5の「土砂災害特別警報」。土砂崩れなど。屋久島町で24時間490.5ミリ(観測史上1位)。

愛知県、岐阜県(9月8日)

庄内川で「レベル5氾濫特別警報」。名古屋市内で冠水。地下鉄・市バス運休。帰宅困難者が大量発生。名古屋市で1時間104.5ミリ(観測史上1位)。岐阜県多治見市で1時間93.0ミリ(観測史上1位)。

テレビで、道路が冠水し、水没した車や、泥水のかき出しに苦労する住民の姿を見た人も多いだろう。この夏の酷暑とともに、気候変動による爪痕である。都市部では、雨水の排水路や下水管が処理能力を超え、さらに河川が想定以上の豪雨に耐えきれず、市街地や住宅地を冠水させる内水氾濫。地盤が緩み、土砂や土石流が滑り落ちる。こんな光景が、まるで日常茶飯事のように現れている。

世界気象機関(WMO)の警告

世界気象機関(WMO)は2026年3月、「世界気候の現状」の報告書を公表した。サブタイトルは、「今日を観察し、明日を守る」である。

「地球の温度は、温室効果ガスの大気中濃度が増加し、2024年には、過去80万年で最高レベルに達した」と書き始めている。以下、内容を要約しよう。

「地球の地表の温度(平均値)を見ると、過去3年間は、176年間の陸地と海洋を合わせた観測記録の中で最も温かい。2025年は、2024年の記録的な高温よりわずかに低くなった」

「長期に渡って観測している世界の基準となる氷河の質量(量)は、1950年以降、最もマイナスとなった上位10件のうち8件が2016年以降に発生しているという。南極とグリーンランドの氷床は、大幅に失われ、北極の海氷の範囲は1979年の衛星観測開始以来、減少し、2025年は観測記録の中で最も低いか、2番目に少なかった」

「温暖化による海温の上昇と、陸上の氷の融解によって、世界の海面水位が長期的に上昇している。しかも、その速度は早まり、陸地の温度を上げている。海洋は、各国が排出したCO2排出量の29%を吸収してきた。これは気候変動の影響を緩和する助けになる一方で、海水のpH値を低下させ、食料安全保障に影響を及ぼしている」

国連総長の呼びかけ

WMOの報告書発表の時、アントニオ・グテーレス国連事務総長は次のような声明を出している。

「この戦争の時代に、気候ストレスは、もう1つの真実を露わにしています。私たちの化石燃料への依存は、気候と世界の安全保障を不安定にしています。この報告書には、警告のラベルがつくべきです。気候の混乱は加速しており、これ以上遅らせることは致命的です」

国連環境計画(UNEP)は9月2日に報告書を公表した。地球温暖化により、今後数年以内に、産業革命前からの気温上昇が1.5°Cを超える見込みであるとし、世界が初めてオーバーシュート(超過)する時代に入ったという。世界はできるだけ早く、1.5°C以下に戻す努力をし、社会、コミュニティ、経済の気候影響に対する脆弱性を減らす必要があると指摘している。

参考:UNEP Limiting Overshoot – Navigating exceedance of 1.5°C and pathways towards return

ネパールのヒマラヤで起きた大惨事も、日本で起きた線状降水帯の多発と内水氾濫も「根っこ」は同じだ。日本で身近に災害の危機が起きている事象は、ネパールの氷河の大崩落と、一本の糸でつながっているのだ。

このような災害が起きた時の対処とリスク低減に取り組むとともに、どのように温室効果ガスの大幅削減を行っていくのかを、真剣に考える時である。

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